雪倉岳 山スキーのクラシック・ルート
新潟県 雪倉岳2,611m、朝日岳2,418m、白馬乗鞍岳2,436m 2009年4月28~5月1日(山小屋3泊)
(雪倉岳)日本二百名山
(朝日岳)日本三百名山
(白馬乗鞍岳)山スキールート集1
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初日、白馬乗鞍岳に登り、天狗の庭尾根を下る。天狗の庭(2,093m)の下はほどよい傾斜のオープン斜面になっており、重いザックでのショートターン滑走となる。本日のハイライト。
二日目、蓮華温泉を出ると、正面に雪倉岳が大きい。丸みを帯びた真っ白な巨体が青空の下で輝いている。雪倉岳は遠目には目立たない山だが、蓮華温泉から見る姿は印象的。
雪倉岳の広い北東尾根で、ずっと見えている朝日岳は全景が見えるようになり、雄大。少し斜めを向いた横顔の朝日岳は真っ白な姿で、ゆったりと右に五輪尾根を伸ばしていて、見とれるほどに優雅。
天狗平から見たときは真っ白い横長の姿だった白馬乗鞍岳は、蓮華温泉から見上げたときはごつごつしたピラミッド、そして雪倉岳から真横に見たときは太い稜線が小蓮華山とつながり、黒々とした獣が伏せているような姿に見えた。
最初に見えた岩場のやや右奥に別の岩場があり、そこが頂上であった。手前の岩場に雷鳥が歩いている。なんでこんなときに、と思いながらも雷鳥を写し、そして頂上に到達する。叫ぶ。声がでない。もう一度大声で叫ぶ。スノーブリッジを渡れないので無理かなと思っていた。北東斜面の登りは長く、辛かった。そして雪倉岳の頂上にたどり着けた。登る苦しみから解放され、ただ歓喜。
そして、頂上から広大な斜面を思う存分滑る。急なアイスバーンをガリガリ滑り、その下のハイ松帯までくるともうスキーがひっかかり始める。アイゼンで登った急斜面はもう柔らかくなっていて、ひっかけて転ばぬよう、大きなターンを刻む。下から振り返り見上げると、雪の急斜面にどこまでも続くアイゼンの踏跡。よく登ったなあ。
三日目、朝日岳まであとわずかのとき、顔を上げて見渡すと、すばらしい景観が広がっており、乗鞍岳と雪倉岳が連なって見え、その向こうの小蓮華山、さらには雪倉岳の右手に尖りピーク(旭岳)、そして前日、ガスがかかる前に一瞬見た白馬岳が見えてくる。壮観。
五輪尾根から白高地沢への斜面は適度な柔らかさで、ショートターンで滑れる。まあ、頂上からここまでがハイライト。
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4日間ツアーの初日、乗鞍高原スキー場でゴンドラとロープウェイに乗り、頂上駅でシールを貼って天狗平、白馬乗鞍岳に登り、天狗の庭尾根を滑走して蓮華温泉に入る。山小屋で熱い湯に入れるというのは格別だ(露天風呂があるとは知らず、行かなかった):
今年の5月連休長期ツアーの時期がやってきた。まず、3泊4日を要する雪倉、朝日の栂池・蓮華温泉を目指す。車には食糧や衣類を詰め、ザックは大小二つ、スキーはひとつにしたが、昨年の教訓でストックは二つ、更に、スーパーで購入したペットボトル類。コンビニで157円が100円前後なのだから、かなり安い。それに、運転中の防寒対策にスキー服の上着(ウルフスキン)をもっていく(これは結局、山にも持っていき、役に立つ)。車はギヤチェンジがおかしくなっていて低速走行に難があるが、高速を走る分には問題はない。
しかし、テレビの天気予報は、長野は晴だが新潟は曇、と言っているので、雪倉、朝日は1日遅らせ、初日は御岳に行くことにして長野道に入る。前に御岳に登った時は頂上がガスだったので、もう一度登っておきたい。だが、新潟から御岳までは結構距離がある。しかも、長野道に入ったとたんにそれまで隠れていた妙高、火打が見えてきた。こいつは晴れそうだ。妙高SAで天気予報をテレビで再確認すると、予報が変更され、関東から太平洋側が天候悪化(晴時々雨)、日本海側は晴の予報。なんだ、ということで妙高インターで乗り直し、糸魚川から栂池に向かう。
青海黒姫山や雨飾山を見ながらR148を南下。右手の大きなのは明星山だろう。真白い北アルプスの一角らしきのも見えるが、同定できず。温泉のある道の駅小谷を過ぎ、栂池高原の案内を曲がり、車道を登って行くと真っ白な鹿島槍や五竜が見える。すごい快晴。雪のまったくないスキー場の駐車場にはスキー客が来ていて、準備している人たちがいる。しかし、朝食を食べていなかったので、コンビニを探しにいったんR148まで降りる。コンビニからは鹿島槍から八方尾根が見える。下った道をスキー場まで登ると、思いがけず目の前に白馬三山が現われる。
駐車場でザックとスキーを準備(ピッケルをもっていかなかったのは失敗)し、車の後部座席を元に戻し、荷物を全部後部荷台にしまいこんで駐車場を出発。9時。チケットは先に買っておいたが、回数券は有効3日間なので、往路分のみ購入。ゴンドラに乗り込むと、雪の消えたゲレンデで野焼きの煙が上がっている。すぐに下車口に着き、乗り替える準備をしたが、そこは中間駅ということで、乗ったままで通過。なるほど。ゴンドラは行く手の山を越えてぐんぐん登って行く。南には北アルプスの景観が広がり、唐松岳から八方尾根の北側を初めて眺める。
山を越えて更に登って行くと次第に下に雪が出てきて、次の山を越えてゴンドラは下りとなる。下った先に駅があるようだ。真正面に白馬とその北側の山が並んでいたが、小蓮華と白馬乗鞍であった。駅を降りるといったんしまったチケットを見せろという。チケットを見せ、外に出る。そこはもうゲレンデで、ボーダーやらが滑っているが、ツアーコースはどっちだろう。ザックを担いだ人が正面右の道を滑って行ったが、あっちなんだろうか、それとも正面の林を登るのだろうか。ゴンドラの係員に聞くと、正面右の道の先にロープウェイがあるという。なるほど、ということでスキーをはいて滑って行くと、確かにロープウェイの駅があった。
ロープウェイ駅の先の斜面にリフトがついていて、そこで滑っている人たちがいる。たいした斜面ではないように見えるが、楽しそうだ。スキーを外して駅に上がるとちょうどロープウェイが降りてくる。乗り場に向かうと、次の出発は10時だと言われる。まあ、今日の行動予定は4時間くらいなので、問題はない。ロープウェイの中に入って待つ。行く手の斜面の上には白馬乗鞍に小蓮華が見えている。背後にはリフトとゲレンデ。老夫婦が乗り込んできて出発。そんなに長いロープウェイではないが、下は滑れない箇所があるので、帰りもロープウェイだという。
頂上駅に着くと係員が待っていて、山に入った後の注意を言う。乗鞍頂上では雷鳥保護のため、ハイ松を痛めないようにとのこと。それはいいが、蓮華温泉から雪倉への途上にある沢のスノーブリッジが壊れていると言う。それは困った。「下まで降り、橋を渡ってから登ればよいのか」と聞くと、そんなことをする人はいないという。困ったな、蓮華温泉からは朝日だけしか登れないかな。ともかく、外でシールを貼って出発する。老夫婦はスノーシューで散策らしいが、雪の道を少し登った先に栂池ヒュッテの大きな建物がいくつか建っている。
雪の道はヒュッテの横を奥まで続いているが、一応、ヒュッテの前まで歩いてみる。仕事をしている人が一人。ヒュッテの先の雪原の先に人がいたが、どうやら写真を撮っているだけのようだ。どっちにいけば天狗平なんだろう。雪原に少し入りこみ、どうも右手の斜面の方ではないか、と目をこらすと、果たして尾根の上を登っている小さな人影が見える。ヒュッテの手前あたりから右手の尾根に登ってきたんだろう。さっそく尾根に向かい、斜面を登る。だんだんきつくなって斜め登りのキックターンとなる。久し振りのテント・ザックがずしりと重い。
尾根のトレース直前でザックを下ろして最初の休憩。赤いヒュッテがもうだいぶ下に見えている。尾根のトレースはスキーと徒歩があり、相当大勢が登っているようだ。上にも下にも登っている人。上にはボードを担いだ団体。ゆっくり登って行くと、休んでいる団体には追いつけず、はるか後にいたスキーヤーに追い越される。尾根途中で2回目の休憩。次なる二人がやってきて、先に行く。尾根の右手は広い斜面になってきて、そこに旗門が立っており、その下で休んでいるスキーヤーがいる。あそこで自分で旗門を立てて滑ってるんだろうか(違った。旗門は振子沢からのルートを示しているものだった)。
傾斜は次第に緩くなり、広大な雪原になる。これが天狗平か。天狗平の先に幅の広い山がある。あれが白馬乗鞍だと、あれを登らないといけない。その手前の天狗平の真ん中に岩場があり、どうもあそこが天狗平の中心のようだ。そこに着いてみると人々が岩場で休んでおり、反対側には祠がある。ここは止まらずに乗鞍に向かう。乗鞍の斜面にはトレースがたくさんついており、大勢が登っている。スキーを担いで登っている人もおり、上は傾斜がきついのだろう。正面の登り斜面の左側を滑ってきた三人が横をすれ違う。帰りは振子沢だから、ここを登っても滑ることはない。
乗鞍の斜面は次第に急になるが、なんとかキックターンで登って行く。やがて表面が固くなり、スキーアイゼンを立てて登る。休み休みの登り。いまさらアイゼンにしなくてもなんとか登れそうだ。大小のザックのスキーヤーが斜面を滑り降りてゆき、やがて頂上岩峰が見えてくる。あそこまで行けばいいんだ・・・なかなか着かない。
雷鳥保護、立入禁止標示のところを過ぎ、岩峰の少し奥に三角点らしきものが見えるのでそこに行く。平坦な頂上には岩がちらばり、そのなかに二等三角点。ここが白馬乗鞍岳・三角点2,437m(だが、すこし離れた南峰2,456m、岩峰の北峰2,469mの方が標高が高かったようだ)。岩峰に標識が見えたので行ってみると、慰霊碑のようであった。やや雲が出てきたが、東に見えているのは焼山と火打で、その向こうに妙高、やや離れて乙妻・高妻が立っている。西には乗鞍の西峰、その向こうに雪倉、その奥に朝日も見えていたが、そのときはまだ分からず。南には小蓮華。
テルモスのお茶を飲み、少し休憩してから出発。風があり、雲も出ているので肌寒い。ここから滑走予定だったが、下り斜面が見えないのでシールをつけたまま、やや南西方向に向かう(真西の西峰に向かうべきだった)。広い頂上の先は雪原のくぼみ、くぼみの向こうに埋もれた煙突が見えたが、それは雪に埋まった白馬大池(2,370m)と大池山荘なのだろう。そのまま池を横断すればよかったのだが、登り返しがいやで池のこちら側をトラバース。結局、岩場にはまりこみ、苦労して雪原に下る。乗鞍の西峰の上を通り、もっと先で滑り下りるのが正解だったようだ。
乗鞍の西斜面に出ると西側の視界が広がり、正面が雪倉というのが分かってくる。このまま蓮華温泉に下ると沢を渡れないなら、ここから雪倉の麓に下り、そこにテントを張ればいいではないか、と思う。広い雪原が下り斜面となり、シールを外して滑走開始(2,370m付近)。最初は緩い傾斜をゆっくり滑るが、ザックが重いので軽快にとはいかない。やがて天狗尾根の急斜面が現われ、尾根のだいぶ下に尾根ピーク(2,308m?)が見えている。尾根の右手には雪庇、左手はブッシュが出ているので、間の雪の部分を滑走。尾根の両側は深い谷で、左手の雪倉との間は深い谷で区切られており、こちらから降りて渡れる部分は無さそうだ。「沢の上手から渡ってテント」というオプションは諦める。
