剱岳 頂上からの滑走

富山県  2,999m  2006年5月21~23日(2泊3日)

日本百名山

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名山一人旅

私の登る山には名山と呼べない山もあるだろう。だが、登っているときに心ときめくものがあれば、それは私にとって名山だ。

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晴れた春の日、コンディションは絶好。インディアン・クーロアールに向かって、オーバーハングの向こうに滑る。自分の踏み跡が無ければなかなか滑りこめない傾斜ではある。

一つ一つのターンはこなせる範囲だが、しびれるような緊張感の連続。

剱沢まで下り、感慨をもって平蔵谷を見上げる。ここから見ると単なる細い雪渓だが、登りも下りも気が抜けない。緊張感から解放され、心地よい幸福感。

私の山登りキャリアにおいてターニングポイントとなった登山。アマチュアではあるが、エキスパート・レベルを目指す。

その後、奥大日岳、針ノ木岳、五竜岳、大猫山などの頂上から剱岳を見る。飛行機の上からも剱岳を見て、頂上から滑った斜面を同定した。深田久弥が「北の俊英」と表現したその姿、険しく辛い頂上まで登りきったときの達成感、そして緊張感いっぱいの頂上からの滑走。すばらしく魅力のある山だと思う。

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俺はただ無心に登った。はるかなる白き峰しか見ていなかった

体は疲れ果て、太陽はまぶしく、汗がしたたり落ちた

それでも俺は登るのを止めなかった。上がらぬ足を騙し、惰性で登った

頂上に着いたとき、俺の頭はからっぽになった。すごく、いい気分だった。

俺は天空から下界を見下ろしていた。天空は穏やかだったが、去らねばならなかった

そこで俺はスキー板を履き、天空から滑った。

俺は風になっていた

(はるかなる白き峰)

剱沢上部から見る剱岳。平蔵谷は中央下から左上に延びる雪渓。中央下から真上が大脱走ルンゼ、斜め右上がインディアン・クーロアール。今回は平蔵谷からインディアン・クーロアールを登り、滑走した
剱沢まで下り、感慨をもって平蔵谷を見上げる。ここから見ると単なる細い雪渓だが、登りも下りも気が抜けない。緊張感から解放され、心地よい幸福感
インディアン・クーロアール入口にある天狗岩
頂上の祠と雪の最高点に立てたスキー。3,000mを越えてる?
インディアン・クーロアールの滑走
針ノ木岳から見る二つの谷を従えた剱岳(2014年5月4日)
①平蔵谷②天狗岩③インディアン・クーロアール④長次郎谷⑤熊岩⑥長次郎ノコル

*クーロアール(仏語)はガリー(英語)やルンゼ(独語)と同じ意味で、浸食されてできた深い溝・・・らしい


D1 7:50 室堂着 8:39 雷鳥沢10:48 剱御前小屋・・・剱沢滑走、登り返し17:37 剱御前小屋
D2 4:54 剱御前小屋発・・・剱沢滑走 5:26 平蔵谷出合 9:33 インディアン・クーロアール下端11:14 剱岳・・・・・・・・・・・・・・・・・登り6時間20分12:06 剱岳発、滑走12:18 インディアン・クーロアール下端12:57 平蔵谷出合17:21 剱御前小屋17:52 剱御前小屋発、滑走18:19 雷鳥沢、テント泊・・・・・・・・往復合計13時間25分
D3 7:00 雷鳥沢発 8:00 室堂着

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D1

4時にホテル出発。5時前に駅に着いたが、誰もおらず。ただし、駐車場は7~8割の入りで、準備してる人もいる。車を停め、6時前に駅に行ってみると、ケーブルカー切符窓口に並んでいる。始発6:40のようなので切符を買い、車に戻り、靴を履き替え、ザックとスキーをもっていく。この頃には、バスの団体などが着き、駅構内は混雑。ケーブルカーは7分で美女平駅に着き、バスに乗り換え。スキーとザックに300円づつ取られる。バスは着席でき、50分間の観光を楽しむ。早朝の富山は天気悪く、とても剣に登れそうも無いと思い、ヘルメットは置いていく。(しかしピッケルは持って行く)また、1泊しかしないと思って、ラーメン3食、携帯食も追加は持たず。3本買ったお茶ボトルの2本を入れたが、テルモスの中身を忘れる。天気が悪いと気分が乗らない。しかし、バスで登って行くとぐんぐん天気は良くなり、鍬崎山に薬師岳が雄大に真っ白に見えてくる。(どうしてテルモスに気づかなかった?・・・快晴になってきたのでこれはもう剣に行こうと、あせっていた)ケーブルカー駅に剣沢テント泊自粛が貼りだされており、今日は雷鳥平にテントを置き、まっすぐ剣に向かい、長次郎谷でなく平蔵谷を登ればなんとかテント場まで戻れるだろう。そして翌日は立山と奥大日に登る・・・というプラン。称名滝はほとんど見えず。7mの雪壁は高すぎてカメラに入らず。室堂手前で立山が見えてくる。こいつは大きい・・・でもどこを滑るんだ?あちこちに山や谷があって土地カンがない。バス停を出るとみんな一斉にいなくなる。

