利尻岳 最北の名峰からの滑走

北海道(道北)  南峰1,721m(俯瞰)、北峰1,719m  2006年4月30日

日本百名山

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名山一人旅

私の登る山には名山と呼べない山もあるだろう。だが、登っているときに心ときめくものがあれば、それは私にとって名山だ。

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幌延から日本海に近づいたとき、左前方に雲に半分かくれた真っ白い大きな山が見える。こんなところにあんな高い山があったかなあ。カーナビを見ても、左前方には海しかない。そうか、あれは利尻岳だ!と気づく。幌延の湿地帯の向こうに、青空の下に立つ真っ白な利尻岳は、まるで洋上の島でないように見える。それは周囲の全てのものを静かに見下ろしていて、その存在感は圧倒的だった。

フェリーに乗って20分おきくらいに外に出ては利尻を写す。青空の下の真っ白な利尻岳がぐんぐん大きくなっていく。フェリーの反対側には礼文島が見えていた。夕焼けに染まり始めた空の下にたたずむ花の島。

野営場からここまで全く見えてなくて忘れかけていたのだが、突然、長官山の稜線の向こうに利尻岳が見えた!それは、これまで登ってきた斜面や尾根の上に超然と白い鋭鋒の姿で立っていた。息をのむほどに美しい。

最後のがんばりで登っていくと、右手にローソク岩が現われ、テラスに上がると利尻岳・北峰の小高いピークと休んでいるスキー・パーティが見えた。そして利尻岳頂上(北峰)に到達。感激。

さて、ブーツのバックルを締め、スキーを付けて滑降開始。青空の快晴、頂上付近の雪質はよく、気分爽快のショートターンを刻む。気がついてみると一番先を飛ばしていた。小屋のやや先に滑り込むと、先行の二人が休んでいた。ここまでの16分が今回のハイライトであろう。

突然、長官山の稜線の向こうに利尻岳が見えた!それは、これまで登ってきた斜面や尾根の上に超然と白い鋭鋒の姿で立っていた。息をのむほどに美しい。(これは復路の写真で、中央尾根沿いを登り、尾根の少し左側を滑走したトレースが微かに見える)。
フェリーから見る洋上の利尻岳
小尾根を越えるところでは、いったん稜線の左(東)斜面に出て、急斜面の踏み跡を右上に斜めに登って稜線に戻る
ローソク岩
利尻岳・南峰と私・・・・・南峰へは行かず
さて、ブーツのバックルを締め、スキーを付けて滑降開始。気がついてみると一番先を飛ばしていた
4:13 野営場PA発 5:23 林を抜ける(400m付近) 7:54 稜線1,100m 8:43 長官山1,218m 9:02 避難小屋11:35 利尻岳・北峰・・・・・・・・・・登り7時間22分11:56 利尻岳・北峰発、滑走12:12 避難小屋12:32 長官山12:59 林の入口(400m付近)13:03 野営場PA・・・・・・・・・・・・往復(含休憩)8時間50分

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(前日)

5月の連休でフェリーが混むと思い、1ヶ月前に4月28日(金)19:50を予約。週刊天気予報は土曜・日曜は良し、月曜は雨とのことで、予約の通りに出発。利尻と芦別は一泊するかもしれないのでテントとシュラフを用意。ヘルメットも持っていく。たいへんな荷物。函館に深夜に着き、いつもどおりにまず札幌に向かう。苫小牧のあたりで4時となり、夜明けの朝日が差す。深夜からの運転でもやもやした気分だったのが一気に目が覚め、頭も身体もしゃんとする。「利尻では前日テント泊にせず、車中泊で朝4時出発にすればよい。それならフェリーの時間の16:30に間に合うように日帰りできる」と思う。(この通りに実現)なかなか良い思いつきだと思っていたが、どうもカーナビがおかしい、旭川に行かず、小樽から海沿い周りになっている。高速のデータがないせいかな、ととにかく高速から降りずに進む。SAのパンフによると、旭川からカーナビに無い高速が稚内方面に一部伸びている。ところが今度はガソリンが無くなってきた。SAのスタンドは8時からだが、まだ5時。しかた無いので旭川で降りる。早朝6時に開いてるスタンドがあるかなあ、と不安だったが、なんとセルフのスタンドがあった!ハイオク135.5円は良いが、会員カードがないとリッター10円増しだという。探してみると昔申し込んだ会員カードが見つかった!ラッキー2連発で見事クリア!高速に乗りなおして稚内に向かう。

