穂高岳 3度目の登頂で直登ルンゼ滑降
長野県 奥穂高岳3,190m、北穂高岳3,106m 2015年4月30日~5月3日(テント3泊)
日本百名山
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名山一人旅
私の登る山には名山と呼べない山もあるだろう。だが、登っているときに心ときめくものがあれば、それは私にとって名山だ。
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日本第三位、奥穂高岳の頂上からの直登ルンゼ滑降は、山スキーヤーにとっての夢だろう。
快晴無風の絶好のコンディション。頂上東側から直登ルンゼ斜面に滑りこむ。
最初に少しもたついたが、その後は快調。固めの雪に軽いエッジングの連続ショートターンがなんとも心地よい。出口がなかなか見えない長いルンゼだったが、心地よさに疲れも吹き飛び、1回休止したのみで出口まで滑りきる。
翌日、北穂高岳を下るとき、奥穂高岳頂上直下に自分の滑走トレースを発見。微かなトレースだが、あそこを滑ったという実感が湧く。
直登ルンゼを滑降した直後、売店に行き、おでんと缶ビールセットを購入して至福のひととき。テーブルでは山好きたちの話が咲く。何物にも代えられない感動を涸沢は与えてくれる。
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俺はただ無心に登った。はるかなる白き峰しか見ていなかった
体は疲れ果て、太陽はまぶしく、汗がしたたり落ちた
それでも俺は登るのを止めなかった。上がらぬ足を騙し、惰性で登った
頂上に着いたとき、俺の頭はからっぽになった。すごく、いい気分だった。
俺は天空から下界を見下ろしていた。天空は穏やかだったが、去らねばならなかった
そこで俺はスキー板を履き、天空から滑った。
俺は風になっていた
(はるかなる白き峰)
D2 6:15 涸沢テントサイト発11:48 奥穂高岳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り5時間33分12:17 奥穂高岳発、直登ルンゼ滑降12:29 直登ルンゼ出口12:50 涸沢テントサイト着・・・・・・・・・・・・・・下り33分
D3 6:37 涸沢テントサイト発11:20 北穂高岳・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・登り4時間43分12:09 北穂高岳発、滑走13:00 涸沢テントサイト着・・・・・・・・・・・・・・下り1時間23分
D4 7:15 涸沢テントサイト発13:58 上高地バスターミナル着・・・・・・・・・・6時間43分
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快晴で風もなく、滑降には万全のコンディション。前に滑った人のトレースを参考に、頂上東側から直登ルンゼ斜面に滑りこむ。下が開けたところで最初のターン。止まろうとして正面の岩にぶつかりそうになるが、岩の直前で停止し、反動でややバックし、気を取り直して二つ目のターン。その後は斜面の幅が広がり、楽なターンになり、長大な渓谷の真ん中を思う存分に滑る。日が射しているが、頂上付近の雪はかなり硬かった。下るにつれて次第に雪は柔らかくなり、ターンのときに雪が落ちるようになる。固めの雪に軽いエッジングの連続ショートターンがなんとも心地よい。それにしても長いルンゼで、左右に大きく曲がった先のルンゼ出口はなかなか見えてこない。2/3くらい下った右岸尾根に、長い渓谷で唯一、平な場所があり、そこに滑りこんで休止する。スキーを外して休むこともできたが、疲れは吹き飛んでいたので、すぐに向きをかえて斜面に滑りこむ。ようやくルンゼ出口が見え、そちらに快調に滑走していくと、出口から数十メートル先を歩いていたパーティがこちらに気づいたとみえ、立ち止まっている。ようやくルンゼから出て、数回ターンして停止。こうして、スキーヤーとして長年の夢だった、穂高岳・直登ルンゼの滑降を成し遂げることができた。
直登ルンゼを滑降した直後、売店に行き、おでんと缶ビールセットを1100円で購入。至福のひととき。テーブルでは、おでんやテント場料金が値上がりした話。値上がりが半端じゃない。しかし、「(穂高連峰の懐にある涸沢のおでんは)飲み屋で食べるおでんとは違いますよ」の若い男性の意見に全員賛同。何物にも代えられない感動を涸沢は与えてくれる。普段アルコールを控えている私は、缶ビール350mmですっかり酔ってしまい、彼らの話には加わらず、テントに戻って横になる。