まっすぐ立山に向かった登山の人たちもいたようだが、2階上の出口から出ると、スキーや観光の人たちがいた。雷鳥平への道標あり。四周を写しながらスキーで下っていく。なんと、スキーを担いで登ってくる人たちが大勢いる。昨日雨で、今日は快晴なのになんで・・・と思うが今日帰るんだろう。もったいない。ミクリガ池はほとんど氷結していて、端から湯気が噴出していた。雷鳥平にはテントは数張のみ。雪を掘った跡にテントを張るが、風で飛ばされてしまうので、ポールを外し、寝かせておく。ペグがないとダメかなあ。雷鳥沢には登っていくスキーヤーたちの列ができている。さっそくアイゼンをつけて登る。とにかく雄大な景色を見ながらの登り。今回は結局シールは使わず。次々に抜かれるが、ペースを守って登る。体調は良くない。朝食べてない。11時前、剣御前小屋に着く。雪はなく、アイゼンを外す。剣が目の前に現れる。大勢スキーヤーもいるが、誰も滑り降りて行こうとしないで剣を眺めている。ひとりで剣沢に滑降。波打っていてスピードを出すと危ない。休業(雪で壊れて今季は改修工事予定)中の剣沢小屋を過ぎ、どんどん降りていくが、平蔵谷がどれなのか分からない。シールで登っている人に聞いてみる。「ここからは分かりにくいが、広い谷なので降りていけば分かる。手前の武蔵谷を一人登っている」と言われたが降りすぎてしまうと登り返さないといけないのでゆっくり行く。すると、たぶんここだろうと思われる、頂上付近まで雪面が連続している谷の入口にでる。ひとつ手前の谷の上の方に小さく登っている人が見える。「それが武蔵谷で、これが平蔵谷だろう」と思い込む。アイゼンをつけ、今度はピッケルを腰にさして出発。11時半。石がバラバラを落ちており、谷の両側には雪にクラックができている。踏跡やトレースらしきものはなし。

最初からすごい急登で、数歩登っては小休止の登りとなる。GPSによると、平蔵谷入口が標高1,250mくらいなので、頂上まで約800m、4時間、とみた。午後4時に頂上、午後5時に剣沢に降りれば、ヘッドランプでなんとか雷鳥平に戻れるだろう。しかし、約1時間半登ったところで雪が切れ、断念。下からは見えないが、谷が細くなった箇所で雪が上下に数メートル切れていて、とても登れそうもない。切れた雪の下側に跨っていたが、ここから降りるのにも苦労。ピッケルを取り出し、アイゼンをキックしながら降りる。(登ってくる途中で、トラバースしようとして左のアイゼンで右足の生地に穴を開けてしまう。トラバースは慎重に。)少し下の雪のクラックのところで休止。ここまで一回もザックを降ろしてなかったが、もうここでスキーを履くしかないので、ザックを降ろして休む。まわりの斜面は45度から50度くらいか。無風快晴の青い空。正面の南の空に浮かぶ北アルプスの峰々。「平蔵谷は切れていて登れない。しかたない。明日は立山と奥大日に登ろう。」狭くて急な斜面だが、いざ飛び込んでみると十分にコントロールできる環境。狭いところは横滑りでじりじり降り、広くなった斜面に飛び込んでターンする。かなり短い範囲でターンできることが分かる。カービングの効用だろうか。アイゼンで登っているときより、スキーで斜面に止まっている方が安心感がある。疲れているので無理は禁物。休みながら降りてゆき、30分くらいで剣沢に着く。アイゼンと着けてとぼとぼと歩く。雷鳥沢のときとは違い、もう小休止しながらの登りしかできない。谷を登っている途中で剣沢を登っていったボーダーのアイゼンの跡を辿る。武蔵谷を見るとスキートレースが付いている。