函館から600kmを札幌まで3時間、そのあと時速50kmでも6時間、計9時間というのが最初の予想。しかし、札幌までゆっくり行くと5時間かかってしまった。(仮眠をとったのも一因)この分だと11時間、午前11時かなあ、と予想を変える(その通りとなる。ただし、高速末端の士別から先にも、名寄(なよろ)バイパス、豊富バイパスが整備されており、70~80kmで走れる区間あり)。この日の圧巻は幌延から日本海に近づいたとき。その前にいくつかの山(ピヤシリ、ペンケ、パンケ)を発見してカーナビで同定していたが、左前方に雲に半分かくれた真っ白い大きな山が見える。こんなところにあんな高い山があったかなあ。カーナビを見ても、左前方には海しかない。そうか、あれは利尻岳だ!と気づき、道端に止めて写す。最初は半分雲に隠れていた利尻岳は、進むうちにどんどん雲が晴れてきて、やがて全身を現した。幌延の湿地帯の向こうに、青空の下に立つ真っ白な利尻岳は、まるで洋上の島でないように見える。それは周囲の全てのものを静かに見下ろしていて、その存在感は圧倒的だった。山側に戻ろうとするルートを外れて海側に向かい、何度も利尻岳を写す。

さて、豊富バイパスという無料の高速があり、これで稚内に向かう。稚内のフェリーターミナルの場所をまず確認し、1時間前の13:20まで約2時間あるので、ノシャップ岬と宗谷岬に行く。ノシャップ岬からは、海の上に浮かんでいる利尻岳を見る。群青の海の上の利尻岳の姿は変わらず、圧倒的な存在感も変わらない。宗谷岬は稚内市内から思ったよりだいぶ遠かったが、間宮林蔵の像、日本最北の地のモニュメントがある。海のかなたには樺太らしき陸地が微かに見えていた。稚内市外に大沼という大きな湖があり、そこにたくさん白鳥がいた。昼飯を買い込んで(道中買ったバナナはまだ2本残っている。まるかじりサラダはGOOD)、フェリーに後ろ向きに乗り込む(そういうフェリーの構造になっている)。

フェリーに乗っても落ち着かない。20分おきくらいに外に出ては利尻を写す。青空の下の真っ白な利尻岳がぐんぐん大きくなっていく。その尖った頂上は、スキーで滑るのは難しそうに見える。フェリーの反対側には礼文島が見えていた。標高が低く、利尻に比べると全く目立たないが、北部にある礼文岳を同定できる。夕焼けに染まり始めた空の下にたたずむ花の島。天気予報はどこも「土曜は晴れ、日曜は崩れる」と言っている。「金曜休んで今日登るんだった」と何度も思う。明日曇っていたらがっかりだ。フェリーの中には布ケースに入れたスキーとでっかいキスリングがいくつか置いてある。ははあ、明日登る人のだな。さすが利尻、と思う。

ところが、鴛泊についてまっすぐ北野営場に行くと、駐車場まで除雪されているのに誰もいない。拍子抜け。さっきの人たちは宿に泊まるんだろうか。少なくとも今日、キャンプする人の車くらいはあると思ったのだが、違っていた。一応、踏み跡とトレースはあるようだ。まだ明るいが、車中泊に決定。ザックを入れ替え、スキーにシールとスキーアイゼンを着け、明日4時出発に備える。しかし、テルモスにコーヒーが必要だ。そこで、麓のコンビニまで買い物に行く。ついでにビールと丼とサラダも買い込む。ゲームをやりながらビールを飲む。外はまだ明るい。もしや、と思ってテレビを点けるとすごく良く映る。NHKの大リーグ、ヤンキースの試合を見る。前日のフェリーではジョンソンが打たれていたが、この日は勝っていた。ビール二杯目でうつらうつらし、ふと気がつくともう9時。野球も終わろうとしている。食事を終え、就寝。

(当日)

