地産地消型の観光という発想(文・角田百合子)

Interlocal Journal はドイツ・エアランゲン在住のジャーナリスト・高松平藏が主宰するウエブサイトです。

このページは「インターローカル」な発想から執筆していただいたゲスト執筆者の記事です。

地産地消型の観光という発想

エアランゲンの「夜警ツアー」で考えたこと

2016年11月11日

執 筆 者 角田 百合子 (学生/ドイツ・エアランゲン大学留学中)

【ドイツ・エアランゲン】夜の市街を歩く歴史ツアーがエアランゲン市にあるが、私も参加してみた。同市には目立った観光スポットがないにもかかわらず充実の内容だ。このツアーを通して、まちづくりと観光について考えてみた。

■夜警ガイドと街を歩く

ドイツの中世の街には、夜間の安全を守っていた夜警という職業があった。

エアランゲン市では毎週末になると、ランタン、角笛、槍状の武器を持った夜警が人をひきつれて歩き回る。実はこれは夜警に扮したガイドによるツアーなのだ。同市の夜警は約120年前に廃止されたが、市街は当時の面影が残る。そんな街の通りや建物を約1時間半かけて見て回るものだ。

私が参加した回では、同市在住の狭義のドイツ人のほか、同市出身の人が約20名集まった。チケットは9ユーロと少し高いが、地元のビール醸造所で使える割引券もついてくる。

■地元の人のための、地元による、地元の観光

もしあなたがエアランゲンを訪ねたならば、この街の人々がまず案内するのは宮殿前の広場と宮殿庭園、そして地元のビール醸造所だろう。しかし庭園もビール醸造所も目もくれずツアーは進んでいった。

夜警ツアーの様子(写真=角田百合子)

つまり、ツアーの対象は地元の人々なので、「定番」は説明不要ということなのだろう。

内容は夜警の仕事の説明からはじまり、通りの名前の由来まで実に細かい。小路や家屋の名残をみながら、かつての生活を紹介していくのだ。

夜警は仕事の性格上、街の細かなことまで知っていたが、このツアーの中身とよくあう。その詳しさに参加者の「エアランゲン市民」でも驚きを隠せなかった。つまり、これは観光客ではなくその地域の人々にもっと地域のことを知ってもらおうという企画なのである。

■まちづくりと観光政策の順番

このツアーに参加してふと考えたのは、まちづくりと観光政策は同じではないということだ。

やや突飛に聞こえるかもしれないが、「街の産業」として観光に力を入れすぎた街を想像してほしい。まず、その場にそぐわない土産屋などが立ち並ぶ。外国のツーリストのことを考えると、多言語の看板も必要だが、これも多すぎたり、デザインがよくないと、街本来の雰囲気が薄れてがっかりすることもある。

観光を考えず、まちづくりだけに集中することは可能だが、観光だけに重点を置くとバランスを崩す。しっかりとしたまちづくりがあって、はじめて観光スポットとして価値を加える政策を展開すべきなのだ。

■内向け「観光」があってもよい

エアランゲン市では目立つ観光スポットがなく、どちらかといえば、まちづくり優先。そのせいか「夜警ガイド」氏によると、市街中心地はドイツの中でも有数の美しさだと言う。筆者が知る他の街とくらべても風格ある街だと思う。

たとえ外に向けた街のアピールが物足りなくても、地域の人々の興味をひくツアープログラムは、一種の観光政策と位置づけてもよいだろう。観光の地産地消だ。 しっかりしたまちづくりは内と外、両方に向けた観光政策が展開できるのだと思う。(了)

<ひょっとして関連するかもしれない記事>

執筆者 角田 百合子(つのだゆりこ)

1995年生まれ。平成28年度3月からドイツのエアランゲン市に約1年間交換留学生として滞在。海外生活を通して街づくりや環境問題、異文化の背景等を学んでいる。

滞在中、「インターローカル ジャーナル」主宰の高松さんのもとで記者の見習いをしながら、自分の疑問をひとつひとつ現地の人々へのインタビューをもとに考えてみようと思う。日本との比較や外からみた日本、日本からみたドイツ等様々な視点から深めることを目指している。留学前に高松さんの著書を読んだことをきっかけに連絡を取り、現在に至る。

短縮URL https://goo.gl/6b0Tce

ドイツの有名な観光地。日本語の看板に興ざめ(写真=高松平藏)