北にはまだ高妻、焼・火打が見え、その手前にあるのが大渚と雨飾のようだ。尾根ピークを越えると急斜面が続いており、そこをゆっくり下る。雪倉の東斜面が間近で、中央下にある深い谷がスキールートのようだ。ずいぶん傾斜があるように感ずる。奥の朝日はずいぶん遠い。オーバーハングの尾根を下ってゆき、ようやく右手下に赤い屋根の蓮華温泉が見えてくる。ずいぶん下だなあ。蓮華温泉の左に天狗尾根の末端が見えており、テント場はその左手あたりだろう、と探すと、尾根末端の左手に小さい雪原と建物が見える。たぶんあれがテント場だろう。
次の尾根テラス(天狗の庭2,093m?)のところでザックを下ろして休憩。30分ほど滑ったが、まだ中間点。朝日へのルートが正面に見えている。あの頂上直下の斜面を登るのかな。ずいぶん急に見えるが、頂上の両側にはルートは無いように見えた(実は頂上右手の狭い斜面を登る)。雪倉の谷ルートの奥が見えており、複雑な構造だが、緩い所を拾って登れそうな感じではある。
天狗の庭(2,093m)の下はほどよい傾斜のオープン斜面になっており、重いザックでのショートターン滑走となる。本日のハイライト。途中の雪の切れ目をはさみ、まあ10分くらいかな。雪質さえよければ、ザックが重くても割と軽快にショートターンを刻めるものだ。しかし、雪が次第に重くなってくるとターンは長めになり、ブレーキが強めになるとヒザに負担がかかる。やがて斜面が狭くなり、右手は雪庇と谷なので、左手の林に入る。林の更に左手のオープン斜面を滑ればよかったのだが、その谷は尾根から外れていくと困るので、林の中にこだわるが、思ったよりも木が密集して滑りにくい。思い切ってスペースに飛び込み、急ブレーキで止まれずに転倒、というのが1~2回。カモシカが歩いて行ったところで止ろうとして転倒。ここはどういう顛末だったか忘れたが、ザックが重くて立ち上がるのに苦労した記憶。結局、林の左の谷斜面に入って滑ったが、うまくテント場の建物のあるところに出る(1,450m付近?)。滑走開始から1時間。そんなとこかな。
建物は全部屋根の下まで埋まっていて、張ってあるテントは無し。人のいる気配もなし。乗鞍を下ってくるトレースは全く無かった。ザックを置いてテント場の外を探すと、スキートレースが見つかる。蓮華温泉のほうから西に向かっているので、雪倉へのルートに違いない、と思う(違っていた。朝日へのルート)。それならばここにテントを張り、明日、雪倉へ向かえばよいことになるが、他にテントが無いのが不安。やっぱり蓮華温泉に泊まり、ダメなら白馬から回るなどの方法に切り替えた方がよかろう、とザックを担ぐ。結局、この判断が正解で、翌日の雪倉、次の日の朝日の登頂につながる。
雪の林道は最初は緩い下りで、ゆるゆると滑って行くが、蓮華温泉は意外に遠く、しかも緩い登りになり、スキーのままで斜めに登っていき、蓮華温泉(1,470m)に着いたのは16時。スキーは外に立て、ブーツは乾燥室あり。ブーツの中身を外して乾かす。先客は何人かいて、スキーも何本か立ててある。木造の二階建てだが、内装は新しく、部屋は二段ベッド4人分の奥に畳スペースのある構造。初日は一人だったが、翌日からは休日なので相部屋になるだろう。着替えをし、まずは地下の風呂へ。こいつはいい。山小屋で熱い湯に入れるというのは格別だ。夕食を食べ、7~8時頃に就寝。
受付の時の話では、雪倉の東斜面へは沢を渡れないので行けないが、橋を渡って北斜面からなら行けるという。ならば明日早く立って雪倉へ行こう。よかった。屋内に自炊室が無いので、翌朝5時に外で朝食をとり、6時に出発しよう、ということで携帯のアラームを4時半に設定しておく。
D2
4時半にアラームが鳴る前に目がさめ、5時前に起きだしてスキー服を着込み、朝食と調理具一式をもって外に出る。寒い。ジェットボイルをとりだし、やっぱりライターで点火して湯を沸かす。テルモスのお茶をつくり、最後にコーヒーを飲む。宿の人が一人、客が一人(この人は蓮華に登ると言っていた)外に出てくる。いったん部屋に戻り、小さくしたザックで出発。ちょうど6時となる。蓮華温泉からは裏手に乗鞍岳、正面右の遠くに朝日が見えているが、正面の雪倉は蓮華の尾根末端に隠れて頂上部分がわずかに見えているのみ。小さなこいのぼりがひるがえる。
スキーをはいてさっそうと滑りだしたが、すぐに登り返しとなり、狭いのでスキーを横にもできず、なんとかストックで押して前進。こいつは疲れるな。テント場前を通り、そこからはトレースを辿って林間の滑走。早朝なのでカリカリ。林間は広く、ここが兵馬ノ平なのかなと思う。やがて沢の流れる雪原に出る(そこが兵馬ノ平1,330m付近)。こいつが瀬戸川か(・・・は勘違い)。正面に雪倉が大きい。丸みを帯びた真っ白な巨体が青空の下で輝いている。雪倉岳は遠目には目立たない山だが、蓮華温泉から見る姿は印象的。東面の谷が正面にあり、くねっているが登れそうな感じ。今日はあそこを登るわけではない。沢にはスノーブリッジがあるが、手前の雪に埋もれているところで渡る。雪原の先の傾斜が登りになるところでシールをつける。背後には乗鞍岳が立っている。
トレースに沿って緩い坂を登ると・・・な・なんと次なる下り斜面が待っていた。蓮華温泉1500m地点から瀬戸川橋1200m地点まで300mの下りにしては軽いなあ、と感じていたが、やっぱりまだ下るのだ。シールを外し、さっきよりも急な斜面のアイスバーンをガリガリ下り、オーバーハングの先にようやく瀬戸川と橋(950m)が見えてくる。いやあ、ずいぶん下るなあ。登り返しがたいへんだ。(瀬戸川橋950mから蓮華温泉1,470mまで520m)
ザアザア流れる川の上にごつい鉄製の橋。急斜面でスキーを外し、ここは慎重にザックに取り付けて橋を渡り、対岸で再度シールをつける。ここまで下るとだいぶ雪も融けていて、小さな沢はスキーを外して渡り、土手の上に登ってスキーを履き直す。林の中を登って行き、尾根のようなところから池のそばを通り、その先でトレースが二手に分かれている。「なるほど、右が朝日で左が雪倉か」と勘違いして左に進むが、トレースはすぐに合流する。なんだ。
その先でもう一ヶ所トレースが分かれ、左のトレースを辿るが、これも左の斜面をトラバースしていく。どこかで左の斜面を登らないといけないだろう、と思い、ころ合いでトレースを外れ、登りやすそうな斜面を登る(ひょうたん池の先、1,300m付近)。8時。空をセスナが飛んでゆく。登って行くにつれて林を抜け、視界が広がる。乗鞍岳がだいぶ遠くに見える。行く手の左にマイナーピーク1,510mがあり、そっちに向かって登る。途中でGPSを起動。まだ1500~600m付近のようだが、方向は間違っていないだろう。背後には朝日。しかし、マイナーピーク手前でブッシュが出ていて登れず、右奥の谷にいったん下る。雪が切れていたが、木の枝をつかんで数メートル下り、谷を登る。マイナーピークの先に尾根が続いており、そいつに登ると視界が広がる。
尾根はマイナーピークから西につながっており、途中で南西に向きを変えて雪倉岳頂上に向かっている。その西尾根の南側は広い谷になっており、その向かい広い尾根斜面が緩く盛り上がっている。頂上は見えてないようだ。少し廻り道だが、西尾根沿いに登ればいいだろう、ということで西尾根を辿るが、西尾根は細く、木を避けてトラバースしていかねばならず、この先にも急なトラバースがあるように見えた。それよりも南の谷を渡り、正面の広い尾根斜面を登った方が楽だろう。意を決して谷に向かってシールのまま下る。
谷底(1,500m付近)に着き、すぐに登り返す。谷をそのまま登って行くのが楽そうだったが、たぶん谷の奥の登りがつらいだろう。それよりも広い尾根斜面を登ろう。斜面は思ったよりも傾斜があり、長めのキックターンで登る。上はオーバーハングで見えないが、木の生えているところが目標。雪倉岳の広い北東尾根を登ると、思ったとおりぐんぐん高度があがり、さっき越えてきたマイナーピーク1,510mがもうはるか眼下となり、北に朝日岳が大きく見えてくる。左手上のブッシュのところで最初の休憩。雪が固く、アイゼンに切り替える(1,660m付近)。昨日と違って快晴で、雲一つ見えない(日焼け止めを塗り直すべきだった)。この後、雪が固くなるとアイゼンに切り替え、ハイ松帯で踏み抜きが多くなるとスキー・シールで登る。
ついに木のはえているところに達し、傾斜が緩くなる。よって谷の底はオーバーハングの向こうに見えなくなるが、上方もやはりオーバーハングしていてまだ頂上は見えない。ハイ松帯になっているところで2回目の休憩。GPSによると2000m地点まで来ているようだ。晴天だが薄いガスがかかっており、前日見えていた高妻や焼・火打が霞んでいる。東の主稜の向こうに見えている乗鞍は形が変わり、下から見えていたピークの上に頂上が見えている。昨日はあそこを滑ったのだ。更に登ると、乗鞍の尾根の下に蓮華温泉の赤い屋根が見えてくる。ずいぶん遠くまできたなあ。
ハイ松帯のあたりは雪が融けていて踏み抜きが多くなり、スキーを下ろしてシールに変える(2,200m付近)。景色がどんどん広がり、雪倉の北西尾根やら小蓮華が見えてくる。ずっと見えている朝日は全景が見えるようになり、雄大。少し斜めを向いた横顔の朝日岳は真っ白な姿で、ゆったりと右に五輪尾根を伸ばしていて、見とれるほどに優雅。だいぶ登ったが、まだあっちのほう(2、418m)が高いなあ。そして次のハイ松帯を過ぎ、行く手に丸い雪倉岳が見えてくる(ニセ頂上その1)。ニセ頂上の麓のハイ松帯のところで休憩3。ギャップはない。よし、あれを登れば頂上だ。意気はあがる。
しかしニセ頂上は手強く、登っている途中で冷たい風が吹きだしてスキー服を着込み、雪がクラストしてきてアイゼンに変えるために休憩にする(2,250m付近)。オーバーハングしている頂上はなかなか終点が見えず、そして、丸い頂上の向こうに次なる頂上(ニセ頂上その2)が見えてきた。「なんだ、やっぱりか。だまされた。いつものことだが」ということで大いに士気は下がるが、休み休み前進していく。この頃にはだいぶペースが落ちていた。
傾斜が緩み、次のハイ松帯のところで休憩し、シールに変える。背後では突然朝日にガスがかかり、頂上が見えなくなっている。ニセ頂上2まではもう傾斜は緩いが距離があり、しかもへばっているのでなかなか着かない。やがてニセ頂上2の後ろからガスがわきだした。青空もここまでか。やがて右にハイ松帯、左に斜面の広い尾根を辿るようになる。そしてニセ頂上2の向こうに黒い岩場の頂上が見えてくる。いやあ、あそこまであるのか。もう下手に立ち止まらず、一心不乱に歩く。
頂上の直前でスキートレースを発見。どうやら北西尾根のほうから来ていたようで、頂上まで続いていた。最初に見えた岩場のやや右奥に別の岩場があり、そこが頂上であった。近づくと頂上標識らしきものが見える。やっと着いたぞ、と自然に足が早まるが、手前の岩場に雷鳥が歩いている。なんでこんなときに、と思いながらも雷鳥を写し、そして頂上に到達する。叫ぶ。声がでない。もう一度大声で叫ぶ。スノーブリッジを渡れないので無理かなと思っていた。北東斜面の登りは長く、辛かった。そして雪倉岳の頂上にたどり着けた。登る苦しみから解放され、ただ歓喜。
雪倉の立派な黒い石の頂上標識は逆を向いていたので、スキーを外して岩場に登り、正面から見る。三角点もある。もう15時で、9時間かかったが、テルモスを取出して休憩する。疲れているが、全身に満足感。登れないかと思った山、何度も頂上が遠のき、必死のがんばりで登ってきた山、先行トレースがないのに独力でルートを探し、選び、ついに到達した。とはいえ、ゆっくりしていると暗くなってしまう。ヘッドランプはあるが、暗闇を滑走するのは無理だ。明るいうちに橋まではいかないと。途中の谷で登り返しがあるので、2時間で着けるだろうか。最悪3時間で18時(実際は2時間半で17時半)。それにしても、頂上直前で一瞬見えた白馬岳がもうガスで見えなくなってしまったのが残念。ずっと見えていた小蓮華と乗鞍ももうガスで見えない。