さて、当日朝、寒くて何度か目覚め、スキー服を着込む。3時にアラームが鳴ったが、まだ暗いので起きだしたのは3時半過ぎ、出発4時13分。予想通りのカリカリのトレースを辿っていく。稜線が全く見えないのは変だと思っていたら、白い空に白い山肌が溶け込んで見難くなっているようだ。やがて木々の間にテントが見えてきたと思ったら森林限界のようだ。ここまで約1時間は予定通り。林を抜け、目の前に視界が開け、踏み跡が尾根と尾根の間の沢筋に続いており、そのずっと先に先行する二人が小さく見えている。夜明けに出発したとすれば、1時間くらいの先行かな(結局、登りでは追いつかず)。ここでは山頂は見えず、ピークが三つほど見えており、どれかが長官山だろうとは思っていた。沢筋は標高600m付近に分岐があり、分岐の左の斜面を登り、復路では分岐の右の斜面を滑走した。しかし、稜線までのルートは次第に傾斜を増し、アイスバーンの上に薄く新雪がのっているのが登りにくく、早めにアイゼンに切り替える。これは正解だったかもしれないが、雪はブレイカブル気味で歩きにくく、体力を消耗。しかし、稜線(1,100m)までの900mを3時間半強は計画通りである。遅く感じたのは、7時頃に分岐付近(600m)に現れた4人で、ぐんぐん登ってくるので追いつかれるのは時間の問題と思われた。稜線の岩場でしばし休憩。青空の下に見えてきた鴛泊港や礼文島を写す。

先行の二人が全く見えなくなっていたが、ここから長官山までは思ったよりも楽であった。それは、途中から頂上が見え出したことも関係あるのだろう。野営場からここまで全く見えてなくて忘れかけていたのだが、突然、長官山の稜線の向こうに利尻岳が見えた!それは、これまで登ってきた斜面や尾根の上に超然と白い鋭鋒の姿で立っていた。息をのむほどに美しい。私は美しさに見とれながら登り続けた。当時のガイドには「前半はスキーが有効」とあり、頂上から滑るかどうかは決めていなかった。ここまでの4時間、および昨日、利尻の頂上を見ながら「頂上から滑れるだろうか。避難小屋にデポしていくべきか」悩んでいたが、ここで頂上を見た瞬間、「全然いける」と確信。遠くから見ると傾斜があるように見えた斜面も、この距離から見ると全く問題ないように見える。しかも、ほとんど無風状態!

やがて小屋が見えてきて、先行の二人が登っているのも見えてきた。長官山の頂上でシールを外し、雪質を試すためにも滑ってみる。問題なし。小屋のところでお茶500ミリリットルを飲み干し、タンクから補充する。それにしても後の4人はまだ来ない。たぶん稜線1,100m付近で大休止してるんだろう。さて、最後の500mを30分毎休憩、予定通りの2時間半で登る。シュカブラみたいな硬い部分があり、岩場で抜けてしまうところもある。傾斜が増し、先行二人は見えなくなり、下の四人は小屋を休まずに迫ってくる。西側の沓形稜との谷が見えてきて、そこにトレースが下までついているようだ。しかし、ここを降りては北麓野営場に戻れないだろう。

10時の休憩のところでは、ヘリコプターの落とした資材のようなのが置いてあった。カラスも二羽いる。結局、追い越されたのは11時頃。元気な男性が追い越してゆき、その先の小尾根を越えるところで最後の休憩。下の3人が先に行き、上から降りてきた2人が下っていく。小尾根を越えるところでは、いったん稜線の左(東)斜面に出て、急斜面の踏み跡を右上に斜めに登って稜線に戻る。かなり傾斜があり、踏み跡がないと進みづらいだろう。さて、最後のがんばりで登っていくと、右手にローソク岩が現われ、テラスに上がると利尻岳・北峰の小高いピークと休んでいるスキー・パーティが見えた。そして利尻岳頂上(北峰)に到達。感激。北峰の祠は屋根まで雪に埋まっていた。奥に見える南峰へは踏み跡があったが、行かなかった。遠景はやや霞んでおり、頂上からの見ものはローソク岩と南峰。仙法志稜や沓形稜は見えない。南峰をバックに写真を撮ってもらう。ひとわたりデジカメを撮り、ウイスキーのコーヒー割りを飲む。今日はヘルメットだが、ゴーグルが曇るので半分は外して登った。携帯用サングラスを持ってくるんだった。