あの人も滑り降りたのだろう。こっちの谷を見ると、自分の滑ったトレースが見えている。比べてみると、自分で思っているよりターンが小さい。剣沢を30分毎にザックを下ろして休みながら登って行くと、やがて剣の頂上が見えてくる。その手前に前剣と、もっと手前に一服剣。自分の登った谷を見ると、何やら谷を滑っている。どうも石が落ちてきたようだ。谷と頂上を比べると・・・どうもおかしい。あの谷は平蔵谷ではないのでは!!剣沢を登っていくにつれて確信は深まる。登る前に会った人に言われたときに、これかなと思った潅木の向こう側の谷よりも手前の谷を登ってしまったようだ。愕然とすると同時に、明日リベンジしたいと思い出す。明日もこんなに晴れるだろうか。こんなに無風快晴の青い空になるとは考えられない・・・まあ、天気が悪ければ立山と奥大日に登ろう、と気楽に考える。それにしても剣沢の登り返しはきつい。最初に剣沢小屋あたりに着いたかなと思った1時間半の場所は別の小屋で、剣沢小屋へは2時間強、剣御前には更に1時間半強、計4時間かかる。もう5時半を回り、太陽はだいぶ傾き、剣も半分影になっている。アイゼンを外していったんザックをしょったが、剣御前小屋の玄関に「お茶ボトルあり」とあるので入ってみる。すると、「おでん700円」とあったので、ビールとセット(計1,100円)で頼んでしまう。休憩室に入ってビールを飲み、おでんを食べて生き返る。しっかり食べて、コンディションを整えないといけない。しかし、雷鳥平まで戻り、明日早朝また登っていたのでは約3時間のロスになる。それよりもここに泊まり、早めに降りれば、明日中に富山に降りれる(室堂バス最終16:00)かもしれない。朝食7:30、夕食17:00は合わないが、弁当付き一泊7,400円でいいだろう。宿の主人に言ってチェックインし、2階の8人部屋に案内される。同室は4名。靴と靴下とサポーターを乾燥室に干し(幸い替えの靴下をもっていた)、1リットル100円のお湯を補給し、ラーメンとウイスキーとバーナーを休憩室に持ち込んで夕食。お湯割がうまい。2~3杯飲む。隣は談話室でテレビがあり、大相撲は白鵬が勝ち、天気予報では明日は晴、ただし夜は雨、と言っている。ならば剣。なんとか明日中にテントを撤収して下山、で進めたい。主人曰く、「平蔵谷より長次郎谷の方が急」「ならば平蔵谷」に決める。メモを書いて8時頃就寝。山に登って布団で寝るとは!!(「寝袋ないけど泊まれますか?」と聞いたのは本心。)

D2

外が明るくなってきた3時過ぎには同室の連中は起き出して出かけていく。私は4時前に起床。朝のカリカリの剱沢を滑り、前日、間違えた谷から更に下ると大きな谷があり、谷の正面右奥にはまぎれもない剱の白くて丸い山頂が見えている。平蔵谷だ。ここにも大きな岩がごろごろしている。谷の入口の少し上にスキートレースの跡。昨日と同じスタイルで出発。入口の少し上に泥だらけの部分があり、閉口。左岸側に行くと今度はクラックが出てくる。30分登って1回目の休憩。

2時間して日なたに出て、サングラスをかける。汗はどんどん落ちてメガネに落ちてくる。インディアン・クーロワールの入口に、インディアンの羽根のような尖がった岩。天狗岩もしくは尖岩と言うらしい。下からは気付かなかったが、ここまで来るとすごく目立つ存在。こいつの左側を登るルートに向かうが、クラックがありそうな雰囲気なので、天狗岩の右側に回ることにし、クラックの端で2回目の休憩。もう3時間経過。

ピッケルを右手に持って登ってみたが、どうも落ち着かない。やっぱり両ストックをもって登るのが登るのも休むのも良いようだ。天狗岩のすぐ右側を登って行くと雪が切れていたが、なんとか登れる。雪面から岩面へ手がかりを伝い、ハイ松を掴んで上の雪壁に上がる。登った先は雪の尾根。振り返ると天狗岩の先端が大きくこちらを見ている。行く手には、雪尾根の向こうに目指す剱の白丸頭が見えている。ハイ松のところで第3回休憩。アイゼンで足場を作ってザックを降ろす。この尾根の右下に長次郎谷らしき谷が見えてくる。