そして、頂上から広大な斜面を思う存分滑る。シールをはがして滑走開始。ザックが軽いとすいすい滑れる。傾斜が増すとアイスバーンのガリガリ滑りとなり、転ばぬよう慎重に滑る。トレースは固い所では残っておらず、柔らかいところまできて再発見。ハイ松帯は滑れないため大きく左に迂回し、戻ったところでトレースを探す。ニセ頂上1のところからはアイゼンのトレースとなり、アイスバーンにはほとんど残っていない。急なアイスバーンをガリガリ滑り、その下のハイ松帯までくるともうスキーがひっかかり始める。ショートターンは無理だ。
その先は明瞭なトレースを辿って滑る。アイゼンで登った急斜面はもう柔らかくなっていて、ひっかけて転ばぬよう、大きなターンを刻む。下から振り返り見上げると、雪の急斜面にどこまでも続くアイゼンの踏跡。よく登ったなあ。斜面の最後は大きく左から滑り込んで谷の反対側の高いところまで滑り込む。16時。休憩してシールを貼り、登り返し。ゆっくり登る。細尾根に上がり、マイナーピークの尾根に行くため、細尾根の上でシールをとり、滑走していく。マイナーピーク尾根のかなり高いところで雪がついているのでそこから尾根に上がるが、その先が結局行き止まりになっていた。さんざん苦労していったん外したスキーを履き直し、谷にもどって滑走。見えなかった登りトレースはよく見ると融けかかって残っていて、ずいぶん下から登っていたことが分かる。正しい取付点に滑り込み、スキーを外して尾根に上がる。やれやれ苦労した。
ここからは瀬戸川まで滑るだけだが、とりあえずは自分の登りトレースを外れぬよう慎重に滑る。立木があるとどうしてもオープン・スペースを選んで滑ることになり、いったん登りトレースを外れないといけない。戻ってきたときにうまく再発見できればいいが、過去の経験だと、いったん見失うと大きくはずれることがある。今回は再発見するまで下り過ぎないようにし、トレースのたくさんある朝日岳へのルートに合流したときはほっとする。時計は見なかったが、もう17時近く、日が陰っている。
平坦なところでいったんビンディングを外したが、最後の林間滑走ではビンディングを止める。瀬戸川の橋の手前まで滑り込み、スキーを外して休憩。いやあ疲れた。しかし、ここまでくれば後はトレースに沿って登るのみ。暗くなっても大丈夫。シールを貼ったスキーを担いで橋を渡り、対岸でスキーを下ろしてシールで登る。疲労困憊しているのでカメの歩み。数歩登っては休憩。しかも、ところどころ雪が切れていて枝をつかんで横登りしたりで苦労。平坦なところまで達するとずいぶん楽になる。
平馬ノ平に滑り込むと、雪倉と蓮華に再会したが、もう日は山影に隠れている(もう18時半、瀬戸川からの登り1時間は予想通り)。しかし、ここからが予想外に長く、蓮華温泉までに更に1時間かかる。途中(19時過ぎ)、ヘッドランプを点ける。テントならいくら遅れてもいいが、温泉の人は心配しているかもしれない。でも、下手に急ぐと体を痛めることもあるので、ペースはゆっくりでいく。
蓮華温泉の手前までくると、やはり温泉の主人がやってきた。「すいません」と言いつつもペースは乱さず、19時半すぎに温泉到着。この後、スキーとスキーアイゼンの雪を落とし、翌朝にすぐ使えるようにし、シールも片付けたので、建物に入り、食卓についたのは20時頃。食事がのどを通らなくて困ったが、無理して全部食べる。日が落ちてから気温が下がり、からだが冷えていたせいかもしれない。味噌汁とお茶が無性にうまかった。部屋には同室者が二人。もう寝ていた。消灯の21時前に風呂に入りに行く、熱い湯につかると、からだが温まり、俄然元気が出てきた。食堂で「明日はどうします」と聞かれ「(朝日にいくかどうか)体調をみて決める」と答えたが、風呂に入ったあとはもう翌日は朝日、と決めていた。部屋に戻り、シールやらを干し、アラームを3時半にセットして就寝。やったぞ、雪倉に登れた。
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この日もアラームが鳴る前に目が覚める。寝ている二人がいるので、外に服をもっていって着替えていると、朝風呂に入ろうとしている男性に尋ねられ、「入れると思いますよ(俺は風呂に入ろうとしてるんじゃない)」と答える。朝食一式をもって外で食事。割れてしまった右手中指の爪は前日、ツメキリを借りて手当したが、この後しばらく痛かった。それよりも朝食を食べていてくちびるが痛い。リップクリームを塗ってなくて、すっかり日焼けで腫れていて、これも2週間くらいひどいことになる。日焼け止めは朝塗っていたが、のどに塗らなかったし、顔にも少なすぎたらしく、焼けていた。
ジェットボイルにしては沸くのが遅い、そこで、ガスボンベを替えると、調子がよくなる。4時頃から湯を沸かしたが、この日は朝食とテルモスだけでなく、飲み干したお茶ペットの追加分も作るのに時間がかかる(水のままでよかったのではないか、それなら出発が20分くらい早まったかも)。
食事を終え、ザックをもって外に出ると、出発しようとしている夫婦連れがいる。この日はスキーのビンディングを外して出発。しかし、登りかえしでは結局手でおさなければならないのでかえってやりにくい。途中でスキーを外して手に持って登り、下りのところで履いて滑走。前日と同じアイスバーン。前日と同じようにガリガリ滑る。兵馬ノ平ではシールを着けずに歩いて坂を登り、瀬戸川への急斜面を滑走。ここも前日と同じアイスバーン。瀬戸川橋を渡り、シールをつけて登りの開始。
早朝は寒くて上着を着ていたが、じきに気温があがり、上着を脱ぐ。昨日はお茶ボトルをウェストバッグの横に入れて歩いていて、この日もそうしていたが、途中で飛び出して雪スロープを滑って落ちてゆく。あわててスロープを滑り、ペットボトルを追いかける。回収できるところだったからよかったようなものの、変なところで落としたら回収できない。腰に巻いているスキー服の腕のところでペットボトルを押さえるようにしておくことにする(これはうまくいき、その後は落とさず。ただし、かがむと腹に当たる)。
前日と同じルートを行き、池をいくつか過ぎ(どれかが天狗池)、左の斜面をトラバースしたり窪んだところを登ったり。トレースが二手に分かれているところでは、昨日とは反対に右手に進む。ところが、平坦なルートが途中で途切れ、トレースも見えなくなってしまった。たぶん先に下っていったのだろうが、トレースを確認できず、水が出ていても困るので、引返すことにする。大きく引返して山側のトレースをたどり、その先は傾斜のきつい登りとなる。視界が開け、乗鞍岳が後方に、前方には昨日も見た雪の上に飛び出したいくつかの大岩と目指す朝日。日差が強く、熱射病になりそうな感じになってきたので、オープン斜面に出る前の木陰で最初の休憩をとる(9時前)。
オープン斜面にでて振り返ると、もう一人後から来ている。先行トレースは沢を離れて朝日の右隣の赤男山のほうへ向かう。どこかで沢に向かうのだろうと構わずトレースを辿る。実は、先行トレースのなかに沢筋に下っていくものがひとつあったのだが、そっちが正解だったようだ。赤男山へのトレースは赤男山の正面の斜面の左をトラバースして奥に向かっていく。どもうこれは赤男の左手から雪倉に向かうルートのようだ。昨日登ったルートからはるか奥に見えていたルートだ。なるほど、と感心。しかし、感心している場合ではないので、斜面をまっすぐ下り、右手にトラバースしてゆき、大岩の真下から沢筋に戻る。やれやれ。
赤男へのトラバースの前に、背後の乗鞍のちょうど手前に、昨日 通ったマイナーピークと谷斜面が見えていた。谷斜面にはまだトレースが残っていた。昨日はあそこを滑ったのだ。沢筋の広い土手の上に降りると、そこには真新しいトレースがあり、たぶん休憩直後に見た人が沢沿いに先に進んだのだろう。やがて土手の先で休憩している姿が見えたが、追い越してもどうせ抜きかえされると思い、手前の木陰で2回目の休憩。真正面に朝日。両肩の張ったずんぐりむっくりの姿はあまり優雅とはいえないが、おおいかぶさるようになってきて、迫力十分。
それにしても真正面に大きくなってきた朝日の正面斜面はかなりの傾斜で、登るのは大変そうだ。このときはガイドの記載をうろ覚えしていて、あの正面斜面を登るものだと思っていた。よって、先行の男性に、ルート正面まっすぐなのか聞かれたとき、「そうでしょうね」と答えてしまった。男性が出発したあと、マップを取り出してみると、「夏道は左岸の五輪尾根だが、白高地沢の右岸をシールで登ったほうが早い。最後は右手の五輪尾根に斜面を登り、朝日の山頂を目指す」とある。あらためて五輪尾根を眺めると、なるほど、それらしき斜面がある。急に見えるが、登ってしまえばあとは楽だろう。男性に声をかけようと思ったが、もうだいぶ先まで行っていたので止めておく。悪いことをしたかなあ。それにしてもこの男性は早い。あんなに体力があるなら大丈夫だろう、とも思う。
2回目の休憩地点の先で土手から沢に下る。沢は広い雪原になっていて、先行の男性はもう頂上直下のあたりまで行っている。もうかなりの登りになってるだろう。こちらは目指す五輪尾根への取付斜面に向かって沢を横断し、斜面の直前で3回目の休憩。日差がきつく、こまめに休憩。ついでに二日前にコンビニで買った菓子パンを食べる。これは食べやすかった。沢に下る前に、別の二人が背後の土手を登ってくるのを見た。沢で休憩しているうちに追いつくかなと思ったがやってこなかった。たぶん土手で休憩してるのだろう。背後の乗鞍岳の麓には蓮華温泉が見えている。
さて、斜面の登りにかかる(1,760m付近)。ジグザグのキックターンになるが、なるべく楽に登れるよう心がける。このときは、山側スキーを開き気味、谷側スキーを平行にするのがスキーが落ち着いて良いようだった。でも、ここまでは体力保持できていたが、この登りでスタミナを切らし、休み休みの登りになる。まあ、仕方ないことだろう。五輪尾根の上に達して休憩(11時半前、沢から約1時間)。斜面の途中で、後の二人が沢を横切ってきて、同じ斜面を登ってきた。やっぱりここがメインルートなんだろう。しかし、この先にある斜面の上の雪が切れていて、登れないかもしれない状態になっているのが気になる。
どうも斜面の右から行くと雪が切れているようなので、左の急斜面を登っていくことにする。まっすぐ登るとアイスバーンが融けていて登りにくかったのも理由だが、ずっと下の沢まで急斜面になっているところに向かったのは大変な間違いで反省すべき。後から写真でみても、この斜面はそれほど難しくないように見えるが、実際はキックターンが難しいほどの傾斜。途中でスキーを外し、アイゼンに変える(1,990m付近)。アイゼンで真直ぐ上に向かったが、今度は柔らかい雪に足場が作れず、仕方ないので上の雪を削り落として足場を作り、少しづつ上昇。これも、ピッケルがないので、一回足場が外れたら落ちるなあ、と思いながらの登り。それより、手袋なしの手で雪をかいていたので、前日痛めた右手中指の爪をまた傷める。手袋をはめなかったのは面倒に感じたからだが、はめるべきだった。