さて、ブーツのバックルを締め、スキーを付けて滑降開始。青空の快晴、頂上付近の雪質はよく、気分爽快のショートターンを刻む。気がついてみると一番先を飛ばしていた。ターンに疲れて休止し、滑ってきたトレースを写す。4人が追いついてくる。頂上斜面の下の小尾根を越える部分は、少し段差になっていたが、めんどうなのでそのまま滑り降りる。着地のときに尻餅をついた記憶があるが、すぐに立ち上がり、登ってきたルート沿いにショートターンで降りる。調子よく連続ターンしている最中に、踏み込んだ右足が抜けなくなって(だと思う)右ターンで転ぶが、大事なし(芦別でも緩斜面で足をとられて転ぶ。やわらかくなってる部分に注意しなくては。それと、右スキーの内側が削れたのは、この時だったかもしれない)。4人はここから沓形の方に降りたようで、やってこなかった。硬くてとても滑れないシュカブラを避け(岩なのかもしれない)、小屋のやや先に滑り込むと、先行の二人が休んでいた。ここまでの16分が今回のハイライトであろう。

長官山まで登り返し、そこから斜面に滑り込む。なんとなく雰囲気の悪い斜面で、滑ると賑やかに雪のかけらが落ちていく。雪質も重くなってる感じなので、沢底に滑り込んで、もし転んだら雪だるま雪崩になるかもしれない。足の疲れもあり、無理せず斜面右側をトラバースぎみに下ってゆく。登ってきた斜面との合流点はずいぶん離れていて、小尾根を3~4個越えてトラバースしてゆき、合流点のひとつ前の斜面を下までゆっくり降りていく。対面にある丘では4人がスキーをやっている。位置からいって、さっきの4人ではないだろう。二人が斜面を登っていく。斜面の下まで降りるとスノーモービルの跡がたくさんついていた。雪は腐っていて滑りにくい。登りのルートに合流し、見上げると二人が稜線1,100m直下を降りているのが見える。暑いので上着を脱ぎ、手袋を外す。ビンディングを外してゆっくり滑ったが、登り返しはなし。野営場に着くと人がいて、スノーモービルをやってる人もいた。

後ろ向きに車を乗せたフェリーは満員。稚内まで戻ると空は曇り、もう利尻は見えなくなっていた。

前日

朝日

苫小牧のあたりで4時となり、夜明けの朝日が差す。深夜からの運転でもやもやした気分だったのが一気に目が覚め、頭も身体もしゃんとする。

幌延付近から見る利尻岳

この日の圧巻は幌延から日本海に近づいたとき。左前方に雲に半分かくれた真っ白い大きな山が見える。こんなところにあんな高い山があったかなあ。カーナビを見ても、左前方には海しかない。そうか、あれは利尻岳だ!と気づき、道端に止めて写す。最初は半分雲に隠れていた利尻岳は、進むうちにどんどん雲が晴れてきて、やがて全身を現した。幌延の湿地帯の向こうに、青空の下に立つ真っ白な利尻岳は、まるで洋上の島でないように見える。それは周囲の全てのものを静かに見下ろしていて、その存在感は圧倒的だった。山側に戻ろうとするルートを外れて海側に向かい、何度も利尻岳を写す。

ノシャップ岬と利尻岳

ノシャップ岬からは、海の上に浮かんでいる利尻岳を見る。群青の海の上の利尻岳の姿は変わらず、圧倒的な存在感も変わらない。

宗谷岬の間宮林蔵像

宗谷岬は稚内市内から思ったよりだいぶ遠かったが、間宮林蔵の像、日本最北の地のモニュメントがある。海のかなたには樺太らしき陸地が微かに見えていた。

大沼の白鳥

稚内市外に大沼という大きな湖があり、そこにたくさん白鳥がいた。

フェリー乗船

フェリーに後ろ向きに乗り込む(そういうフェリーの構造になっている)。

フェリーから見る洋上の利尻岳

フェリーに乗っても落ち着かない。20分おきくらいに外に出ては利尻を写す。青空の下の真っ白な利尻岳がぐんぐん大きくなっていく。その尖った頂上は、スキーで滑るのは難しそうに見える。