翌日は北穂高岳に登り、頂上直下から滑走。下りに1時間半弱もかかっているのは、前日登った奥穂高・直登ルンゼの自分の滑走トレースが見え、それを撮影していたため。微かなトレースだが、あそこを滑ったという実感が湧く。
因みに、初日の上高地から涸沢までの9時間半、涸沢から奥穂高までの5時間半はいずれもキャリア最長の悪い記録。なぜこんなにかかったのか。昨年から、コレステロール対策のために肉食を止め、魚と野菜中心の食事で体重が減ってしまったのが影響しているのかもしれない。
焼岳
6時過ぎのバスに乗る。左側の窓側に座り、焼岳と大正池と穂高を写すが、いまいち。
大正池と穂高連峰
河童橋から見る穂高岳
バスターミナルに着き、登山届を出して出発。河童橋でいつもの撮影。
明神岳、奥穂高岳、北尾根(徳沢付近より)
横尾大橋と屏風ノ頭
涸沢への登りと太陽
横尾谷の二俣でアイゼンを付けて登り、ようやく涸沢に着き、テントを設営。売店のおでんと飲み物には間に合わなかった。残念。こんなに歩くのが遅いのでは仕方ない。因みに、初日の上高地から涸沢までの9時間半、涸沢から奥穂高までの5時間半はいずれもキャリア最長の悪い記録。なぜこんなにかかったのか。昨年から、コレステロール対策のために肉食を止め、魚と野菜中心の食事で体重が減ってしまったのが影響しているのかもしれない。
D2
朝の涸沢
翌朝、寒いのでポリエステル・ダウンを着て出発。明るくなったが、登っている人はまだそれほど多くない。ザイテングラードの岩場の末端付近で最初の休憩。日差しは暑いが、風が吹くと寒い。
前穂高岳
涸沢テントサイト
白出コル(奥穂高への途中地点)への登り
ザイテングラード岩場が終わり、雪斜面の傾斜が若干緩くなったあたりで次の休憩。白出コルに着く直前に、滑りだそうとしているスキーヤーに会う。下を見ていてなかなか滑りこまない。
直登ルンゼ(左)と白出コル(右奥)
常念岳と涸沢
白出コルの休憩所
コルに着き、ストックもザックに結わえ、ピッケルを片手に奥穂高に向かう。
雪壁の登り
梯子を登り、岩場を越え、最初の雪壁。降りてくる人がいるので、ルートを外し、ピッケルを打ちこんで登る。数歩ごとにヒザをつき、ピッケルの刃を差し込んでおいて休憩。
北穂高岳(中央左ピーク)と槍ヶ岳(中央奥)・・・奥穂高岳へ登る途中より
涸沢岳頂上と登山者
白山
このときだけ、笠ヶ岳の向こうに白山が見えていた。この間、下ってくる人、数人に「どこを滑るのか」「直登ルンゼを滑るのか」などと聞かれる。「頂上から」「今日は滑りやすいと思う」と答える。しばらく岩斜面を登り、二つ目の雪壁。ここにも下る人がおり、ルートを外れたところを登る。日が照っているのに雪は堅い。アイスバーンに近い滑走になるなあ、と思う。頂上直下が見える位置から直登ルンゼを観察。なんと、滑走トレースがひとつついている。登ってきた踏み跡もある。
北西の情景:笠ヶ岳、黒部五郎岳、薬師岳
北の情景:笠ヶ岳、涸沢岳、槍ヶ岳、北穂高岳
奥穂高岳頂上の祠と私
頂上に着き、祠の横に立ったところの写真を撮ってもらう。それから祠の東側に下って休憩。バナナを食べ、ホットレモンを半分飲み、横になって休憩。一時、誰もいなくなる。GPSの軌跡は3,190m地点をかすめていたが、この写真を見れば、3,190m奥穂高頂上に立ったことは明白。
前穂高岳
南の情景:霞沢岳、乗鞍岳、焼岳
乗鞍と御岳が見えていたが、やや雲に隠れている。中央アルプスか南アルプスらしき稜線。
南のパノラマ:前穂高岳、霞沢岳、ジャンダルム、奥穂高岳頂上
北の情景:直登ルンゼ、涸沢岳、槍ヶ岳、北穂高岳
奥穂高岳頂上と直登ルンゼ滑降開始地点
滑走直前に祠のところに人がいたが、滑りだすときには観客ゼロ。最初は東から西にトラバース滑走し、下が開けたところで最初の右ターン。すぐに左ターンすればよかったが、止ろうとして正面の岩場にぶつかりそうになる。やや右に登った反動で後退し、停止。気を取り直して二つ目の左ターン。今度は止まらずに連続ターンし、3ターン目か5ターン目で停止し、写真を撮る。頂上直下を真横から見た稜線の真横のあたり。残念ながら見ている人は見当たらない
直登ルンゼ滑降直後、上を見上げる
直登ルンゼ中間部
そこから先は傾斜が比較的緩くなり、やや広めの連続ショートターンで進む。次第に雪が柔らかくなり、雪が落ち始める。
