スポーツが作り出す人間関係

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スポーツが作り出す人間関係

ドイツの柔道フェスティバルにて

2013年10月11日

執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)

先日、ケルンで行われた『柔道フェスティバル』を仕事で訪ねた。近年、ドイツでは外国にルーツを持った人たちとの共存をはかる社会的統合についての議論があるが、フェスティバルでひとつの『いいかたち』を見たような気がした。

■関心の順位

ドイツ国内のよその町へ行った時に、時々『どこから来ましたか』と聞かれる。『エアランゲンから来ました』というと、相手は一瞬、間をおき、『いや、そうじゃなくて、どこの国から来ましたか』と質問しなおす。アジア系の風体で下手なドイツ語。この要素だけで外国人として認定されるわけだ。

こういうことに対して気分を害するといったことはないのだが、それにしてもドイツ柔道連盟60周年を記念したフェスティバルでは雰囲気がひと味違った。随分いろんな人と話したが、『どこから来たか?』という質問に対して『エアランゲンから』というと、『へえー』で終わったり、『おっ、バイエルン州からか、俺はヘッセンからだ』といった具合だ。どこの国の出身かという質問はあるが、トップの質問にはなりにくい。

■日本、オリンピック、スポーツクラブ

理由はいくつか考えられる。まず同フェスティバル会場を見回すと、アジア系はほぼ皆無。『柔道とアジア人』というと9割以上の人は日本人だと考えるだろう。だからあえて質問しようとしないのではないか。

もうひとつはこの場がスポーツ分野であることも考えられる。ドイツのサッカーのブンデスリーガを見てもわかるが、ドイツ以外の国のルーツを持つ選手が多い。柔道フェスティバルの会場内ではナショナルチームの柔道選手など、トップレベルの柔道家も多く、彼らのなかには外国にルーツを持つ者もいる。また容姿からいえば、アフリカ系の人も目につく。そんな場なので、差別することなく、友情、連帯、フェアプレーを尊重するオリンピック的価値観がさり気なく浸透しているのかもしれない。

さらにドイツの特殊性も考えられる。日本柔道の特徴を『体育会系柔道』とすればドイツは『スポーツクラブ柔道』だ。スポーツクラブのメンバー同士は仲間意識が強い。フェスティバルの参加者はいうまでもなく、オーガナイザーやスタッフ、報道関係者もほぼ各自の地元のスポーツクラブで柔道をしているメンバーだ。

以上のことから、ルーツを分別しようという興味は前面にあまり来ないのかもしれない。

■なーるほど、これがスポーツの価値なんだ、という気がした

私はドイツで明らかに外国人だが、アジア人といえば中国人だと決めつけて声をかけてくる人がたまにいる。正直なところ、そういう人に対してインテリジェンスをあまり感じないし、視野の狭い人という印象を私は持つ。とある狭義のドイツ人(つまり、容姿は白人)が日本へ行ったところ、アメリカ人と決めつけて話しかけられることが多く、これにはムっとした、という話しを聞いたことがあるが、まあ、なんだかよくわかる話だ。またこの手の話はいわゆる『ハーフ』『クオーター』の人にとってはもう少し複雑だろう。

ひるがえって、フェスティバルでも出身の国を聞かれた。『韓国、中国?ほら、アジアといってもたくさん国はあるし・・・』『日本だよ』『あー、そうかなとは思ったんだけどね』。こういう質問の仕方をされると、失礼な感じはしない。

留学生の多い大学などかもこのような雰囲気はあるのかもしれないが、柔道やスポーツの世界は私にとって、まだまだ未知の世界。スポーツという概念と場が作り出す人間関係を実体験した気分だった。(了)

フェスティバル会場で『柔道ファン』という男性と知り合う。

この男性、雑誌『近代JUDO』を毎月購読している。もっとも日本語がわからないので、もっぱら写真を楽しんでいるとのこと。

写真を撮らせてほしいということで同誌を持ちながらポーズ。

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※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。