天気予報はどこも「土曜は晴れ、日曜は崩れる」と言っている。「金曜休んで今日登るんだった」と何度も思う。明日曇っていたらがっかりだ。フェリーの中には布ケースに入れたスキーとでっかいザックがいくつか置いてある。ははあ、明日登る人のだな。さすが利尻、と思う。

礼文島

フェリーの反対側には礼文島が見えていた。標高が低く、利尻に比べると全く目立たないが、北部にある礼文岳を同定できる。夕焼けに染まり始めた空の下にたたずむ花の島。

礼文岳

当日

林のトレース

出発4時13分。予想通りのカリカリのトレースを辿っていく。稜線が全く見えないのは変だと思っていたら、白い空に白い山肌が溶け込んで見難くなっているようだ。やがて木々の間にテントが見えてきたと思ったら森林限界のようだ。ここまで約1時間は予定通り。

長官山

林を抜け、目の前に視界が開け、踏み跡が尾根と尾根の間の沢筋に続いており、そのずっと先に先行する二人が小さく見えている。夜明けに出発したとすれば、1時間くらいの先行かな(結局、登りでは追いつかず)。ここでは山頂は見えず、ピークが三つほど見えており、どれかが長官山だろうとは思っていた。

左の写真の中央ピーク(1,100m)の真後が長官山1,218m。沢筋は標高600m付近に分岐(左の写真の中央付近)があり、分岐の左(写真中央)の斜面を登り、復路では分岐の右(写真右上)の斜面を滑走した。

長官山から登路を見下ろす・・・右奥が鴛泊港、中央雪原に4人が小さく見える

しかし、稜線までのルートは次第に傾斜を増し、アイスバーンの上に薄く新雪がのっているのが登りにくく、早めにアイゼンに切り替える。これは正解だったかもしれないが、雪はブレイカブル気味で歩きにくく、体力を消耗。しかし、稜線(1,100m)までの900mを3時間半強は計画通りである。遅く感じたのは、7時頃に分岐付近(600m)に現れた4人で、ぐんぐん登ってくるので追いつかれるのは時間の問題と思われた。稜線の岩場でしばし休憩。青空の下に見えてきた鴛泊港や礼文島を写す。

礼文島

見えた利尻岳

先行の二人が全く見えなくなっていたが、ここから長官山までは思ったよりも楽であった。それは、途中から頂上が見え出したことも関係あるのだろう。野営場からここまで全く見えてなくて忘れかけていたのだが、突然、長官山の稜線の向こうに利尻岳が見えた!それは、これまで登ってきた斜面や尾根の上に超然と白い鋭鋒の姿で立っていた。息をのむほどに美しい。

私は美しさに見とれながら登り続けた。

当時のガイドには「前半はスキーが有効」とあり、頂上から滑るかどうかは決めていなかった。ここまでの4時間、および昨日、利尻の頂上を見ながら「頂上から滑れるだろうか。避難小屋にデポしていくべきか」悩んでいたが、ここで頂上を見た瞬間、「全然いける」と確信。遠くから見ると傾斜があるように見えた斜面も、この距離から見ると全く問題ないように見える。しかも、ほとんど無風状態!

代官山からの滑走斜面(中央奥に礼文島、右中央に鷺泊港とペシ岬)

1,250m峰(代官山・南峰)から見る利尻岳・・・右下に避難小屋

やがて小屋が見えてきて、先行の二人が登っているのも見えてきた。長官山の頂上でシールを外し、雪質を試すためにも滑ってみる。問題なし。小屋のところでお茶500ミリリットルを飲み干し、タンクから補充する。それにしても後の4人はまだ来ない。たぶん稜線1,100m付近で大休止してるんだろう。さて、最後の500mを30分毎休憩、予定通りの2時間半で登る。シュカブラみたいな硬い部分があり、岩場で抜けてしまうところもある。傾斜が増し、先行二人は見えなくなり、下の四人は小屋を休まずに迫ってくる。西側の沓形稜との谷が見えてきて、そこにトレースが下までついているようだ。しかし、ここを降りては北麓野営場に戻れないだろう。

