踊るスポーツマン
市内にあるスポーツクラブ内のチーム『カフェ・ラティーノ』による、ラテンダンスのショーも行われた。
■1000人以上がやってくる
今年も市内の大ホールで52回目スポーツマン舞踏会が行われた。毎年の恒例行事で主催は同市のスポーツ連盟。約1,200人が参加する。
プログラムは基本的にバンド演奏にあわせて、ホール中央で踊りたい人が踊る。その合間に市長やスポーツ分野も担当しているバイエルン州内務大臣、スポンサーの祝辞のほか、投票で決まる『イヤー・オブ・ザ・スポーツマン』『イヤー・オブ・ザ・スポーツチーム』の表彰。さらにヒップホップ、ラテンダンス、ジャグリングのショーが行われる。
加えて今回は今年に入って、急逝した元副市長に黙祷を捧げられた。同氏は長年エアランゲンの『スポーツ担当大臣』に相当する仕事もしていたからだ。
バンドの生演奏に合わせて踊る参加者たち。
■鹿鳴館の悲哀
社交ダンスといえば、アメリカのプロムパーテイを真似て日本で流行った時期もあるが、今日想像するのはリタイア夫婦の趣味や、競技としての社交ダンスだろう。
しかし、ドイツ社会を見ていると、警察、政党、学術、商工会議所など多くの分野で舞踏会が行われる。つまり社交様式として今日でも健在なのだ。もちろん『え、舞踏会?そんなもん、俺には関係ない』という人も結構いるが、それにしても教養として中高生の子供をダンスコースに行かせる親も少なくない。また結婚式のパーティでは『お披露目ダンス』をすることが多く、結婚前にダンススクールに駆け込むカップルもけっこういる。そのせいか、人口10万人のエアランゲン市でも、ダンススクールが2軒もある。
ひるがえってスポーツマン舞踏会は市内のスポーツ愛好家やトレーナー、クラブの運営者、スポーツ政策に関わりの強い市議、スポーツ局局長などが揃うが、いわば町の『スポーツの房(クラスター)』の社交機会でもある。こういう社交が地域スポーツ興隆の一端になっているといえよう。
余談ながら、こんなドイツの様子を見ていると、明治政府が近代化を目指して、社交ダンスに目をつけたのは、ある意味正しかったと思う。ただダンスの社会的文脈までコピーできないことが鹿鳴館の悲哀だ。
『イヤー・オブ・ザ・スポーツマン』を獲得したトライアスロンのアンニャ・ベラネックさん。でもちろん市内のスポーツクラブのメンバーだ。
■個人にとってスポーツとは何か?
ドイツのスポーツ文化の中心は学校などの部活ではなく、スポーツクラブだ。今日の日本でいえばNPOのような形態の組織だが、学校とは一線を画しているので、メンバーは子供から高齢者まで幅広く、また趣味や健康、仲間づくりなどが目的だ。大人にとっては労働に対する『余暇・社会的活動』、子供にとっては学業に対する『教養・社会性獲得』といったような対比をすると学校スポーツとは異なるクラブの役割が見えるだろうか。
もちろん中には俗にいう『競技バカ』『筋肉バカ』のような人物もいる。が、『スポーツをする自分』というのは数多くあるアイデンティティのひとつという印象がある。大雑把かつ、大時代的な表現をすれば、貴族やエリートの余暇・教養が大衆化したようなところを今日でも感じることがあるのだ。そして社交ダンスも同じような位置づけにあるように思う。
そのせいかバイエルン州の内務大臣も、市長も軽やかにステップを踏んでいる。そして知人のスポーツ愛好者で、どちらかといえば『競技バカ』のような印象を持っていた大学生の若者も彼女と同伴で、しっかり踊っている。この舞踏会、8時に始まり、翌朝3時まで行われた。同市には約100のスポーツクラブがある。(了)
『イヤー・オブ・ザ・スポーツマン』の表彰。
『スポーツ舞踏会』にふさわしい、テニスラケットのジャグリング・ショー。
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