ここからはラストスパート。ひたすら真直ぐ登り、白丸頭が頭上でだんだん大きくなり、ついに頂上に達する。雪の最高点の向こうに一段低く、剱岳の祠があった。これは雪をかぶっていない。頂上尾根の雪の上には踏跡が残っている。雪の最高点は祠より1~2m高いから、今の剱の高さは3,000mを越えてるんじゃないか・・・・・と思う。

無風快晴(少しは風はあったが)。雪で湯を沸かしてホットウイスキーを2杯。クッキーをひとつ食べる。四周の眺め。東の北アルプスの、一番目立ってるのはどうも鹿島槍のようだ。剱沢ではひとつに見えた峰はここからは双耳になっている。するとその右側の三つのピークが爺ヶ岳だろう。そして少し離れた平らなのが蓮華で、尖がったのが針ノ木だろう。南には、別山の上に立山が立っている。なかなか見事。北側の早川尾根というのは、かなり下の方に見えている。

さて、十分に休み、アイゼンも乾き、雪の最高点に立てたスキーを取って滑降。東端まで行って見下ろした長次郎谷は、気のせいか平蔵谷よりも楽そうに見える。熊岩というのはあれかなあ。あの東側を登るというのも楽そうだなあ・・・・・まあ、頂上直下あたりは、ここからは見えないが、相当急なんだろう。

晴れた春の日、コンディションは絶好。インディアン・クーロアールに向かって、オーバーハングの向こうに滑る。自分の踏み跡が無ければなかなか滑りこめない傾斜ではある。

日なたの頂上付近の雪は柔らかくなっていて登りには適度だったが、スキーでターンすると雪が斜面を流れ落ちる。雪に足を取られたくないので、ターンの度に停止して雪が過ぎるのを待つ。一つ一つのターンは私の技術で楽にこなせる範囲なのだが、しびれるような緊張感の連続。この下はインディアンまで大きな雪原(斜度は45度くらい)を滑り、インディアンの入口付近で雪の繋がっている箇所を探す。東側の二箇所が繋がってるようで、少しづつ降りていって見定める。やや近い左側通過点でもよさそうだが、狭そうなのでもっと下の右側通過点まで降りる。岩と岩の間を一気に滑って通過。広い雪原に飛び出してターン停止。

振り返ると上の通過点はとても狭くて通れそうもないように見えた。すると、下の通過点で正解だった訳だ。インディアンの東下のこの雪原は上部は広いが下るにつれて狭くなっている。しかもクラックがたくさんあるはず。慎重にターンしてゆくと、雪が切れて登った箇所の真横に出て、雪壁に登った踏み跡がくっきり残っていた。クラックに沿ったトラバース箇所の下あたりを滑って平蔵谷に入る。ここまでくれば一安心。

平蔵コルから続いているスキートレースを参考に滑りやすいラインを選んで滑る。最後の箇所が土が出ていて滑れない。しかし、スキーを外して歩くとブーツが汚れるので、スキーをつけたままで横向きに降りていく。

剱沢まで下り、感慨をもって平蔵谷を見上げる。ここから見ると単なる細い雪渓だが、登りも下りも気が抜けない。緊張感から解放され、心地よい幸福感。自分のつけたトレースはかすかに見えている程度。インディアンのあたりから上は詳細は見えない。水を飲み、アイゼンを付ける。シールの方が楽かなあと思ったが、今回は全て担いでいくことにする。頂上から出合への滑降は1時間弱。

剱沢の登り返し、最初の30分目の休憩中、スキーヤーのグループが滑り降りて行った。7~8名。ここより下だと三ノ窓雪渓との出合くらいまで行くのだろうか。スキーヤーが去り、剱沢は静寂を取戻す。2回目の休憩から立ち上がり、歩き始めると、今度はヘルメットをかぶった登山グループとすれちがった。どんどん降りていってが、どこに行くんだろう。またまた一人取り残される。休憩の度に斜面に座って頂上を眺める。よくあんなところを登り、下ってきたものだ。剱に登って、これまでの山スキーとは違うインパクトを受ける。