避難小屋

利尻岳頂上部

代官山

礼文島

小尾根

10時の休憩のところでは、ヘリコプターの落とした資材のようなのが置いてあった。カラスも二羽いる。結局、追い越されたのは11時頃。元気な男性が追い越してゆき、その先の小尾根を越えるところで最後の休憩。下の3人が先に行き、上から降りてきた2人が下っていく。

小尾根の先を登る登山者

小尾根を越えるところでは、いったん稜線の左(東)斜面に出て、急斜面の踏み跡を右上に斜めに登って稜線に戻る。かなり傾斜があり、踏み跡がないと進みづらいだろう。

ローソク岩

さて、最後のがんばりで登っていくと、右手にローソク岩が現われ、テラスに上がると利尻岳・北峰の小高いピークと休んでいるスキー・パーティが見えた。そして利尻岳頂上(北峰)に到達。感激。北峰の祠は屋根まで雪に埋まっていた。奥に見える南峰へは踏み跡があったが、行かなかった。遠景はやや霞んでおり、頂上からの見ものはローソク岩と南峰。仙法志稜や沓形稜は見えない。南峰をバックに写真を撮ってもらう。ひとわたりデジカメを撮り、ウイスキーのコーヒー割りを飲む。今日はヘルメットだが、ゴーグルが曇るので半分は外して登った。携帯用サングラスを持ってくるんだった。

利尻岳・北峰とローソク岩

利尻岳・南峰と私・・・南峰へは行かず

南峰

南峰とローソク岩

雪に埋まった祠

滑走開始

さて、ブーツのバックルを締め、スキーを付けて滑降開始。青空の快晴、頂上付近の雪質はよく、気分爽快のショートターンを刻む。気がついてみると一番先を飛ばしていた。ターンに疲れて休止し、滑ってきたトレースを写す。4人が追いついてくる。頂上斜面の下の小尾根を越える部分は、少し段差になっていたが、めんどうなのでそのまま滑り降りる。着地のときに尻餅をついた記憶があるが、すぐに立ち上がり、登ってきたルート沿いにショートターンで降りる。調子よく連続ターンしている最中に、踏み込んだ右足が抜けなくなって(だと思う)右ターンで転ぶが、大事なし(芦別でも緩斜面で足をとられて転ぶ。やわらかくなってる部分に注意しなくては。それと、右スキーの内側が削れたのは、この時だったかもしれない)。4人はここから沓形の方に降りたようで、やってこなかった。硬くてとても滑れないシュカブラを避け(岩なのかもしれない)、小屋のやや先に滑り込むと、先行の二人が休んでいた。ここまでの16分が今回のハイライトであろう。

頂上からの滑走・・・気がついてみると一番先を飛ばしていて、振り返って頂上を写す

長官山への滑走

避難小屋から見上げる利尻岳(小屋の影で二人が休憩中)

利尻岳からの滑走トレース

長官山からの滑走斜面

長官山まで登り返し、そこから斜面に滑り込む。なんとなく雰囲気の悪い斜面で、滑ると賑やかに雪のかけらが落ちていく。雪質も重くなってる感じなので、沢底に滑り込んで、もし転んだら雪だるま雪崩になるかもしれない。足の疲れもあり、無理せず斜面右側をトラバースぎみに下ってゆく。登ってきた斜面との合流点はずいぶん離れていて、小尾根を3~4個越えてトラバースしてゆき、合流点のひとつ前の斜面を下までゆっくり降りていく。対面にある丘では4人がスキーをやっている。位置からいって、さっきの4人ではないだろう。二人が斜面を登っていく。斜面の下まで降りるとスノーモービルの跡がたくさんついていた。雪は腐っていて滑りにくい。登りのルートに合流し、見上げると二人が稜線1,100m直下を降りているのが見える。暑いので上着を脱ぎ、手袋を外す。ビンディングを外してゆっくり滑ったが、登り返しはなし。野営場に着くと人がいて、スノーモービルをやってる人もいた。

長官山滑走斜面下部

分岐合流点

右の谷(滑走)

左の谷(登路)

林の入口と誰かのテント

林間滑走

野営場駐車場

フェリーと利尻岳

後ろ向きに車を乗せたフェリーは満員。稚内まで戻ると空は曇り、もう利尻は見えなくなっていた。

コメントはこちらに:kawabe.goro@meizan-hitoritabi.com