なんとか尾根の上に出ると(2,020m付近)、別世界の楽な平地。ずいぶん違うな、と思いつつもひっくりかえって休憩。これで完全にスタミナが切れた。ところで気になるのは後続の二人で、左の急斜面を登っている途中で五輪尾根にやってきたのが見えたが、二人はこちらには来ず、斜面を避けて右側(北側)に回りこんでいった。尾根の北側には広い雪原があって、そこを辿れば尾根をなだらかに登っていって頂上につながっている。先に登るか後で登るかの違いだが、ここは明らかに後で登ったほうが正解だ。やれやれ、直登した先行の男性よりは楽をしたが、五輪尾根に上がってからのルートを間違えた。はるか下ではあるが、二人はだいぶ先行している。
気を取り直してシールで出発。尾根の最高部にこだわらず、トラバース気味に楽なルートを進む。尾根のはるか先に朝日の頂上らしきピークが見えており、それがターゲット。スタミナが切れ、歩いては立ち止まりの歩みになっていたが、トラバースから広い雪原斜面の緩い登りになってからは、立ち止まらず、一歩一歩疲れがたまらないスピードで進む。ときどき目をつぶって歩くと、自分の足がひとりでに動いているように感ずる。よしよし頑張れよ、と心に念ずる。雪原の下で休憩している二人を追い越し、朝日の頂上手前ピーク(P3・2,259m)に向かって着実なカメの歩み(約1時間だが、ずいぶん長く感じた)。
顔を上げて見渡すと、すばらしい景観が広がっており、乗鞍岳と雪倉岳が連なって見え、その向こうの小蓮華山、さらには雪倉岳の右手に尖りピーク(旭岳)、そして前日、ガスがかかる前に一瞬見た白馬岳が見えてくる。壮観。北には五輪尾根の雪原が緩い傾斜で広がっており、北東方向に五輪山が見えているが、P3・2,259mに達する頃にははるか眼下となる。P3に着く前にP3の大岩の向こうに別のピークが見えてくる。やはりまだ先か。ここはP2では止まらず、そのまま前進。傾斜が緩んでいるのでずいぶん楽。赤男から雪倉への稜線が縦位置で見えており、あれが雪倉の北尾根コースなのだろう。確かに楽に登れそうに見える。前日登った北東のルートも見えており、途中のハイ松帯、その上の急斜面。あの下からだと確かに頂上は見えないな。よく登ったエライ。
P3の先は平坦な広い雪原尾根の先に朝日の大きな丸い頂上が待っているが、その手前にP2(2,350m?)があり、P2が尾根のボトルネックになっている。右側は雪がないので左側を行くしかないが、急斜面になっている。慎重にトラバース。だが、雪はもうだいぶ緩んでおり、それほどでもない。急斜面もそれほどにも見えないが、下手に飛び込むと、オーバーハングの先がたいへんな急斜面になっているのだろう。P2を越えると北に真っ白な山が見える。直感的に初雪山だ、と思ったが、当たっていた。きれいな山だ。
雪のひだがついている朝日の頂上斜面を登り、ついに丸い頂上の中央やや右に頂上標識らしきものを発見。あれだ、ついに着いたぞ。辿りついてみるとそれは大きな朝日岳の頂上標識だった。向こう側を向いているが、そこだけ雪が融けていて、木道とベンチもある。ここから見る白黒の雪倉岳はやや地味。旭岳を従えた白馬岳が格好良く見えてるなあ、とその右手を見ると剱が見えている。いやあ、幸せな一日になった。頂上標識のところにはスキートレースがあり、どうやら先行の男性は無事頂上直下を登りきってここにやってきたらしい。
スキーを外して頂上標識のところまで歩くと、木道でないところは靴が泥に埋まってしまう。なるほど、水が乾きにくく、歩くと荒れてしまうので木道をつけてあるのだ。大きな頂上標識は反対側に文字が刻んであったが、刻み目に雪がこびりついており、雪を削り取ったが、文字自体がすり減って読みにくい。どうやら「朝日岳、中部山岳自然公園」と刻んであるようだ。二等三角点。立派な方位盤があり、それでまわりの山々を同定できた。
南東には乗鞍岳、白馬大池(埋まってる)、雪倉岳、小蓮華、鉢ヶ岳(白馬の手前の低い山)、白馬岳、杓子岳、旭岳(鋭峰)、南西には清水岳、猫又山(この二つは旭岳から連なっている)、立山、別山、剱岳、(奥大日)大日岳、西には猫又山、(釜谷山も見えている)毛勝岳、駒ヶ岳、白山(見えない)、僧ヶ岳、北には初雪山、犬ヶ岳、白鳥山、黒姫山、明星山(この二つは黒い影、その手前に)長栂山、照葉ノ池(噴火口のような池)、五輪山、北東には雨飾山、焼山、火打山、妙高山、黒姫山、戸隠山(高妻・乙妻)。
これだけの山を見ることができ、同定することができた。知ってる山が多いが、初めての山もある。長栂山と照葉ノ池というのも魅力的。旭岳、清水岳、猫又山の稜線はなじみが無い。初雪、白鳥にはいずれいくだろう。毛勝三山の二つと、駒ヶ岳にも行くだろう。いつまでも去り難かったが、テルモスのお茶をのんで帰途につく。14時から14時半までおよそ30分頂上にいた。シールを外し、ヒダのある頂上斜面を慎重に滑走。このあたりは前日ほどではないが時々風が吹き、気温も低いので、雪はまだ硬い。15時を過ぎると昨日のようにガスが出るかもしれない。
P2のトラバースを過ぎ、P3までくると、たくさん足跡がある。どうやら後続の二人はここまでで帰ったのだろう。P3を五輪尾根の北の雪原に向かって滑る。雪はまだ硬いがデコボコがあり、快適なショートターンまではいかない。北側を見ると、雪原の北側から二つ、滑走トレースがきれいについている。なるほど、P3から真北に下ったところから滑るのがベストルートということのようだ。きれいなシュプールになっている。デコボコのある南側は確かに滑りにくい。しかし、今さら登り返すわけにもいかないので、そのまま滑走。左側を苦労して登った尾根の麓まできて見上げると、苦労の跡がくっきり残っている。
五輪尾根から白高地沢への斜面は適度な柔らかさで、ショートターンで滑れる。まあ、頂上からここまでがハイライト。昨日の雪倉のようなアイスバーンはなし。自分のシュプールを写しながら滑走し、白高地沢に滑り込む。朝日の頂上直下にも平行シュプールが残っており、例の男性が急斜面を滑り降りたようだ。私は勢いをつけて北側の土手に登り、いったんビンディングを外して土手を滑走。
土手で休憩した地点のやや下で、クマのような足跡を見る。朝はなかったから、昼間に出てきて歩いていったものだろう。トラバースしたとき通った大岩を過ぎ、時々登り返しながら滑走。先行トレースがあるのは楽なものだ。それでも、いいかげん腰に疲れを感じてきたところで休憩にする(頂上から1時間弱)。最後の林間下降は急なので、ビンディングを止めてターンを切りながら下る。池のところの横登りがつらい。最下部は雪がだいぶ融けているので、手前でスキーをザックに取り付け、歩いて下り、橋を渡る。先行の二人がいて、どうやら担いで登るようだ。こちらは橋を渡ったところでスキーを下ろし、シールを貼り、休憩。
この後の登りは昨日ほどではないが、やはりきつい。とにかくゆっくり、疲れがたまらぬように登るが、目を閉じるとバランスが取れなくなりそうでできない。雪の切れているところでは昨日と同じ横登りだが、気のせいか前日よりも雪が融けている。上の方で休んでいるらしい二人が見え、追いつけるかな、と思ったが、二人を見たのはそれが最後だった。急斜面を終わり、二人はシールに変えたようだが、もう姿は見えない。
兵馬ノ平に着き、ひっくりかえって休憩。ストックに架けたヘルメットの向こうに乗鞍。雪倉の上には夕日。あと少しだ・・・と思ったが、ここからがやはり長かった(1時間20分かかる)。途中で日没となり、なんとかまだ明るいうちに蓮華温泉に到着。時計を見て、もう18時を回っていたのは予想より遅かった。食堂で食事を頼み、ザックを置いて先に食事にする。3食用意してくれたのは、先の二人が風呂に入っていたからだった。この日は食欲あり。食後に入った風呂は、なぜかぬるかった。時々水を足すのだろうか。部屋には前日と違う人が入っていたが、もう寝ているので邪魔しないようにする。なんとか雪倉と朝日に登ることができた。明日は帰るのみ、ゆっくりしよう。
夕食のときに缶ビール350ミリを飲む。久しぶりのビールを味わう。たまにはいいもんだ。
D4
最終日、同室の二人が6時頃に食事に行ったが、ひたすら寝る。水と朝食をもって外に出たのは7時前。ゆっくり景色を見ながら食事していると、宿の人たちがスキーで出かけていく。シールを貼っていく人もいれば、そのまま滑っていく人もいる。最後の二人はシールを貼ったスキーを担いで反対方向へ。どうやら振子沢を戻るらしい。担がなくてもシールで歩いていけないのかな、と思う。日焼けしたくちびるが痛くて食事しにくい。リップクリームを持ってくるんだった、と思う。爪の割れた右手中指も痛い。これは風呂に入ったときに髪を洗うのに困る。首がかゆいので時々かいたが、実は丸く日焼けしていた。スキー場で鏡を見て初めて気付く。焼けてたのは首だけではなかったが。
テント一式をザックに詰め込み、三泊の料金を払って蓮華温泉を出発。連休に入ったのに客は多くない。まあ、太郎小屋や立山のほうがポピュラーなのは分かる気がする。でもここには温泉がある。またいつか来て、近いルートで雪倉に登りたい。雪に埋まった車道をシールで歩いていくと、雪で埋まった広い駐車場があり、そこから朝日と雪倉がよく見える。あの斜面、あの雪面を歩き、滑ったんだなあ。感慨にふける。雪倉の頂上直下に黒い点。だいぶ雪が融けてるようだ。朝日の右肩の五輪尾根の雪原もよく見えている。あそこを回っていけば楽に頂上に行けるわけだ。
車道を辿っていき、残雪が斜めに積もっているところをトラバースぎみに歩き、雪の無い沢(乗鞍沢)の上にかかった雪のない橋にさしかかる。まさかこれが振子沢ではあるまい、とマップで確認。振子沢はもう少し先のようだ。雪の車道に戻ってもう少し行くと、今度は雪に埋まった沢にかかった雪のある橋に着く。雪のない橋のところから担いできたスキーとザックを下ろして最初の休憩。担ぐのはやっぱり疲れる。スキーをはいて雪に埋まった沢に滑り込む(1,510m付近)。
しばらく狭い沢を登る。ところどころ水が出ていて、底が抜けないか不安。テントを入れたザックは重い。肩が痛くなってきて2回目の休憩。その後、狭い沢から広い雪原に出る(1,600m付近)。開放感。振り返ると森の上に朝日と五輪山が見えている。朝日が見えたのはこのときまで。広い雪原にはトレースのほかにテープや木に打ちつけた標識がある。片斜面のトラバースから再び両岸のある沢の登りとなる。ところどころ雪に穴が開いていていて、ザアザア音がする。3回目と4回目の休憩は、時計を見てなかったのにほぼ1時間きざみ。雪原は広くなったりトラバースしたり、沢になったりだが、あまり変わらない。朝日が見えなくなり、乗鞍の尾根らしきのが見えてくるが、まだ違うかな。4回目の休憩でGPSを起動してみると、まだ1,800m地点くらい。蓮華温泉の標高1500mから天狗平2200mの標高差700mは4時間弱で登れるはずだが、だいぶ遅れてるだろうと感ずる(6時間弱)。
この後、トレースは正面の沢筋と尾根を外れて左にトラバースしてゆき、だいぶ北側の尾根まで回りこんでいるのもある。トレースがばらけてきたので、余り北側にいかないようにし、頃合いで尾根を登り始める。先行の二人のものと思われる新しいトレースもどうやら同じ尾根を登っている。もう休憩したいと思ったが、もうすぐ稜線に出ると思い、登り続け、ついに稜線に出る(2,050m付近)。トレースは稜線を右手、南に向かって登っているが、とりあえず休憩して広がった景色を見る。北に低く連なる尾根と、その向こうの焼・火打、妙高に高妻。