剱御前小屋に寄っておでんとビールでひと休み。外ではだいぶ風も出てきた。今夜雨というのは当たりそうだ。スキーを履き、誰もいない雷鳥沢をゆっくり滑る。テント場までいくと、テントは2張のみ。さっそくテントの中で湯を沸かし、ホットウイスキーをまずつくり、それからラーメンを作る。テント場はまわりが峰で囲まれているが、それでも風は強い。テントの入口と煙突を開けておけば湯気は外に出ていく。

この剱岳滑走は、私の山登りキャリアにおいて、ターニングポイントとなった。遊び半分ではこんな登山や滑走はとてもできない。アマチュアではあるが、エキスパートのレベルを目指す。事前準備を怠らず、用具もそれなりのものを揃え、滑走の練習を継続し、心構えや状況判断も勉強することにしよう。

その後、奥大日岳、針ノ木岳、五竜岳、大猫山などの頂上から剱岳を見る。飛行機の上からも剱岳を見て、頂上から滑った斜面を同定した。深田久弥が「北の俊英」と表現したその姿、険しく辛い頂上まで登りきったときの達成感、そして緊張感いっぱいの頂上からの滑走。すばらしく魅力のある山だと思う。

D3

パラパラと小雨も降っていたが、1回トイレに行く。4時頃には明るくなり(当初、6時起き、6時半出発、8時室堂着と思っていたが)、5時半に起きて準備開始。着替えをし、テント以外をザックに詰め込み、タオルを巻き、フードをかぶって外に出る。時々突風が吹き、あられが混じると顔に痛い。テントはぬれていて袋に入らないので、ヒモで結んでザックのフードの間に詰め込む。アイゼンとスキーを付けたザックはずしりと重い。室堂へは、いったん滑って東側から回るのが来たルートだが、この雨なので最初に西の尾根に登るルートを選択する(しかし、アップダウンあり)。出発したのはもう7時近くなっており、やはりテントでの出発準備には1時間以上かかると実感。早く起きて良かった。後のテントは朝にはもう無かった。ロープ塔のある斜面を黙々と登る(アイポッドは着けてない)。寒いので手袋をはめているが、ずぶぬれ(雨用の防水手袋を調達するべきか)。メロウズは防水が利いているが、上着は全くダメのようだ。ザックカバーも無い。20分くらいかけて登った尾根の上には雷鳥小屋があった。寄りたかったが素通りする。道標に従ってクネクネした尾根道を進む。大きな下りがあってがっくり。

ぼんやりと立山や奥大日が見えているが、どうせ写りは悪いだろうから一枚も写さず。雨の中を歩いている人を見かけはじめる。ついに前方に室堂バスターミナルらしき建物二つ(遠い方だと間に合わない!と思ったが、幸い近い方だった)が見えてくる。スキーをもったグループもそちらに向かっておりもう間違いない。8時過ぎにターミナルに到着。階段を二階分下りたところがバス乗り場。おばさんが数人座っている。ザックを下ろし、スキーを外し、とりあえずずぶぬれの服(上着、セーター、ウェア、下着)を着替えの長袖とランニングシャツに替える。これだけでは寒いと思ったがしかたない(上着はバスのなかで乾く。セーターは乾かない)。ずぶぬれの衣服をポリ袋に入れているとバスの係の人がやってきてザックとスキーの運送費を支払う。8時40分発のバスに乗り込み、右側の席をとって一安心。2割くらいの入りだが、途中で乗ってくる老夫婦もいる。称名滝は遠くてちらりと見えた程度。でも、地上で見ている人たちもいた。ケーブルカーの乗り換えは一階下の乗場。一瞬上で待っていて下に降りる。ほぼ満員だが、ザックとスキーは持って入れる。立山駅に着くと駅構内は観光客で満員。こんな天気でも団体さんは登るのだ。二日ぶりの車に戻り、靴を履き替え、車に乗り込む。途中でグリーンパーク吉峰という温泉に寄っていく。600円だったかな。露天付き。小雨の露天に二度入る。ついでに海鮮丼をたべる。さしみはまずまず。

いろんなものを車内に広げて乾かす。セーターはなかなか乾かず、テントも少しづつ広げて乾かす。

メモ

    • クーロアール(couloir)・・・フランス語、浸食されてできた深い溝

    • ルンゼ(runse)・・・ドイツ語、々

    • ガリー(gully)・・・英語、々

メモ2(入山制限)

