ペルーでの指導、試される貧困社会での柔道丨在独ジャーナリスト・高松平藏
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ペルーでの指導、試される貧困社会での柔道
蔵出し記事:浦田太さん、現地の子供たちに日本体験をさせたい
2019年12月23日
執筆者 高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト、当サイト主宰)
【蔵出し記事】2017年からペルー首都リマで道場を開き、子供たちに柔道を指導している浦田太さん(講道館柔道5段、全日本柔道連盟公認A指導員)がいる。きっかけになったのは海外青年協力隊としてペルーで2年間の柔道指導。子供たちを日本へ連れて行きたいと考えている。(ベースボール・マガジン社「近代Judo」2019年12月号、連載「欧州のJudo」掲載分)
浦田さん(中央)と共栄館のメンバー。
教育体系としての柔道に期待されている。
ちなみに同氏は金鷲旗でも知られる大牟田高校OB。
(写真=浦田さん提供)
■「柔道」だけでなく、礼節も教えてほしい
東アジアの島国で生まれた柔道。当連載では教育体系・社会的アクティビティとしての柔道が、欧州ドイツでどう展開されているのかお伝えしている。今回は番外として南米に目を向けたい。ペルーの首都、リマで道場を開き、指導をしている浦田太さんに話を聞いた。
道場はリマ市内の学校の片隅にあり、浦田さんは同校の「柔道教諭」でもある。以前JICA(国際協力機構)の隊員としてペルーで2年間柔道指導したが、任期を終え帰国。このころ、当連載でも一度登場していただいた。
同氏は柔道指導を続けたいと思い、再びペルーへ行くため入念に準備。このとき九州大学が中古の畳を寄付してくれた。2017年、この畳とともに単身ペルーへ渡る。しかし道場を開くには場所がいる。食い扶持も必要だ。
単身での出発は多難を極めたが、人づてで日本の教育を高く評価している私立学校のオーナーと知り合う。浦田さんのビジョンを聞き、柔道教師として迎え入れてくれた。「オーナーは柔道そのものより、礼節を含めた教育を求めていたる」(同氏)。小1から高2に相当する生徒に柔道授業を担当。これでひとまず食い扶持は確保できた。
学校の片隅にある道場は放課後、柔道アカデミー「共栄館」に変わる。月曜日は別の教師に子供たちに日本語を教えてもらい、文武両道型の道場を志向。もちろんオーナー公認、というより応援してくれている。「共栄館」へは学外からもやってくる。「本格的に始めることができたのは2018年5月から。現在25人まで生徒が増えました。成人も5名います」と浦田さんは笑う。初期メンバーたちは、今では新しい入門者に礼法や受身など基本的なことを、浦田さんに代わり、教えるようにもなった。
■日本へ連れていき、自信をつけさせたい
浦田さんは一時帰国の際、金鷲旗高校柔道大会の海外招待担当者と会う機会があった。南米からの出場者がいないので、出場してはどうか、という話が出てきた。
技術的にはまだまだ課題は残るが、共栄館から出せる選手はいる。また試合結果云々よりも日本での柔道交流は彼らにはプラスに働くはずだ。それに訪日という夢も叶う喜びを体験させたい。というのも、ペルーは貧富の差が大きい。共栄館のエリアも同様だ。
浦田さんによると、ペルーは私学が乱立。私学というと日本では富裕層の子弟が通うイメージがあるが、彼の国は公立学校があまり機能していない。だから親は無理をしても子供に教育を受けさせ、少しでも将来の選択肢を増やしてやろうとする。「でも、いつのまにか来なくなる生徒がいる。学費が続かないんですね」(同氏)。そんな状況下、渡航費が最大のネック。概算で200万ほど必要だ。保護者もバザーなどで、資金づくりをしているが、一回あたりの収益は1万5000円程度。目標額へは遠い。それでもなんとか子供たちの訪日を実現したいところだ。
柔道がどんな形で貧困社会の子供たちの人生にはたらくか、教育体系・社会的アクティビティとしての柔道の真価が問われている。 (了)
浦田太さんのFacebook
浦田太さんの道場、KYOEI KAN 「共栄館」のFacebookページ
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連絡は浦田太さんへ メールアドレス perude1010 [アット]gmail.com
クラウドファンディング:[南米ペルーの女子高生柔道家たちを日本の大会に出場させたい。]
※引用される場合、高松平藏が執筆したことを明らかにして下さい。