南に向かって稜線を登りだすと、上から団体が滑り下りてきた。蓮華温泉へは稜線から北西に下ればいいのか、と聞くので、もう少し下でルートは北西に下っている、と答える。沢筋とはいえ、あの広い雪原の出口を間違えると大変だろう。快調に滑る団体さんを見送って、ひたすら登る。「天狗原ー風吹尾根ー木地屋、スキーコース」という標識が木の幹に貼ってある。途中で蓮華温泉に下らず、そのまま稜線を進むのだろうか。「天狗原より北野へ」というのもある。行く手に乗鞍の一角が見えてくるが、どうも頂上部分ではないようだ。まだ結構あるなあ。すると、行く手の正面に何やら雪を積み上げている人たちがいる。スキー・コースでも作っているんだろうか。結局、何だったのか良くわからなかったが、スキー団体の人たちは帰り支度をしており、天狗平の途中で抜かれる。雪洞を作って泊まっていたのかな。
スキー団体の構造物の先はもう平坦で、二本棒の標識が間隔をおいて立っており、その先で乗鞍岳が見えてくる。ここから見る白馬乗鞍岳は左右に大きく、真っ白な巨体が視界いっぱいに広がっている。中央の滑走部分が斜めに見えている。途中でスキー団体に追い越されたが、スキーを肩に担いで歩いている人、シールで歩いている人、シールなしでスキーの人、ザックに取り付けて歩いてる人とバラバラ。元気だなあ。天狗平の岩場が見えてきた。もう休みたかったが、あそこまで頑張ろう。岩場の周りには人がいて、これから乗鞍に向かう人もいる。滑ってる人もいるが、もう登る気にはなれない。岩場のところでスキーを外し、ザックを下ろして休憩。なぜかヘリコプターがきて、乗鞍の斜面のスキーヤーのそばまで降下している。誰か探してるのかな。乗鞍の左手には鑓・杓子に唐松、五竜、鹿島槍が並ぶ。白馬は乗鞍の陰で見えないようだ。
岩場の祠におまいりし、シールを外して滑降開始。ザックが重いので、軽快にとはいかない。斜面が急になると、ひんぱんに休止しながら滑って行く。眼下に栂池ヒュッテが見えてくる。このへんから合流したのかな、と三日前に登ってきたところを探すが、良く分からず。尾根をそのまま下って行くと、狭い林になり、林を抜けたところで右手に栂池ヒュッテ、正面の斜面の下にロープウェイ駅が見える箇所に出る。トレースが少なくなっていて、おかしいとは思ったが、正面の斜面を滑走。しかし、斜面の雪は柔らかくなっていてエッジが利きにくく、木の手前で止ろうとして転倒。枝をつかんですぐに立ち上がったが、さえない。圧雪路に滑り込み、ロープウェイ駅まで滑る。これで滑走終了だ。スキーを外していると、駅の係の人が出てきて、乗るなら急いでくれと言う。これを逃すと20分待ちなので、急いでロープウェイに乗り込む。料金は後払いでいいというので、下の駅でゴンドラ券といっしょに買う。ロープウェイには先客4人くらいが乗っていたが、スキーは一人。快晴の北アルプスを何度も写す。
ロープウェイ駅を降り、最初はやや下りのようなのでスキーをはいていくが、すぐにやや登りとなり、スキーを外して歩く。ロープウェイのところのリフトで何人が滑っており、ロープウェイの徒歩の客は木々を見ながらゆっくり歩いている。ゴンドラ駅の周りはスキー客がたくさん。もう15時なので帰ろうとしている団体さんもいる。チケットを取出してゴンドラに乗り込む。ゴンドラは途中のピークを越えるまでは登りで、この間に白馬三山の全景が広がる。雄大。ピークを越えると景色は白から小麦色に変わる。雪のないゲレンデ。中間駅を過ぎ、麓駅に到着。トイレに寄り、鏡を見てびっくり。鼻や眼尻が赤黒く日焼けし、くちびるは悲惨に膨れ上がっている。それに首の回りが丸く焼けてしまっている。しまった。首にもちゃんと日焼け止めを塗っておくんだった。
車に戻って荷物を片付ける。スキーはタオルで拭いてワックスを塗っておく。傷が数ヶ所ついている。それから着替えをもって目の前の栂の湯に入る。400円。ホテルを探すと、ルートイン松本インターが空いていたのでそこにする。同じ敷地の別棟で、ザックを運ぶのに苦労したが、この日は平日だったので空いていたようで、翌日からは満室であった。栂池を降りて行くと谷向かいに雪を抱いた山が見えているが、何という山だろう(東山1,849m?)。下に降りてから松本まで、北アルプスの山々を眺めながらいく。白馬五竜を過ぎ、大町のあたりには湖がいくつかある。その先から常念が見えてくる。右手には翌日登った蓮華岳が夕日に染まっている。ホテルに入ったときはもう暗くなっていた。いっぱいになったメモリーカード(2Gと1G)をパソコンと携帯HDに転送する。たくさん撮ったなあ。充実の4日間であった。
D1
白馬乗鞍岳
頂上駅に着くと係員が待っていて、山に入った後の注意を言う。乗鞍頂上では雷鳥保護のため、ハイ松を痛めないようにとのこと。それはいいが、蓮華温泉から雪倉への途上にある沢のスノーブリッジが壊れていると言う。それは困った。「下まで降り、橋を渡ってから登ればよいのか」と聞くと、そんなことをする人はいないという。困ったな、蓮華温泉からは朝日だけしか登れないかな。ともかく、外でシールを貼って出発する。老夫婦はスノーシューで散策らしいが、雪の道を少し登った先に栂池ヒュッテの大きな建物がいくつか建っている。
雪の道はヒュッテの横を奥まで続いているが、一応、ヒュッテの前まで歩いてみる。仕事をしている人が一人。ヒュッテの先の雪原の先に人がいたが、どうやら写真を撮っているだけのようだ。どっちにいけば天狗平なんだろう。雪原に少し入りこみ、どうも右手の斜面の方ではないか、と目をこらすと、果たして尾根の上を登っている小さな人影が見える。ヒュッテの手前あたりから右手の尾根に登ってきたんだろう。さっそく尾根に向かい、斜面を登る。だんだんきつくなって斜め登りのキックターンとなる。久し振りのテント・ザックがずしりと重い。
白馬乗鞍岳
尾根のトレース直前でザックを下ろして最初の休憩。赤いヒュッテがもうだいぶ下に見えている。尾根のトレースはスキーと徒歩があり、相当大勢が登っているようだ。上にも下にも登っている人。上にはボードを担いだ団体。ゆっくり登って行くと、休んでいる団体には追いつけず、はるか後にいたスキーヤーに追い越される。尾根途中で2回目の休憩。次なる二人がやってきて、先に行く。尾根の右手は広い斜面になってきて、そこに旗門が立っており、その下で休んでいるスキーヤーがいる。あそこで自分で旗門を立てて滑ってるんだろうか(違った。旗門は振子沢からのルートを示しているものだった)。
天狗平の祠
傾斜は次第に緩くなり、広大な雪原になる。これが天狗平か。天狗平の先に幅の広い山がある。あれが白馬乗鞍だと、あれを登らないといけない。その手前の天狗平の真ん中に岩場があり、どうもあそこが天狗平の中心のようだ。そこに着いてみると人々が岩場で休んでおり、反対側には祠がある。ここは止まらずに乗鞍に向かう。乗鞍の斜面にはトレースがたくさんついており、大勢が登っている。スキーを担いで登っている人もおり、上は傾斜がきついのだろう。正面の登り斜面の左側を滑ってきた三人が横をすれ違う。帰りは振子沢だから、ここを登っても滑ることはない。
白馬乗鞍岳頂上・二等三角点
乗鞍の斜面は次第に急になるが、なんとかキックターンで登って行く。やがて表面が固くなり、スキーアイゼンを立てて登る。休み休みの登り。いまさらアイゼンにしなくてもなんとか登れそうだ。大小のザックのスキーヤーが斜面を滑り降りてゆき、やがて頂上岩峰が見えてくる。あそこまで行けばいいんだ・・・なかなか着かない。
雷鳥保護、立入禁止標示のところを過ぎ、岩峰の少し奥に三角点らしきものが見えるのでそこに行く。平坦な頂上には岩がちらばり、そのなかに二等三角点。ここが白馬蓮華岳・三角点2,437m(だが、すこし離れた南峰2,456m、岩峰の北峰2,469mの方が標高が高かったようだ)。岩峰に標識が見えたので行ってみると、慰霊碑のようであった。やや雲が出てきたが、東に見えているのは焼山と火打で、その向こうに妙高、やや離れて乙妻・高妻が立っている。西には乗鞍の西峰、その向こうに雪倉、その奥に朝日も見えていたが、そのときはまだ分からず。南には小蓮華。
雪に埋まった白馬大池
テルモスのお茶を飲み、少し休憩してから出発。風があり、雲も出ているので肌寒い。ここから滑走予定だったが、下り斜面が見えないのでシールをつけたまま、やや南西方向に向かう(真西の西峰に向かうべきだった)。広い頂上の先は雪原のくぼみ、くぼみの向こうに埋もれた煙突が見えたが、それは雪に埋まった白馬大池(2,370m)と大池山荘なのだろう。そのまま池を横断すればよかったのだが、登り返しがいやで池のこちら側をトラバース。結局、岩場にはまりこみ、苦労して雪原に下る。乗鞍の西峰の上を通り、もっと先で滑り下りるのが正解だったようだ。
朝日岳(白馬大池より)
乗鞍の西斜面に出ると西側の視界が広がり、正面が雪倉というのが分かってくる。このまま蓮華温泉に下ると沢を渡れないなら、ここから雪倉の麓に下り、そこにテントを張ればいいではないか、と思う。広い雪原が下り斜面となり、シールを外して滑走開始(2,370m付近)。最初は緩い傾斜をゆっくり滑るが、ザックが重いので軽快にとはいかない。やがて天狗尾根の急斜面が現われ、尾根のだいぶ下に尾根ピーク(2,308m?)が見えている。尾根の右手には雪庇、左手はブッシュが出ているので、間の雪の部分を滑走。尾根の両側は深い谷で、左手の雪倉との間は深い谷で区切られており、こちらから降りて渡れる部分は無さそうだ。「沢の上手から渡ってテント」というオプションは諦める。
雪倉岳(白馬大池より)
北にはまだ高妻、焼・火打が見え、その手前にあるのが大渚と雨飾のようだ。尾根ピークを越えると急斜面が続いており、そこをゆっくり下る。雪倉の東斜面が間近で、中央下にある深い谷がスキールートのようだ。ずいぶん傾斜があるように感ずる。奥の朝日はずいぶん遠い。オーバーハングの尾根を下ってゆき、ようやく右手下に赤い屋根の蓮華温泉が見えてくる。ずいぶん下だなあ。蓮華温泉の左に天狗尾根の末端が見えており、テント場はその左手あたりだろう、と探すと、尾根末端の左手に小さい雪原と建物が見える。たぶんあれがテント場だろう。
次の尾根テラス(天狗の庭2,093m?)のところでザックを下ろして休憩。30分ほど滑ったが、まだ中間点。朝日へのルートが正面に見えている。あの頂上直下の斜面を登るのかな。ずいぶん急に見えるが、頂上の両側にはルートは無いように見えた(実は頂上右手の狭い斜面を登る)。雪倉の谷ルートの奥が見えており、複雑な構造だが、緩い所を拾って登れそうな感じではある。
乗鞍岳からの滑走(天狗尾根)
天狗の庭(2,093m)の下はほどよい傾斜のオープン斜面になっており、重いザックでのショートターン滑走となる。本日のハイライト。途中の雪の切れ目をはさみ、まあ10分くらいかな。雪質さえよければ、ザックが重くても割と軽快にショートターンを刻めるものだ。しかし、雪が次第に重くなってくるとターンは長めになり、ブレーキが強めになるとヒザに負担がかかる。やがて斜面が狭くなり、右手は雪庇と谷なので、左手の林に入る。林の更に左手のオープン斜面を滑ればよかったのだが、その谷は尾根から外れていくと困るので、林の中にこだわるが、思ったよりも木が密集して滑りにくい。思い切ってスペースに飛び込み、急ブレーキで止まれずに転倒、というのが1~2回。カモシカが歩いて行ったところで止ろうとして転倒。ここはどういう顛末だったか忘れたが、ザックが重くて立ち上がるのに苦労した記憶。結局、林の左の谷斜面に入って滑ったが、うまくテント場の建物のあるところに出る(1,450m付近?)。滑走開始から1時間。そんなとこかな。
建物は全部屋根の下まで埋まっていて、張ってあるテントは無し。人のいる気配もなし。乗鞍を下ってくるトレースは全く無かった。ザックを置いてテント場の外を探すと、スキートレースが見つかる。蓮華温泉のほうから西に向かっているので、雪倉へのルートに違いない、と思う(違っていた。朝日へのルート)。それならばここにテントを張り、明日、雪倉へ向かえばよいことになるが、他にテントが無いのが不安。やっぱり蓮華温泉に泊まり、ダメなら白馬から回るなどの方法に切り替えた方がよかろう、とザックを担ぐ。結局、この判断が正解で、翌日の雪倉、次の日の朝日の登頂につながる。