    • 剣岳では富山県条例で12月1日から5月15日の間の登山が規制されており、20日前までに届出提出する義務(メール可)がある。

    • 実態としては、5月連休頃から長次郎雪渓や平蔵谷を登山者やスキーヤーが登っている

    • 本登山(2006年)は5月21日~23日であり、届出提出対象外

    • 天候や雪の状況、アイゼンやピッケルなどの装備を確かめ、自分の技術で可能と判断して登ることにした

D1

鍬崎山

薬師岳

立山

パノラマ1:真砂岳、富士ノ折立、大汝山、雄山、浄土山

雷鳥沢の登り

剱御前小屋の前にて

パノラマ2:白馬岳、白馬鑓、唐松岳、五竜岳

剱岳

武蔵谷と一服劔

間違えて登った谷

いびつな剱岳

D2

朝日

外が明るくなってきた3時過ぎには同室の連中は起き出して出かけていく。私は4時前に起床。

滑走前の剱岳

平蔵谷

朝のカリカリの剱沢を滑り、前日、間違えた谷から更に下ると大きな谷があり、谷の正面右奥にはまぎれもない剱の白くて丸い山頂が見えている。平蔵谷だ。ここにも大きな岩がごろごろしている。谷の入口の少し上にスキートレースの跡。昨日と同じスタイルで出発。入口の少し上に泥だらけの部分があり、閉口。左岸側に行くと今度はクラックが出てくる。30分登って1回目の休憩。

天狗岩

2時間して日なたに出て、サングラスをかける。汗はどんどん落ちてメガネに落ちてくる。インディアン・クーロワールの入口に、インディアンの羽根のような尖がった岩。天狗岩もしくは尖岩と言うらしい。下からは気付かなかったが、ここまで来るとすごく目立つ存在。こいつの左側を登るルートに向かうが、クラックがありそうな雰囲気なので、天狗岩の右側に回ることにし、クラックの端で2回目の休憩。もう3時間経過。

インディアン・クーロアール入口

ピッケルを右手に持って登ってみたが、どうも落ち着かない。やっぱり両ストックをもって登るのが登るのも休むのも良いようだ。天狗岩のすぐ右側を登って行くと雪が切れていたが、なんとか登れる。雪面から岩面へ手がかりを伝い、ハイ松を掴んで上の雪壁に上がる。登った先は雪の尾根。振り返ると天狗岩の先端が大きくこちらを見ている。行く手には、雪尾根の向こうに目指す剱の白丸頭が見えている。ハイ松のところで第3回休憩。アイゼンで足場を作ってザックを降ろす。この尾根の右下に長次郎谷らしき谷が見えてくる。

剱沢上部と前剱

鹿島槍ヶ岳

パノラマ3:鹿島槍ヶ岳、爺ヶ岳、蓮華岳、針ノ木岳

丸い剱岳

ここからはラストスパート。ひたすら真直ぐ登り、白丸頭が頭上でだんだん大きくなり、ついに頂上に達する。

八ツ峰

剱岳頂上の祠と立てたスキー

雪の最高点の向こうに一段低く、剱岳の祠があった。これは雪をかぶっていない。頂上尾根の雪の上には踏跡が残っている。雪の最高点は祠より1~2m高いから、今の剱の高さは3,000mを越えてるんじゃないか・・・・・と思う。

祠と頂上標識

無風快晴(少しは風はあったが)。雪で湯を沸かしてホットウイスキーを2杯。クッキーをひとつ食べる。四周の眺め。東の北アルプスの、一番目立ってるのはどうも鹿島槍のようだ。剱沢ではひとつに見えた峰はここからは双耳になっている。するとその右側の三つのピークが爺ヶ岳だろう。そして少し離れた平らなのが蓮華で、尖がったのが針ノ木だろう。南には、別山の上に立山が立っている。なかなか見事。北側の早川尾根というのは、かなり下の方に見えている。

パノラマ4:奥大日岳と大日岳

毛勝三山:釜谷山、猫又山、毛勝山・西峰、毛勝山・東峰

大猫山、毛勝三山、赤谷山

剱岳頂上から滑走の直前

さて、十分に休み、アイゼンも乾き、雪の最高点に立てたスキーを取って滑降。東端まで行って見下ろした長次郎谷は、気のせいか平蔵谷よりも楽そうに見える。熊岩というのはあれかなあ。あの東側を登るというのも楽そうだなあ・・・・・まあ、頂上直下あたりは、ここからは見えないが、相当急なんだろう。

