群別岳     北海道増毛山地の鋭鋒

北海道・道北  群別岳1,376m、幌天狗1,222m  2011年5月6日

日本の山1,000

1

幌天狗の頂上尾根は長く、平坦なその尾根を歩いていくと、まず奥徳富岳が現われ、次いで群別岳の南稜、そして群別岳の頂上が姿を現わす。浜益岳から見た鋭鋒の群別岳は格別だったが、ここから見る群別岳は尖った北西稜を持ち、断崖の西斜面を見せ、正に迫力満点。

郡別岳は日本百名山や北海道百名山にも選ばれていないが、ごらんの通りの迫力は名山と呼ぶにふさわしい。(日本の山1000には選定されている)

苦労してその頂上に立ち、目も眩むような四周の情景にしばらく見入る。眼下は切れ落ちた崖で高度感満点。見上げると目の届くはるか遠くまで、真っ白な雪の台地。

頂上南斜面は思ったよりも広く、九十九折で休みながら登っていく。たくさんの踏跡にスキートレースも混じっている。狭い頂上で、下りようとしていた男性に写真をとってもらう。北に続く北西稜はすごい迫力。

風が強く、薄くかかっていた雲が濃くなってきて日差は弱いが、それでも目も眩むような四周の情景をしばらく見渡す。はるか眼下の幌天狗、その向こうに広がる海、黒い頭の南稜1,280mとその両側の切り立った崖。あの斜面を登り、越えてきたとは信じられない。南稜の東の谷は南に向かって下っており、そこに向かって赤いザックカバーの男性が下りて行く。

そして、頂上からの思い出に残る滑走開始。

南斜面は十分に滑走可能。しかも滑りやすい雪。急斜面にショートターンで快適に飛ばす。

南稜1,280m直下から、うまくブッシュを抜ける。そこからはコルまで無限の雪原斜面で、思い切り飛ばす。この無限の雪原斜面の滑走がこの日のハイライト。前日の風邪もこの日の疲れもふっとばし、風を切り、気持ちは猛然と、体は軽々と、エッジを刻む。すべてはこのために。

 郡別岳は日本百名山や北海道百名山にも選ばれていないが、ごらんの通りの迫力は名山と呼ぶにふさわしい。(幌天狗・北東尾根より)
 幌天狗の三角形の頂上が遠く小さく見えている
 黒い頭の南稜1,280mの裏側には雪
 群別岳頂上の南斜面は十分に滑走可能。しかも滑りやすい雪。急斜面にショートターンで快適に飛ばす。
奥徳富岳と下っていく男性
そして、頂上からの思い出に残る滑走開始。
幌天狗・北東尾根を見降ろし、南稜直下の雪原斜面を滑走:南稜1,280m直下から、うまくブッシュを抜ける。そこからはコルまで無限の雪原斜面で、思い切り飛ばす。この無限の雪原斜面の滑走がこの日のハイライト
 広い尾根の先には海が夕日で光っている。
  6:00 林道ゲート発  7:14 シール10:26 幌天狗・・・・・・・・・・・・・・・・・登り4時間26分11:36 コル12:14 アイゼン12:18 南稜12:27 シール12:32 南稜1,280m峰12:34 コル212:54 群別岳・・・・・・・・・・・・・・幌天狗から2時間28分       ・・・・・・・・・・・林道ゲートから6時間54分13:14 群別岳発13:20 コル213:25 南稜1,280m峰13:46 コル、シール15:23 幌天狗・・・・・・・・・・・・・群別岳から2時間9分15:37 幌天狗発、滑走17:10 シートラーゲン18:35 林道ゲート・・・・・・幌天狗から3時間12分         ・・・・・・群別岳から5時間21分         ・・・・・・・・・・・・往復12時間35分

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エサオマントッタベツを諦めた日の翌朝、4時過ぎに起きたとき、快晴になりそうな空を見て、群別岳に登ることにする。もしそうしなかったら後悔するのではないか、なんとか登れるのではないか、と考えた。前回泊まった雄冬峠駐車場に寄って着替えをし、前回は寄らなかった群別・幌天狗の尾根の北側にある林道に向かう。その林道はすぐに見つかり、開いたゲートのところに先客の車が一台。車はゲートまでとガイドにあったが、開いているので少し先まで入ってみるが、整備が悪く駐車スペースもないので引返す。群別岳には、その林道を行くのではなく、ゲートのすぐ先にある分岐を右に入って荒れた道を進まないといけない。よって、車で入らなくて正解だった。

駐車地点で湯をわかして朝食を食べ、テルモスにお茶を入れ、出発は6時。なあに、遅くなってもヘッドランプがある。日帰りツアーとなって格段に軽くなったザックをかつぎ、林道を少し歩いてヤブの道へ右折。古い赤リボンが目印。それにしてもひどく荒れた道で、最初は疑心暗鬼。違うかもしれない。しかし、15分ほど歩いた先でガイドの通りの徒渉点があり、確信に変わる。このルートで間違いないようだ。それにしても雪のない道をスキー靴で歩くのはつまらない。もっと早い時期に来るべきだった。

