公共空間は使うことで価値がでる(文・ 木田悟史)

(写真= 小谷真之介)

■ 「中庭」が使われていない

高松さんの講演は5月23日の夕方から実施(=下写真)。テーマはドイツのオープンスペースの楽しみ方についてのものだった。会場の「中庭」そのものがオープンスペースであり、講演のテーマと合わせたかたちだ。

Interlocal Journal はドイツ・エアランゲン在住のジャーナリスト・高松平藏が主宰するウエブサイトです。

このページは「インターローカル」な発想から執筆していただいたゲスト執筆者の記事です。

公共空間は使うことで価値がでる

鳥取文化施設の「中庭」、初の活用

2019年6月19日

執筆者 木田悟史 (日本財団 鳥取事務所所長

【鳥取県】既存の公共施設や公共空間を有効に使っていくべきではないかー─そういう問題意識を持ちながら、本サイト「インターローカルジャーナル」を主宰する高松平藏さんを鳥取にお呼びして、公共空間を使ったトークイベントをこのほど開催した。会場として使用したのは、県立図書館と文化会館の間にある空間で、関係者の間では「中庭」と呼ばれている。

図書館と文化会館前の中庭を使って行われたトークイベントの様子。(写真= 小谷真之介)

この「中庭」は、3 年程前から鳥取市に移住して生活している筆者もよく通る場所だ。いつも、とても素敵な場所だなあと思っていたのだが、実はほとんど使われておらず、飾りのような空間になっているということを知った。

鳥取大学准教授・成清仁士さんと昨年の夏ごろ、中庭について話したことがある。そのとき、県の方でこの活用についての検討を始めていることを知った。これが今回のイベント企画のとっかかりになった。

普段の中庭の風景。確かにきれいだが、使わなければもったいない。 (写真=木田悟史)

■企画はドイツであたためた

一方、このころ私は、高松さんが住むドイツのエアランゲン行きを計画していた。そこで成清准教授にこれはと思う同行メンバーをご推薦頂くことにした。というのも、同准教授は教壇にたつ前は、鳥取市の中心市街地活性化協議会でタウンマネージャーをされていたからだ。

県の文化関係者、デザイナー、カフェ経営者など多士済々6人。このメンバーが「中庭」でのトークイベント企画メンバーになる。

昨年10月、エアランゲン訪問を実現。高松さんの都市づくりに関するレクチャーを受講した。その上、ドイツ滞在中はお互いたっぷり話をする時間もある。こうしたことが今回のトークイベント実施の下地を作った。

■移動図書館やカフェで彩る

ひるがえってトークイベントの会場設営は企画メンバーのおかげで、「中庭」の魅力をより高めることができたと思っている。

一例をいえば、企画メンバーの一人に、本「インターローカルジャーナル」でも取り上げたことのある、鳥取県立図書館の高橋真太郎さんがいる。同氏には中庭の使用に尽力していただいた。普段は音に関する制約がある図書館側を説得頂き、図書館の営業時間内であったイベントを実施することができた。

さらにイベント時の中庭にテーブル設置、その上に本を並べた「移動図書館」を作っていただいた。高松さんの講演にひっかけて、ドイツ関係の書籍を選りすぐってくださった。

中庭に設けられた移動図書館の本は図書館司書の高橋さんによる ドイツ関係のセレクト。

これだけでも一見の価値あり。 (写真= 小谷真之介)

加えて、市内で評判のコーヒー屋さんにも出店頂いた。これで、会場の雰囲気が一気にヨーロッパのようになった。店主の西澤琢さんも企画メンバーの一人だ。

今回のイベントには、高松さんをお呼びした以外には、会場費も含む経費はほとんどかかっていないが、今後こういった利用の仕方が積極的に行われ、料金も一定程度集めることで、行政としても公共施設を無理なく維持管理できるようになるかもしれない。

市内で評判のコーヒーショップcafe kohanhe(カフェ湖畔へ)も出店。

オーナーの西澤さんのこだわりのコーヒーを味わえる。 (写真= 小谷真之介)

■厳しい公共施設の環境、使うことで価値を高める

ところで、全国で地方創生の政策が進められる中、箱物行政からの脱却ということが言われている。しかし人口減により地方財政も縮小を迫られる中、既存の公共施設の維持管理を取り巻く状況は既に大変な状況になっている。

一般社団法人 日本経営協会が2014年に実施した「公共施設の管理運営等に関する実態調査」によると、公共施設を管理する団体のうち約8割が、施設の維持、老朽化に対して問題意識を持っている。

しかしながら、これまでに行われてきた全国各地の地方創生に関する施策を見ても、廃校舎の利活用等の事例は見られるものの、既存の公共施設や公共空間を有効に使っていこうという試みはあまり聞かれない。やはりこうした地味な政策は政治的にも票になりにくいからだろうか。

ともあれ、重要なのは、楽しんで「使いたい」という市民側の意思を行政側が大事にし、楽しんで「使える」状態を用意する。そして実現に向け協力するということだと思う。今回のイベントをきっかけに、行政、市民双方において公共空間の利用に関する理解が深まり、その使用についての可能性が広がればと思う。(了)

※今回のほとんどの写真を提供してくださったのが小谷真之介氏。地域活性化にも尽力する鳥取市のグラフィックデザイナー。ありがとうございます。

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執筆者 木田悟史(きだ さとし)

日本財団 鳥取事務所所長。

ソーシャル・イノベーション本部国内事業開発チーム チームリーダー。慶応義塾大学 環境情報学部卒業後、日本財団入団。総務部や助成事業部門を経て、NPO向けのポータル・コミュニティサイト「通称『CANPAN』カンパン」の立上げに関わる。企業のCSR情報の調査や、東日本大震発災後、支援物資の調達や企業と連携した水産業の復興支援事業の立上げを担当。その後、情報システムや財団内の業務改善プロジェクトを経て今に至る。