晴れた春の日、コンディションは絶好。インディアン・クーロアールに向かって、オーバーハングの向こうに滑る。自分の踏み跡が無ければなかなか滑りこめない傾斜ではある。

インディアン・クーロアールの滑走

日なたの頂上付近の雪は柔らかくなっていて登りには適度だったが、スキーでターンすると雪が斜面を流れ落ちる。雪に足を取られたくないので、ターンの度に停止して雪が過ぎるのを待つ。一つ一つのターンは私の技術で楽にこなせる範囲なのだが、しびれるような緊張感の連続。この下はインディアンまで大きな雪原(斜度は45度くらい)を滑り、インディアンの入口付近で雪の繋がっている箇所を探す。東側の二箇所が繋がってるようで、少しづつ降りていって見定める。やや近い左側通過点でもよさそうだが、狭そうなのでもっと下の右側通過点まで降りる。岩と岩の間を一気に滑って通過。広い雪原に飛び出してターン停止。

平蔵谷の滑走

振り返ると上の通過点はとても狭くて通れそうもないように見えた。すると、下の通過点で正解だった訳だ。インディアンの東下のこの雪原は上部は広いが下るにつれて狭くなっている。しかもクラックがたくさんあるはず。慎重にターンしてゆくと、雪が切れて登った箇所の真横に出て、雪壁に登った踏み跡がくっきり残っていた。クラックに沿ったトラバース箇所の下あたりを滑って平蔵谷に入る。ここまでくれば一安心。

平蔵コルから続いているスキートレースを参考に滑りやすいラインを選んで滑る。最後の箇所が土が出ていて滑れない。しかし、スキーを外して歩くとブーツが汚れるので、スキーをつけたままで横向きに降りていく。

剱沢

剱沢まで下り、感慨をもって平蔵谷を見上げる。ここから見ると単なる細い雪渓だが、登りも下りも気が抜けない。緊張感から解放され、心地よい幸福感。自分のつけたトレースはかすかに見えている程度。インディアンのあたりから上は詳細は見えない。水を飲み、アイゼンを付ける。シールの方が楽かなあと思ったが、今回は全て担いでいくことにする。頂上から出合への滑降は1時間弱。

剱沢の登り返し、最初の30分目の休憩中、スキーヤーのグループが滑り降りて行った。7~8名。ここより下だと三ノ窓雪渓との出合くらいまで行くのだろうか。スキーヤーが去り、剱沢は静寂を取戻す。2回目の休憩から立ち上がり、歩き始めると、今度はヘルメットをかぶった登山グループとすれちがった。どんどん降りていってが、どこに行くんだろう。またまた一人取り残される。休憩の度に斜面に座って頂上を眺める。よくあんなところを登り、下ってきたものだ。剱に登って、これまでの山スキーとは違うインパクトを受ける。

剱岳

剱御前小屋に寄っておでんとビールでひと休み。外ではだいぶ風も出てきた。今夜雨というのは当たりそうだ。スキーを履き、誰もいない雷鳥沢をゆっくり滑る。テント場までいくと、テントは2張のみ。さっそくテントの中で湯を沸かし、ホットウイスキーをまずつくり、それからラーメンを作る。テント場はまわりが峰で囲まれているが、それでも風は強い。テントの入口と煙突を開けておけば湯気は外に出ていく。

この剱岳滑走は、私の山登りキャリアにおいて、ターニングポイントとなった。遊び半分ではこんな登山や滑走はとてもできない。アマチュアではあるが、エキスパートのレベルを目指す。事前準備を怠らず、用具もそれなりのものを揃え、滑走の練習を継続し、心構えや状況判断も勉強することにしよう。

剱岳七変化

空から見る厳冬の剱岳(2007年2月6日)

・左:剱沢

・中央左:平蔵谷

・中央右:長次郎谷

・右:三ノ窓雪渓と小窓雪渓

南東側:針ノ木岳から見る二つの谷を従えた剱岳(2014年5月4日)

・頂上左:平蔵谷

・頂上右:長次郎谷

南西側:奥大日岳から見る坊主頭の剱岳(2007年5月3日)

北西側:大猫山から見る岩の殿堂の剱岳(2012年5月13日)

・頂上左:長次郎ノコル

北東側:五竜岳から見るごつごつした剱岳(2008年4月29日)

頂上のすぐ右が長次郎ノコル

その更に右下が三ノ窓と小窓