槍ヶ岳と北穂高岳
北穂高岳の南峰と北峰と登山者
直登ルンゼ下部
直登ルンゼ出口(中央奥に小さな人影)
直登ルンゼは長く、最初は右、次に左、また右に大きく曲がり、再度左に曲がってようやく出口が見えてくる。白出コルから下る人影が見える。ルンゼの右岸尾根の上に平なところがあり、そこに滑りこんで休止。疲れていたのでスキーを外そうかと思ったが、気分が高まっており、そのまま向きを変えて滑走再開。ルンゼから出るとき、ちょうどルートを下っているパーティがこちらに気づいたらしく、立ち止まっていた。一度停止し、次の滑走でルンゼを出る。
北穂高岳
太陽と滑走トレース
白出コルを見上げる
滑走トレース
ルンゼを出てからゆっくり登山ルートの南側を滑ったが、トラバースし、登山ルートの北側に移る。デブリ地点で、シリセードで滑ってきた男性。「先に行きますよ」と言って先に行く。最後は少し登り返しになるのでターンせずに直滑降で飛ばし、テントに到着。御苦労さん。ついに穂高岳・直登ルンゼを滑走した。
売店
サイフと水バッグを持って売店へ。テント利用料が500円から1,000円になっていて愕然。3日で3,000円を払う。缶ビール・おでんセットを1,400円で購入。テーブルは混んでおり、空いているところを探して着席。今日、蝶ヶ岳から来たという年配男性。今年は雪が少ない、蝶ヶ岳の稜線には全く雪がなかったと言っていた。ここからはもう登らないようだ。後から来た若い男性は、涸沢岳にはアイゼンなしで登れる、と言っている。テント利用料やおでんが値上がりした話。半端でない値上がり。しかし、飲み屋のおでんとは違う、と若い男性は言う。皆、納得。何物にも代えられない感動を涸沢は与えてくれる。他の3人は生ビールセットだったが、私は缶ビール350ミリですっかり酔ってしまい、 早々にテントに引き上げる。日が照って暑いので網戸で薄着。あたりが騒がしいのでキューブでジェフベックを鳴らし、ビショルドを読む。野菜スープ3杯で至福の夕食。
D3
北穂高岳への登り
翌朝、前日よりもややゆっくり目に起きる。前日来て南側にテントを張ったグループは、4時頃に出かけて行った。
前穂高岳と北尾根と登山者
北穂高に登り始め、高度が上がると、昨日滑った奥穂高・直登ルンゼが見えてくる。頂上直下の狭い部分、その下の広くて長い渓谷。すごい。コース中間付近にあるゴルジュの上で最初の休憩。傾斜がやや緩く、休憩適地。
槍ヶ岳
奥穂高岳と北穂高岳・南峰と登山者
北穂高の頂上コルからピッケルを持って南峰に向かうが、稜線からは岩の細尾根で、スキーブーツでは無理そうなので引き返す。北峰に登ると、その南峰の頂上に人がいるのが見えた。どうやら夏道ではなく、雪のついている東斜面を登ったようだ。そのボーダーは南峰頂上から滑走していたが、あの急傾斜にボードで飛び込むのはかなり勇気がいるだろう。
北穂高岳頂上から槍ヶ岳
燕尾根
・燕山荘が見えるので、その左が燕岳だろう
・背後に焼山と火打山
大天井岳
・背後に妙高山
北穂高岳頂上から北の情景: 笠ヶ岳、薬師岳、槍ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、常念岳
北穂高岳からの滑走
北峰から滑走開始。前回と同じ頂上直下の部分を滑ろうと思ったが、下にたくさん人がいるので諦め、南側に向かう。ボーダーが滑って行った方角だ。途中で北斜面にトラバースするが、このときに思いがけず雪が大量に落ち、下で休んでいた人たちに迷惑をかけてしまった。「すみませーん」と叫んで謝る。全く申し訳ない。
直登ルンゼ滑走トレース1(中央の黒三角が奥穂高岳頂上)
奥穂高・直登ルンゼに滑走トレースが見える。朝は見えなかったが、光線の加減で見えているらしい。トレースが途中で右岸尾根に寄っていること、出口で真下に下っていることから、これは私の滑走トレースのようだと気づく。下りに1時間半弱もかかっているのは、これを撮影していたため。微かなトレースだが、あそこを滑ったという実感が湧く。
直登ルンゼ滑走トレース2
直登ルンゼ滑走トレース3
直登ルンゼ滑走トレース4
売店から見上げる北穂高岳
前日同様、最後は直滑降で飛ばすが、やや早めに失速し、すこし漕いでテント到着。前日同様、水バッグとサイフを持って売店に行き、おでん缶ビールセットを購入。またまた至福のひとときを楽しむ。テントに戻り、前日同様、薄着に網戸でビショルドを読む。
読書
最終日、涸沢の夜明け