蓮華温泉
雪の林道は最初は緩い下りで、ゆるゆると滑って行くが、蓮華温泉は意外に遠く、しかも緩い登りになり、スキーのままで斜めに登っていき、蓮華温泉(1,470m)に着いたのは16時。スキーは外に立て、ブーツは乾燥室あり。ブーツの中身を外して乾かす。先客は何人かいて、スキーも何本か立ててある。木造の二階建てだが、内装は新しく、部屋は二段ベッド4人分の奥に畳スペースのある構造。初日は一人だったが、翌日からは休日なので相部屋になるだろう。着替えをし、まずは地下の風呂へ。こいつはいい。山小屋で熱い湯に入れるというのは格別だ。夕食を食べ、7~8時頃に就寝。
受付の時の話ではと、雪倉の東斜面へは沢を渡れないので行けないが、橋を渡って北斜面からなら行けるという。ならば明日早く立って雪倉へ行こう。よかった。屋内に自炊室が無いので、翌朝5時に外で朝食をとり、6時に出発しよう、ということで携帯のアラームを4時半に設定しておく。
D2
朝の雪倉岳
4時半にアラームが鳴る前に目がさめ、5時前に起きだしてスキー服を着込み、朝食と調理具一式をもって外に出る。寒い。ジェットボイルをとりだし、やっぱりライターで点火して湯を沸かす。テルモスのお茶をつくり、最後にコーヒーを飲む。宿の人が一人、客が一人(この人は蓮華に登ると言っていた)外に出てくる。いったん部屋に戻り、小さくしたザックで出発。ちょうど6時となる。蓮華温泉からは裏手に乗鞍岳、正面右の遠くに朝日が見えているが、正面の雪倉は蓮華の尾根末端に隠れて頂上部分がわずかに見えているのみ。小さなこいのぼりがひるがえる。
雪倉岳・・・・・丸みを帯びた真っ白な巨体が青空の下で輝いている。
スキーをはいてさっそうと滑りだしたが、すぐに登り返しとなり、狭いのでスキーを横にもできず、なんとかストックで押して前進。こいつは疲れるな。テント場前を通り、そこからはトレースを辿って林間の滑走。早朝なのでカリカリ。林間は広く、ここが兵馬ノ平なのかなと思う。やがて沢の流れる雪原に出る(そこが兵馬ノ平1,330m付近)。こいつが瀬戸川か(・・・は勘違い)。正面に雪倉が大きい。丸みを帯びた真っ白な巨体が青空の下で輝いている。雪倉岳は遠目には目立たない山だが、蓮華温泉から見る姿は印象的。東面の谷が正面にあり、くねっているが登れそうな感じ。今日はあそこを登るわけではない。沢にはスノーブリッジがあるが、手前の雪に埋もれているところで渡る。雪原の先の傾斜が登りになるところでシールをつける。背後には乗鞍岳が立っている。
雪倉岳
トレースに沿って緩い坂を登ると・・・な・なんと次なる下り斜面が待っていた。蓮華温泉1500m地点から瀬戸川橋1200m地点まで300mの下りにしては軽いなあ、と感じていたが、やっぱりまだ下るのだ。シールを外し、さっきよりも急な斜面のアイスバーンをガリガリ下り、オーバーハングの先にようやく瀬戸川と橋(950m)が見えてくる。いやあ、ずいぶん下るなあ。登り返しがたいへんだ。(瀬戸川橋950mから蓮華温泉1,470mまで520m)
白馬乗鞍岳
ごつごつしたピラミッドの姿
瀬戸川橋
ザアザア流れる川の上にごつい鉄製の橋。急斜面でスキーを外し、ここは慎重にザックに取り付けて橋を渡り、対岸で再度シールをつける。ここまで下るとだいぶ雪も融けていて、小さな沢はスキーを外して渡り、土手の上に登ってスキーを履き直す。林の中を登って行き、尾根のようなところから池のそばを通り、その先でトレースが二手に分かれている。「なるほど、右が朝日で左が雪倉か」と勘違いして左に進むが、トレースはすぐに合流する。なんだ。
トレースを外れて西に向かう
その先でもう一ヶ所トレースが分かれ、左のトレースを辿るが、これも左の斜面をトラバースしていく。どこかで左の斜面を登らないといけないだろう、と思い、ころ合いでトレースを外れ、登りやすそうな斜面を登る(ひょうたん池の先、1,300m付近)。8時。空をセスナが飛んでゆく。登って行くにつれて林を抜け、視界が広がる。乗鞍岳がだいぶ遠くに見える。行く手の左にマイナーピーク1,510mがあり、そっちに向かって登る。途中でGPSを起動。まだ1500~600m付近のようだが、方向は間違っていないだろう。背後には朝日。しかし、マイナーピーク手前でブッシュが出ていて登れず、右奥の谷にいったん下る。雪が切れていたが、木の枝をつかんで数メートル下り、谷を登る。マイナーピークの先に尾根が続いており、そいつに登ると視界が広がる。
白馬乗鞍岳
尾根はマイナーピークから西につながっており、途中で南西に向きを変えて雪倉岳頂上に向かっている。その西尾根の南側は広い谷になっており、その向かい広い尾根斜面が緩く盛り上がっている。頂上は見えてないようだ。少し廻り道だが、西尾根沿いに登ればいいだろう、ということで西尾根を辿るが、西尾根は細く、木を避けてトラバースしていかねばならず、この先にも急なトラバースがあるように見えた。それよりも南の谷を渡り、正面の広い尾根斜面を登った方が楽だろう。意を決して谷に向かってシールのまま下る。
朝日岳
谷底(1,500m付近)に着き、すぐに登り返す。谷をそのまま登って行くのが楽そうだったが、たぶん谷の奥の登りがつらいだろう。それよりも広い尾根斜面を登ろう。斜面は思ったよりも傾斜があり、長めのキックターンで登る。上はオーバーハングで見えないが、木の生えているところが目標。雪倉岳の広い北東尾根を登ると、思ったとおりぐんぐん高度があがり、さっき越えてきたマイナーピーク1,510mがもうはるか眼下となり、北に朝日岳が大きく見えてくる。左手上のブッシュのところで最初の休憩。雪が固く、アイゼンに切り替える(1,660m付近)。昨日と違って快晴で、雲一つ見えない(日焼け止めを塗り直すべきだった)。この後、雪が固くなるとアイゼンに切り替え、ハイ松帯で踏み抜きが多くなるとスキー・シールで登る。
赤男山と朝日岳
ついに木のはえているところに達し、傾斜が緩くなる。よって谷の底はオーバーハングの向こうに見えなくなるが、上方もやはりオーバーハングしていてまだ頂上は見えない。ハイ松帯になっているところで2回目の休憩。GPSによると2000m地点まで来ているようだ。晴天だが薄いガスがかかっており、前日見えていた高妻や焼・火打が霞んでいる。東の主稜の向こうに見えている乗鞍は形が変わり、下から見えていたピークの上に頂上が見えている。昨日はあそこを滑ったのだ。更に登ると、乗鞍の尾根の下に蓮華温泉の赤い屋根が見えてくる。ずいぶん遠くまできたなあ。
白馬乗鞍岳
朝日岳
ずっと見えている朝日岳は全景が見えるようになり、雄大。少し斜めを向いた横顔の朝日岳は真っ白な姿で、ゆったりと右に五輪尾根を伸ばしていて、見とれるほどに優雅。
丸い雪倉岳
ハイ松帯のあたりは雪が融けていて踏み抜きが多くなり、スキーを下ろしてシールに変える(2,200m付近)。景色がどんどん広がり、雪倉の北西尾根やら小蓮華が見えてくる。ずっと見えている朝日岳は全景が見えるようになり、雄大。少し斜めを向いた横顔の朝日岳は真っ白な姿で、ゆったりと右に五輪尾根を伸ばしていて、見とれるほどに優雅。だいぶ登ったが、まだあっちのほう(2、418m)が高いなあ。そして次のハイ松帯を過ぎ、行く手に丸い雪倉岳が見えてくる(ニセ頂上その1)。ニセ頂上の麓のハイ松帯のところで休憩3。ギャップはない。よし、あれを登れば頂上だ。意気はあがる。
朝日岳
しかしニセ頂上は手強く、登っている途中で冷たい風が吹きだしてスキー服を着込み、雪がクラストしてきてアイゼンに変えるために休憩にする(2,250m付近)。オーバーハングしている頂上はなかなか終点が見えず、そして、丸い頂上の向こうに次なる頂上(ニセ頂上その2)が見えてきた。「なんだ、やっぱりか。だまされた。いつものことだが」ということで大いに士気は下がるが、休み休み前進していく。この頃にはだいぶペースが落ちていた。
白馬乗鞍岳
傾斜が緩み、次のハイ松帯のところで休憩し、シールに変える。背後では突然朝日にガスがかかり、頂上が見えなくなっている。ニセ頂上2まではもう傾斜は緩いが距離があり、しかもへばっているのでなかなか着かない。やがてニセ頂上2の後ろからガスがわきだした。青空もここまでか。やがて右にハイ松帯、左に斜面の広い尾根を辿るようになる。そしてニセ頂上2の向こうに黒い岩場の頂上が見えてくる。いやあ、あそこまであるのか。もう下手に立ち止まらず、一心不乱に歩く。
小蓮華山
雪倉岳
白馬蓮華岳
東の主稜の向こうに見えている白馬乗鞍岳はまた形を変えていて、しばらくそれが白馬乗鞍岳とは気付かなかった。天狗平から見たときは真っ白い横長の姿だった白馬乗鞍岳は、蓮華温泉から見上げたときはごつごつしたピラミッド、そして雪倉岳から真横に見たときは太い稜線が小蓮華山とつながり、黒々とした獣が伏せているような姿に見えた。
小蓮華山
雪倉岳
雷鳥
頂上の直前でスキートレースを発見。どうやら北西尾根のほうから来ていたようで、頂上まで続いていた。最初に見えた岩場のやや右奥に別の岩場があり、そこが頂上であった。近づくと頂上標識らしきものが見える。やっと着いたぞ、と自然に足が早まるが、手前の岩場に雷鳥が歩いている。なんでこんなときに、と思いながらも雷鳥を写し、そして頂上に到達する。叫ぶ。声がでない。もう一度大声で叫ぶ。スノーブリッジを渡れないので無理かなと思っていた。北東斜面の登りは長く、辛かった。そして雪倉岳の頂上にたどり着けた。登る苦しみから解放され、ただ歓喜。
雪倉岳頂上
雪倉の立派な黒い石の頂上標識は逆を向いていたので、スキーを外して岩場に登り、正面から見る。三角点もある。もう15時で、9時間かかったが、テルモスを取出して休憩する。疲れているが、全身に満足感。登れないかと思った山、何度も頂上が遠のき、必死のがんばりで登ってきた山、先行トレースがないのに独力でルートを探し、選び、ついに到達した。とはいえ、ゆっくりしていると暗くなってしまう。ヘッドランプはあるが、暗闇を滑走するのは無理だ。明るいうちに橋まではいかないと。途中の谷で登り返しがあるので、2時間で着けるだろうか。最悪3時間で18時(実際は2時間半で17時半)。それにしても、頂上直前で一瞬見えた白馬岳がもうガスで見えなくなってしまったのが残念。ずっと見えていた小蓮華と乗鞍ももうガスで見えない。
立派な頂上標識
霞む白馬岳方面
雪倉岳からの滑走
そして、頂上から広大な斜面を思う存分滑る。シールをはがして滑走開始。ザックが軽いとすいすい滑れる。傾斜が増すとアイスバーンのガリガリ滑りとなり、転ばぬよう慎重に滑る。トレースは固い所では残っておらず、柔らかいところまできて再発見。ハイ松帯は滑れないため大きく左に迂回し、戻ったところでトレースを探す。ニセ頂上1のところからはアイゼンのトレースとなり、アイスバーンにはほとんど残っていない。急なアイスバーンをガリガリ滑り、その下のハイ松帯までくるともうスキーがひっかかり始める。ショートターンは無理だ。
雪倉岳からの滑走(長い踏跡沿い)
