「ドイツは日本と似た国」というのは本当か?(文・角田百合子)

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このページは「インターローカル」な発想から執筆していただいたゲスト執筆者の記事です。

「ドイツは日本と似た国」というのは本当か?

異なる発想・アプローチ

2017年3月31日

執筆者 角田 百合子 (学生/ドイツ・エアランゲン大学留学中)

【ドイツ・エアランゲン】ドイツに行けば日本の未来が見えるのではないか──そんな期待のもと、ドイツ留学を決めた。一年間のドイツ生活から「ドイツの発想」のようなものをいくらか汲み取ることができたが、「公共空間に対する考え方」「社会の課題へのアプローチの仕方」という側面から、2つの例をあげてみたい。

■街の清掃から

ドイツの街では時々大きなブラシがついた車両がゆっくりと道路を走っている。ブラシは回転しながら道路に落ちたゴミや枯れ葉などを吸い取っていく。日本の地方都市ではあまり見ない光景だ。

この車両はそれぞれの市が運営しており、つまり市が街の美観を守っているのだ。冬場に雪が積もると塩をまく、といった役割も担っているという。

前のブラシが回転して、ごみを掃き取る(写真=角田百合子)

一方、日本では定期的に地域の人々がその地区の行事として、あるいは学校の課外活動としてよく街の道路を清掃している。ゴミ拾いは代表的なボランティア活動として人気も高い。街中のゴミ箱が少ないにもかかわらず道路にゴミがほぼない状態で、枯れ葉等も自宅の周辺や近所は人付き合いの意味合いも含め自分達で掃除している。そのため、ドイツで見られたような清掃車は日本で必要ない。

ドイツの人々は、街は自分たちのものだと考えているが、そのための清掃などの管理は他者が仕事としてするものと捉えているように思う。一方、日本の人々も街は自分たちのものと思ってはいる。しかし、自分たちで掃除をするものであり、そういう行為こそ大切にしたいという姿勢が垣間見える。

どちらが良いとか悪いという話ではないが、公共空間としての街を誰がどのように管理するのか、という発想と実際の仕組みが異なっているのが確認できる。

■原因を考えるドイツ

日本と同様にドイツでもペットを飼う人は多い。日本では犬や猫を放置し、保健所が対応に追われ、殺処分にいたることも多い。しかし、ドイツは犬の殺処分ゼロの国として知られている。本当にゼロかどうかはともかく、ペットの所有に関してかなり管理や基準があるように思う。

例えば、ドイツにはティア―ハイム(「動物の家」の意)という動物保護施設がある。飼い主が死亡するなど、継続的に飼うことができなくなったペットや、飼い主が不明の動物を引き取る。そして、新しい飼い主を斡旋するという仕事をしている。日本のNPOに相当する組織が運営しており、募金やフリーマーケットなどで経営している。

エアランゲン市内のティア―ハイム 左側には犬たち、右側の建物には鳥やウサギなども(写真=角田百合子)

エアランゲン市内にもティアーハイムがある。職員の方に「殺処分ゼロ」の秘密を聞いてみると、まず、ドイツには犬税があることが大きい。これは犬種によっても異なるが、例えばエアランゲンに隣接するニュルンベルク市ではブルドッグなど闘犬用の犬でなければ年間132ユーロ(約1万6千円)。頭数が多ければそれだけ払わなければならない。

また犬を飼いたいと希望する人には、家に十分な広さがあること(大型犬を室内で飼っていることも多い)、犬のために時間が確保できることが確認される。これによって、途中で無責任に犬を手放す可能性が低い人が飼い主になるわけだ。

日本では残念ながらまだまだそうした仕組みに手が届いていない。議論の中心になっているのは、手放された犬たちをどうするか、そして飼い主の意識が大切、ということに終始している印象が強い。つまり「結果対処」「個人の意識」に集中しており、これでは一時的な解決で終わることも多い。「原因からアプローチした仕組みを作る」という思考が欠如しているのだ。

■取り組みの奥にあるものを見るべきだ

日本はよくドイツを参考にしている。確かに日本で問題視されていることをドイツが先に改善していると思うことは多い。またドイツといえば「日本とよく似た国」と考える人も少なくない。

しかし、実際ドイツで生活してみると、今回とりあげた街の清掃やペット問題ひとつをとっても、アプローチの仕方や発想が日本とは異なることがわかってくる。ドイツが先に対策をたてているからといって、それを単純に見習っても解決には至らない。そんなことを1年のドイツ生活で実感したのだった。(了)

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執筆者 角田 百合子(つのだゆりこ)

1995年生まれ。平成28年度3月からドイツのエアランゲン市に約1年間交換留学生として滞在。海外生活を通して街づくりや環境問題、異文化の背景等を学んでいる。

滞在中、「インターローカル ジャーナル」主宰の高松さんのもとで記者の見習いをしながら、自分の疑問をひとつひとつ現地の人々へのインタビューをもとに考えてみようと思う。日本との比較や外からみた日本、日本からみたドイツ等様々な視点から深めることを目指している。留学前に高松さんの著書を読んだことをきっかけに連絡を取り、現在に至る。

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