心配した徒渉点は問題なく越え、気温が上がってきたので上着と手袋と脱ぎ、荒れた道を進むが、途中から道の中央を水が流れだし、どうにもスキー靴を汚しながらの登りとなる。また洗わないといけない。高度があがるにつれて残雪が増え、7時過ぎに最初の休憩をとってシールに切り替える。すぐに残雪べったりの林の斜面となり、尾根の頂上が近づくと樹間に朝日が射してくる。残雪には古いスキートレースもある。

次いで尾根の北側に三つの白い尾根が見えてくる。おそらく右が浜益岳、中央が浜益御殿、左が雄冬山の尾根と思われる。すごい快晴の青い空。浜益御殿の南側を見るのは、考えてみると今が初めてだが、確かにあのような断崖になっているのだろう。前回はあの上を歩いていたのだ。背後に海が見え、最初のピークのM1・560mを認定。まだ先は長い。そのM1を過ぎるあたりで幌天狗に向かう太い踏跡を認め、それを辿る。そして行く手の樹間に幌天狗が見えてくる。いやあ、まだまだ遠く、高い。

広い疎林雪原を登り、いったん林を抜けてM2・745mに着くと、行く手に浜益岳と幌天狗が並んでいる。壮観。浜益御殿はもう浜益岳の南尾根に隠れて見えず、初めて見る浜益岳の南斜面が真っ白に輝いている。前回はあの頂上からこちらを眺めていたのだ。その浜益岳頂上から見たとき、群別岳と比べるとえらく貧相に見えた幌天狗だが、ここから見ると高く三角形の頂上を戴いていて貫禄あり。

樹木がまばらに生えている広い尾根を行くと南側の視界も開け、黄金山が黒く低く見えている。もうすっかり雪はない。その向こうには別狩岳から神居尻の山々が見えているが、前回登った察来山がどれなのか同定は難しい。標高の低い山々がたくさん連なっている。9時に2回目の休憩をとり、9時20分頃に短い丘斜面を登ると、行く手の林の上に幌天狗の三角形の頂上が遠く小さく見えている。高さはだいぶ稼いだが、距離はまだ遠い。左手には浜益岳の二つのピークが並ぶ。

M3・944mに達すると、行く手の幌天狗頂上はその手前の急斜面台地の上に乗っているように見える。近くなったが、ずいぶん急な斜面に見える。平らな雪原を進んでその急斜面にとりかかるとき、背後を歩いてくる人影を見る。こんな快晴だし、登ってくる人がいないわけがない。いずれは追いつかれそう。病み上がりでもあるし無理はできないが、なんとはなしに足が速まる。10分ほどでその急斜面を登りきって上の雪原台地に達する。後続の人を見ていなかったら、ここで休憩していただろう。そのまま雪原を縦断し、尾根になっている南側から頂上に向かう。南には神居尻山とピンネシリ。だいぶ霞んで見える。幌天狗の頂上はもうすぐだが、頂上直下にもうひとつの斜面と台地が見える。

そのもうひとつの斜面を登り、九十九折に斜面を右に登ったとき、幌天狗の東側に奥徳富岳が垣間見える。そして、もうひとつの台地を進んで幌天狗の頂上斜面を登っていくと、背後に下の平原台地とそこを歩いてくる後続の人影が見える。幌天狗の頂上へはどうやら先に着けそうだ。南の眼下には頂上の黒い黄金山。しかし、麓にはまだ残雪があるようで、その手前の群別岳への尾根にも雪がある。頂上直下の急斜面を登りきって頂上尾根に達する。幌天狗の頂上尾根は長く、平坦なその尾根を歩いていくと、まず奥徳富岳が現われ、次いで群別岳の南稜、そして群別岳の頂上が姿を現わす。浜益岳から見た鋭鋒の群別岳は格別だったが、ここから見る群別岳は尖った北西稜を持ち、断崖の西斜面を見せ、正に迫力満点。こちらからはとても登れそうもないように見える。結局、あのトサカのような南稜に登り、そこを越えて群別岳の南側から頂上に達したのだが、今写真を見ても信じ難いルートではある。

郡別岳は日本百名山や北海道百名山にも選ばれていないが、ごらんの通りの迫力は名山と呼ぶにふさわしい。(日本の山1000には選定されている)