その先は明瞭なトレースを辿って滑る。アイゼンで登った急斜面はもう柔らかくなっていて、ひっかけて転ばぬよう、大きなターンを刻む。下から振り返り見上げると、雪の急斜面にどこまでも続くアイゼンの踏跡。よく登ったなあ。斜面の最後は大きく左から滑り込んで谷の反対側の高いところまで滑り込む。16時。休憩してシールを貼り、登り返し。ゆっくり登る。細尾根に上がり、マイナーピークの尾根に行くため、細尾根の上でシールをとり、滑走していく。マイナーピーク尾根のかなり高いところで雪がついているのでそこから尾根に上がるが、その先が結局行き止まりになっていた。さんざん苦労していったん外したスキーを履き直し、谷にもどって滑走。見えなかった登りトレースはよく見ると融けかかって残っていて、ずいぶん下から登っていたことが分かる。正しい取付点に滑り込み、スキーを外して尾根に上がる。やれやれ苦労した。
夕方の白馬乗鞍岳
ここからは瀬戸川まで滑るだけだが、とりあえずは自分の登りトレースを外れぬよう慎重に滑る。立木があるとどうしてもオープン・スペースを選んで滑ることになり、いったん登りトレースを外れないといけない。戻ってきたときにうまく再発見できればいいが、過去の経験だと、いったん見失うと大きくはずれることがある。今回は再発見するまで下り過ぎないようにし、トレースのたくさんある朝日岳へのルートに合流したときはほっとする。時計は見なかったが、もう17時近く、日が陰っている。
平坦なところでいったんビンディングを外したが、最後の林間滑走ではビンディングを止める。瀬戸川の橋の手前まで滑り込み、スキーを外して休憩。いやあ疲れた。しかし、ここまでくれば後はトレースに沿って登るのみ。暗くなっても大丈夫。シールを貼ったスキーを担いで橋を渡り、対岸でスキーを下ろしてシールで登る。疲労困憊しているのでカメの歩み。数歩登っては休憩。しかも、ところどころ雪が切れていて枝をつかんでの横登りしたりで苦労。平坦なところまで達するとずいぶん楽になる。
夕方の雪倉岳
平馬ノ平に滑り込むと、雪倉と蓮華に再会したが、もう日は山影に隠れている(もう18時半、瀬戸川からの登り1時間は予想通り)。しかし、ここからが予想外に長く、蓮華温泉までに更に1時間かかる。途中(19時過ぎ)、ヘッドランプを点ける。テントならいくら遅れてもいいが、温泉の人は心配しているかもしれない。でも、下手に急ぐと体を痛めることもあるので、ペースはゆっくりでいく。
蓮華温泉の手前までくると、やはり温泉の主人がやってきた。「すいません」と言いつつもペースは乱さず、19時半すぎに温泉到着。この後、スキーとスキーアイゼンの雪を落とし、翌朝にすぐ使えるようにし、シールも片付けたので、建物に入り、食卓についたのは20時頃。食事がのどを通らなくて困ったが、無理して全部食べる。日が落ちてから気温が下がり、からだが冷えていたせいかもしれない。味噌汁とお茶が無性にうまかった。部屋には同室者が二人。もう寝ていた。消灯の21時前に風呂に入りに行く、熱い湯につかると、からだが温まり、俄然元気が出てきた。食堂で「明日はどうします」と聞かれ「(朝日にいくかどうか)体調をみて決める」と答えたが、風呂に入ったあとはもう翌日は朝日、と決めていた。部屋に戻り、シールやらを干し、アラームを3時半にセットして就寝。やったぞ、雪倉に登れた。
D3
朝日岳
この日もアラームが鳴る前に目が覚める。寝ている二人がいるので、外に服をもっていって着替えていると、朝風呂に入ろうとしている男性に尋ねられ、「入れると思いますよ(俺は風呂に入ろうとしてるんじゃない)」と答える。朝食一式をもって外で食事。割れてしまった右手中指の爪は前日、ツメキリを借りて手当したが、この後しばらく痛かった。それよりも朝食を食べていてくちびるが痛い。リップクリームを塗ってなくて、すっかり日焼けで腫れていて、これも2週間くらいひどいことになる。日焼け止めは朝塗っていたが、のどに塗らなかったし、顔にも少なすぎたらしく、焼けていた。
ジェットボイルにしては沸くのが遅い、ということで、ガスボンベを替えると、調子がよくなる。4時頃から湯を沸かしたが、この日は朝食とテルモスだけでなく、飲み干したお茶ペットの追加分も作るのに時間がかかる(水のままでよかったのではないか、それなら出発が20分くらい早まったかも)。
食事を終え、ザックをもって外に出ると、出発しようとしている夫婦連れがいる。この日はスキーのビンディングを外して出発。しかし、登りかえしでは結局手でおさなければならないのでかえってやりにくい。途中でスキーを外して手に持って登り、下りのところで履いて滑走。前日と同じアイスバーン。前日と同じようにガリガリ滑る。兵馬ノ平ではシールを着けずに歩いて坂を登り、瀬戸川への急斜面を滑走。ここも前日と同じアイスバーン。瀬戸川橋を渡り、シールをつけて登りの開始。
朝日岳・・・・・真正面に朝日岳。両肩の張ったずんぐりむっくりの姿はあまり優雅とはいえないが、おおいかぶさるようになってきて、迫力十分。
早朝は寒くて上着を着ていたが、じきに気温があがり、上着を脱ぐ。昨日はお茶ボトルをウェストバッグの横に入れて歩いていて、この日もそうしていたが、途中で飛び出して雪スロープを滑って落ちてゆく。あわててスロープを滑り、ペットボトルを追いかける。回収できるところだったからよかったようなものの、変なところで落としたら回収できない。腰に巻いているスキー服の腕のところでペットボトルを押さえるようにしておくことにする(これはうまくいき、その後は落とさず。ただし、かがむと腹に当たる)。
前日と同じルートを行き、池をいくつか過ぎ(どれかが天狗池)、左の斜面をトラバースしたり窪んだところを登ったり。トレースが二手に分かれているところでは、昨日とは反対に右手に進む。ところが、平坦なルートが途中で途切れ、トレースも見えなくなってしまった。たぶん先に下っていったのだろうが、トレースを確認できず、水が出ていても困るので、引返すことにする。大きく引返して山側のトレースをたどり、その先は傾斜のきつい登りとなる。視界が開け、乗鞍岳が後方に、前方には昨日も見た雪の上に飛び出したいくつかの大岩と目指す朝日。日差が強く、熱射病になりそうな感じになってきたので、オープン斜面に出る前の木陰で最初の休憩をとる(9時前)。
白馬乗鞍岳
オープン斜面にでて振り返ると、もう一人後から来ている。先行トレースは沢を離れて朝日の右隣の赤男山のほうへ向かう。どこかで沢に向かうのだろうと構わずトレースを辿る。実は、先行トレースのなかに沢筋に下っていくものがひとつあったのだが、そっちが正解だったようだ。赤男山へのトレースは赤男山の正面の斜面の左をトラバースして奥に向かっていく。どもうこれは赤男の左手から雪倉に向かうルートのようだ。昨日登ったルートからはるか奥に見えていたルートだ。なるほど、と感心。しかし、感心している場合ではないので、斜面をまっすぐ下り、右手にトラバースしてゆき、大岩の真下から沢筋に戻る。やれやれ。
赤男へのトラバースの前に、背後の乗鞍のちょうど手前に、昨日 通ったマイナーピークと谷斜面が見えていた。谷斜面にはまだトレースが残っていた。昨日はあそこを滑ったのだ。沢筋の広い土手の上に降りると、そこには真新しいトレースがあり、たぶん休憩直後に見た人が沢沿いに先に進んだのだろう。やがて土手の先で休憩している姿が見えたが、追い越してもどうせ抜きかえされると思い、手前の木陰で2回目の休憩。真正面に朝日。両肩の張ったずんぐりむっくりの姿はあまり優雅とはいえないが、おおいかぶさるようになってきて、迫力十分。
朝日岳
それにしても真正面に大きくなってきた朝日の正面斜面はかなりの傾斜で、登るのは大変そうだ。このときはガイドの記載をうろ覚えしていて、あの正面斜面を登るものだと思っていた。よって、先行の男性に、ルート正面まっすぐなのか聞かれたとき、「そうでしょうね」と答えてしまった。男性が出発したあと、マップを取り出してみると、「夏道は左岸の五輪尾根だが、白高地沢の右岸をシールで登ったほうが早い。最後は右手の五輪尾根に斜面を登り、朝日の山頂を目指す」とある。あらためて五輪尾根を眺めると、なるほど、それらしき斜面がある。急に見えるが、登ってしまえばあとは楽だろう。男性に声をかけようと思ったが、もうだいぶ先まで行っていたので止めておく。悪いことをしたかなあ。それにしてもこの男性は早い。あんなに体力があるなら大丈夫だろう、とも思う。
朝日岳
2回目の休憩地点の先で土手から沢に下る。沢は広い雪原になっていて、先行の男性はもう頂上直下のあたりまで行っている。もうかなりの登りになってるだろう。こちらは目指す五輪尾根への取付斜面に向かって沢を横断し、斜面の直前で3回目の休憩。日差がきつく、こまめに休憩。ついでに二日前にコンビニで買った菓子パンを食べる。これは食べやすかった。沢に下る前に、別の二人が背後の土手を登ってくるのを見た。沢で休憩しているうちに追いつくかなと思ったがやってこなかった。たぶん土手で休憩してるのだろう。背後の乗鞍岳の麓には蓮華温泉が見えている。
五輪尾根への登路
さて、斜面の登りにかかる(1,760m付近)。ジグザグのキックターンになるが、なるべく楽に登れるよう心がける。このときは、山側スキーを開き気味、谷側スキーを平行にするのがスキーが落ち着いて良いようだった。でも、ここまでは体力保持できていたが、この登りでスタミナを切らし、休み休みの登りになる。まあ、仕方ないことだろう。五輪尾根の上に達して休憩(11時半前、沢から約1時間)。斜面の途中で、後の二人が沢を横切ってきて、同じ斜面を登ってきた。やっぱりここがメインルートなんだろう。しかし、この先にある斜面の上の雪が切れていて、登れないかもしれない状態になっているのが気になる。
どうも斜面の右から行くと雪が切れているようなので、左の急斜面を登っていくことにする。まっすぐ登るとアイスバーンが融けていて登りにくかったのも理由だが、ずっと下の沢まで急斜面になっているところに向かったのは大変な間違いで反省すべき。後から写真でみても、この斜面はそれほど難しくないように見えるが、実際はキックターンが難しいほどの傾斜。途中でスキーを外し、アイゼンに変える(1,990m付近)。アイゼンで真直ぐ上に向かったが、今度は柔らかい雪に足場が作れず、仕方ないので上の雪を削り落として足場を作り、少しづつ上昇。これも、ピッケルがないので、一回足場が外れたら落ちるなあ、と思いながらの登り。それより、手袋なしの手で雪をかいていたので、前日痛めた右手中指の爪をまた傷める。手袋をはめなかったのは面倒に感じたからだが、はめるべきだった。
雪倉岳
なんとか尾根の上に出ると(2,020m付近)、別世界の楽な平地。ずいぶん違うな、と思いつつもひっくりかえって休憩。これで完全にスタミナが切れた。ところで気になるのは後続の二人で、左の急斜面を登っている途中で五輪尾根にやってきたのが見えたが、二人はこちらには来ず、斜面を避けて右側(北側)に回りこんでいった。尾根の北側には広い雪原があって、そこを辿れば尾根をなだらかに登っていって頂上につながっている。先に登るか後で登るかの違いだが、ここは明らかに後で登ったほうが正解だ。やれやれ、直登した先行の男性よりは楽をしたが、五輪尾根に上がってからのルートを間違えた。はるか下ではあるが、二人はだいぶ先行している。
白馬乗鞍岳
気を取り直してシールで出発。尾根の最高部にこだわらず、トラバース気味に楽なルートを進む。尾根のはるか先に朝日の頂上らしきピークが見えており、それがターゲット。スタミナが切れ、歩いては立ち止まりの歩みになっていたが、トラバースから広い雪原斜面の緩い登りになってからは、立ち止まらず、一歩一歩疲れがたまらないスピードで進む。ときどき目をつぶって歩くと、自分の足がひとりでに動いているように感ずる。よしよし頑張れよ、と心に念ずる。雪原の下で休憩している二人を追い越し、朝日の頂上手前ピーク(P3・2,259m)に向かって着実なカメの歩み(約1時間だが、ずいぶん長く感じた)。
白馬岳と旭岳
顔を上げて見渡すと、すばらしい景観が広がっており、乗鞍岳と雪倉岳が連なって見え、その向こうの小蓮華山、さらには雪倉岳の右手に尖りピーク(旭岳)、そして前日、ガスがかかる前に一瞬見た白馬岳が見えてくる。壮観。北には五輪尾根の雪原が緩い傾斜で広がっており、北東方向に五輪山が見えているが、P3・2,259mに達する頃にははるか眼下となる。P3に着く前にP3の大岩の向こうに別のピークが見えてくる。やはりまだ先か。ここはP2では止まらず、そのまま前進。傾斜が緩んでいるのでずいぶん楽。赤男から雪倉への稜線が縦位置で見えており、あれが雪倉の北尾根コースなのだろう。確かに楽に登れそうに見える。前日登った北東のルートも見えており、途中のハイ松帯、その上の急斜面。あの下からだと確かに頂上は見えないな。よく登ったエライ。
P3の先は平坦な広い雪原尾根の先に朝日の大きな丸い頂上が待っているが、その手前にP2(2,350m?)があり、P2が尾根のボトルネックになっている。右側は雪がないので左側を行くしかないが、急斜面になっている。慎重にトラバース。だが、雪はもうだいぶ緩んでおり、それほどでもない。急斜面もそれほどにも見えないが、下手に飛び込むと、オーバーハングの先がたいへんな急斜面になっているのだろう。P2を越えると北に真っ白な山が見える。直感的に初雪山だ、と思ったが、当たっていた。きれいな山だ。
朝日岳からの景観: 小蓮華山、雪倉岳、白馬岳、旭岳、清水岳、猫又山
雪倉岳と白馬岳
雪のひだがついている朝日の頂上斜面を登り、ついに丸い頂上線の中央やや右に頂上標識らしきものを発見。あれだ、ついに着いたぞ。辿りついてみるとそれは大きな朝日岳の頂上標識だった。向こう側を向いているが、そこだけ雪が融けていて、木道とベンチもある。ここから見る白黒の雪倉岳はやや地味。旭岳を従えた白馬岳が格好良く見えてるなあ、とその右手を見ると剱が見えている。いやあ、幸せな一日になった。頂上標識のところにはスキートレースがあり、どうやら先行の男性は無事頂上直下を登りきってここにやってきたらしい。
スキーを外して頂上標識のところまで歩くと、木道でないところは靴が泥に埋まってしまう。なるほど、水が乾きにくく、歩くと荒れてしまうので木道をつけてあるのだ。大きな頂上標識は反対側に文字が刻んであったが、刻み目に雪がこびりついており、雪を削り取ったが、文字自体がすり減って読みにくい。どうやら「朝日岳、中部山岳自然公園」と刻んであるようだ。二等三角点。立派な方位盤があり、それでまわりの山々を同定できた。
初雪山
南東には乗鞍岳、白馬大池(埋まってる)、雪倉岳、小蓮華、鉢ヶ岳(白馬の手前の低い山)、白馬岳、杓子岳、旭岳(鋭峰)、南西には清水岳、猫又山(この二つは旭岳から連なっている)、立山、別山、剱岳、(奥大日)大日岳、西には猫又山、(釜谷山も見えている)毛勝岳、駒ヶ岳、白山(見えない)、僧ヶ岳、北には初雪山、犬ヶ岳、白鳥山、黒姫山、明星山(この二つは黒い影、その手前に)長栂山、照葉ノ池(噴火口のような池)、五輪山、北東には雨飾山、焼山、火打山、妙高山、黒姫山、戸隠山(高妻・乙妻)。
これだけの山を見ることができ、同定することができた。知ってる山が多いが、初めての山もある。長栂山と照葉ノ池というのも魅力的。旭岳、清水岳、猫又山の稜線はなじみが無い。初雪、白鳥にはいずれいくだろう。毛勝三山の二つと、駒ヶ岳にも行くだろう。いつまでも去り難かったが、テルモスのお茶をのんで帰途につく。14時から14時半までおよそ30分頂上にいた。シールを外し、ヒダのある頂上斜面を慎重に滑走。このあたりは前日ほどではないが時々風が吹き、気温も低いので、雪はまだ硬い。15時を過ぎると昨日のようにガスが出るかもしれない。
雪倉岳
P2のトラバースを過ぎ、P3までくると、たくさん足跡がある。どうやら後続の二人はここまでで帰ったのだろう。P3を五輪尾根の北の雪原に向かって滑る。雪はまだ硬いがデコボコがあり、快適なショートターンまではいかない。北側を見ると、雪原の北側から二つ、滑走トレースがきれいについている。なるほど、P3から真北に下ったところから滑るのがベストルートということのようだ。きれいなシュプールになっている。デコボコのある南側は確かに滑りにくい。しかし、今さら登り返すわけにもいかないので、そのまま滑走。左側を苦労して登った尾根の麓まできて見上げると、苦労の跡がくっきり残っている。
五輪尾根から白高地沢への斜面は適度な柔らかさで、ショートターンで滑れる。まあ、頂上からここまでがハイライト。昨日の雪倉のようなアイスバーンはなし。自分のシュプールを写しながら滑走し、白高地沢に滑り込む。朝日の頂上直下にも平行シュプールが残っており、例の男性が急斜面を滑り降りたようだ。私は勢いをつけて北側の土手に登り、いったんビンディングを外して土手を滑走。
朝日岳頂上
雪倉岳の北東斜面・・・・・前日に苦労して登り、滑走した広大な斜面
朝日岳からの滑走(五輪尾根から白高地沢への斜面)
土手で休憩した地点のやや下で、クマのような足跡を見る。朝はなかったから、昼間に出てきて歩いていったものだろう。トラバースしたとき通った大岩を過ぎ、時々登り返しながら滑走。先行トレースがあるのは楽なものだ。それでも、いいかげん腰に疲れを感じてきたところで休憩にする(頂上から1時間弱)。最後の林間下降は急なので、ビンディングを止めてターンを切りながら下る。池のところの横登りがつらい。最下部は雪がだいぶ融けているので、手前でスキーをザックに取り付け、歩いて下り、橋を渡る。先行の二人がいて、どうやら担いで登るようだ。こちらは橋を渡ったところでスキーを下ろし、シールを貼り、休憩。
この後の登りは昨日ほどではないが、やはりきつい。とにかくゆっくり、疲れがたまらぬように登るが、目を閉じるとバランスが取れなくなりそうでできない。雪の切れているところでは昨日と同じ横登りだが、気のせいか前日よりも雪が融けている。上の方で休んでいるらしい二人が見え、追いつけるかな、と思ったが、二人を見たのはそれが最後だった。急斜面を終わり、二人はシールに変えたようだが、もう姿は見えない。
白馬乗鞍岳
兵馬ノ平に着き、ひっくりかえって休憩。ストックに架けたヘルメットの向こうに乗鞍。雪倉の上には夕日。あと少しだ・・・と思ったが、ここからがやはり長かった(1時間20分かかる)。途中で日没となり、なんとかまだ明るいうちに蓮華温泉に到着。時計を見て、もう18時を回っていたのは予想より遅かった。食堂で食事を頼み、ザックを置いて先に食事にする。3食用意してくれたのは、先の二人が風呂に入っていたからだった。この日は食欲あり。食後に入った風呂は、なぜかぬるかった。時々水を足すのだろうか。部屋には前日と違う人が入っていたが、もう寝ているので邪魔しないようにする。なんとか雪倉と朝日に登ることができた。明日は帰るのみ、ゆっくりしよう。
夕食のときに缶ビール350ミリを飲む。久しぶりのビールを味わう。たまにはいいもんだ。
D4
雪倉岳
最終日、同室の二人が6時頃に食事に行ったが、ひたすら寝る。水と朝食をもって外に出たのは7時前。ゆっくり景色を見ながら食事していると、宿の人たちがスキーで出かけていく。シールを貼っていく人もいれば、そのまま滑っていく人もいる。最後の二人はシールを貼ったスキーを担いで反対方向へ。どうやら振子沢を戻るらしい。担がなくてもシールで歩いていけないのかな、と思う。日焼けしたくちびるが痛くて食事しにくい。リップクリームを持ってくるんだった、と思う。爪の割れた右手中指も痛い。これは風呂に入ったときに髪を洗うのに困る。首がかゆいので時々かいたが、実は丸く日焼けしていた。スキー場で鏡を見て初めて気付く。焼けてたのは首だけではなかったが。
テント一式をザックに詰め込み、三泊の料金を払って蓮華温泉を出発。連休に入ったのに客は多くない。まあ、太郎小屋や立山のほうがポピュラーなのは分かる気がする。でもここには温泉がある。またいつか来て、近いルートで雪倉に登りたい。雪に埋まった車道をシールで歩いていくと、雪で埋まった広い駐車場があり、そこから朝日と雪倉がよく見える。あの斜面、あの雪面を歩き、滑ったんだなあ。感慨にふける。雪倉の頂上直下に黒い点。だいぶ雪が融けてるようだ。朝日の右肩の五輪尾根の雪原もよく見えている。あそこを回っていけば楽に頂上に行けるわけだ。
スキー団体の構造物の先はもう平坦で、二本棒の標識が間隔をおいて立っており、その先で乗鞍岳が見えてくる。ここから見る白馬乗鞍岳は左右に大きく、真っ白な巨体が視界いっぱいに広がっている。中央の滑走部分が斜めに見えている。途中でスキー団体に追い越されたが、スキーを肩に担いで歩いている人、シールで歩いている人、シールなしでスキーの人、ザックに取り付けて歩いてる人とバラバラ。元気だなあ。天狗平の岩場が見えてきた。もう休みたかったが、あそこまで頑張ろう。岩場の周りには人がいて、これから乗鞍に向かう人もいる。滑ってる人もいるが、もう登る気にはなれない。岩場のところでスキーを外し、ザックを下ろして休憩。なぜかヘリコプターがきて、乗鞍の斜面のスキーヤーのそばまで降下している。誰か探してるのかな。乗鞍の左手には鑓・杓子に唐松、五竜、鹿島槍が並ぶ。白馬は乗鞍の陰で見えないようだ。
岩場の祠におまいりし、シールを外して滑降開始。ザックが重いので、軽快にとはいかない。斜面が急になると、ひんぱんに休止しながら滑って行く。眼下に栂池ヒュッテが見えてくる。このへんから合流したのかな、と三日前に登ってきたところを探すが、良く分からず。尾根をそのまま下って行くと、狭い林になり、林を抜けたところで右手に栂池ヒュッテ、正面の斜面の下にロープウェイ駅が見える箇所に出る。トレースが少なくなっていて、おかしいとは思ったが、正面の斜面を滑走。しかし、斜面の雪は柔らかくなっていてエッジが利きにくく、木の手前で止ろうとして転倒。枝をつかんですぐに立ち上がったが、さえない。圧雪路に滑り込み、ロープウェイ駅まで滑る。これで滑走終了だ。スキーを外していると、駅の係の人が出てきて、乗るなら急いでくれと言う。これを逃すと20分待ちなので、急いでロープウェイに乗り込む。料金は後払いでいいというので、下の駅でゴンドラ券といっしょに買う。ロープウェイには先客4人くらいが乗っていたが、スキーは一人。快晴の北アルプスを何度も写す。
白馬乗鞍岳
ここから見る白馬乗鞍岳は左右に大きく、真っ白な巨体が視界いっぱいに広がっている。中央の滑走部分が斜めに見えている。
栂池ロープウェイ駅
ロープウェイ駅を降り、最初はやや下りのようなのでスキーをはいていくが、すぐにやや登りとなり、スキーを外して歩く。ロープウェイのところのリフトで何人が滑っており、ロープウェイの徒歩の客は木々を見ながらゆっくり歩いている。ゴンドラ駅の周りはスキー客がたくさん。もう15時なので帰ろうとしている団体さんもいる。チケットを取出してゴンドラに乗り込む。ゴンドラは途中のピークを越えるまでは登りで、この間に白馬三山の全景が広がる。雄大。ピークを越えると景色は白から小麦色に変わる。雪のないゲレンデ。中間駅を過ぎ、麓駅に到着。トイレに寄り、鏡を見てびっくり。鼻や眼尻が赤黒く日焼けし、くちびるは悲惨に膨れ上がっている。それに首の回りが丸く焼けてしまっている。しまった。首にもちゃんと日焼け止めを塗っておくんだった。
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