ところで、幌天狗の頂上は強風で、そしてなんと先客がいた。あのゲートに止めていた車の主だろうか。風を避けていたのか、頂上のだいぶ西側で休んでいた。群別には行かないのかな。雪の上に座って浜益岳の方を眺めている。幌天狗の頂上にはゆがんだ潅木があるだけで標識はなし。浜益岳から群別岳への稜線、その右手の奥徳富岳、そしてその手前にある幌天狗の北東尾根を初めて見る。遠くそびえる群別岳に比べ、手前につづまって見える幌天狗北東尾根はなんとか辿れるように見える。ガイドの写真には尾根を行く踏跡がついていた。実際にはどうか、尾根の北側をトラバースしている踏跡が見える。よし、あれだ。ザックを下ろしてピッケルを腰に差し、幌天狗の北斜面をシールで滑走してトラバース・ルートの起点に下る。ふむ、これか。徒歩の踏跡ではあるが、トラバースならスキーの方が楽だろう。シールのままで尾根に滑り込み、踏跡に沿って幌天狗北東尾根P1・1,189mをトラバースしていく。しかし、傾斜はそれほどでもなく、途中からはシールでの歩きとなる。慎重に前進するが、スキーの下りの歩きは難しい。登るように靴やビンディングの角度がついているためだ。それでも20分弱でP1の先の尾根に着き、スキーを外して3回目の休憩。いやあ、疲れた。ひっくりかえって休んでいると、幌天狗の頂上に人影。後続の人だろう。だが、その人も、頂上に先に来ていた人も、結局、群別岳には来なかった。

P1からP2・1,160mに向かう。群別岳の左奥に暑寒別岳の一部が見えているが、それは本峰ではなく西暑寒別岳。それに雄冬山も浜益岳の陰になって見えていない。P2頂上から振り返ると、P1が鋭い鋭鋒になってそびえている。これが「幌天狗」の名前の由来なのだろう。天狗の鼻。P2の先端はわずかにブッシュが覗いており、南側の斜面を回って東に下る尾根に滑り込む。そこは広い尾根になっていて、丸いピークのP3・1,171mに向かって登り返していくと、やがてP3の丸い頂上の向こうに、いったん隠れていた群別岳の頂上が見えてくる。

P3の頂上の先は尾根が細くなっており、雪に割れ目のできている南斜面を上から見下ろしながら慎重に進み、細尾根をまっすぐ滑り降りてP4・1,160mに向かう。最低コルはP4の先のようだ。最後のP4は細尾根の先端部分で、雪が融けてきてブッシュが出ている。そこからは浜益岳の右奥に尾冬山が見えている。東と南は進めず、踏跡もここで途切れている。いや、踏跡が一つ、北側を大きく下って東に回りこんでいる。これだ!と思い、P1のときよりも急な斜面のトラバースにかかる。先行の踏跡はブッシュ帯を避け、大きく下まで回りこんでいる。それが正解だろうと考え、大きく下まで下ってからトラバース。雪は柔らかいが滑らず、ほとんど歩いて進み、10分強でP4の東側基部に到着。休憩4回目。トラバース中は緊張を強いられるため、休憩が必要だ。背後には鋭い岩峰となったP4が立っている。これを登るのは無理そうなので、帰りもトラバースだな。

もうこの先には最低コルまでの滑走と、登り返ししかない。行く手には群別岳の頂上と手強そうな南稜。コルに向かって滑走開始し、振り返るとP4の岩峰。群別南稜のどのあたりを登るか考えながら進む。①群別に直接向かうルート・・・これは傾斜がきつく、無理、②南稜の北側・・・雪斜面があるが、岩壁部分が広い(実はブッシュ帯で、帰りに通る)、③南稜の中央・・・比較的広い雪斜面あり、④南稜の南側を回る・・・その南稜・南端からのスキートレースあり。結局、正面やや右寄りの③に向かう。④はトラバースとなるのが嫌だし遠回りになる。しかし、雪斜面はいずれ終わり、ブッシュ帯となる。

南稜のブッシュ帯は稜線の狭い部分のみであり、コルから長い急斜面をまず登り、③の雪斜面に入り、最奥のブッシュ帯に到達。休み休み登ったのでずいぶん時間をかけたイメージがあり、コルからブッシュ帯まで40分弱。そこでアイゼンに切り替え、南稜の上に出る。ところで、南稜に登った40分間にたくさん写真を撮っており、背後の幌天狗の東稜の個性的な四つのピークを写している。P1は確かに天狗の鼻に見えてきた。そして群別岳頂上の南斜面を登る人影を見つける。やっぱり登っている人がいたのか、と思ったが、とても登れそうもない群別の頂上ピラミッドを登るルートは南斜面しかないと思っていたので、それは当たっていた。よし、これでもう群別岳には登れるぞ、と確信する。群別岳に登る人影は、南稜斜面を登っている間に二人見た。

南稜を登り始めたとき、その黒い稜線部分ははるか頭上に細く小さく見えていた。登るにつれ、高度が上がるにつれて黒い稜線は大きくなってゆき、背後の細天狗東尾根は低くなっていく。やがて幌天狗東尾根は眼下となり、天狗の鼻も目立たなくなった。北の浜益岳も眼下になっている。アイゼンに替えて5分弱で稜線に達すると、その西側の風景が目に入る。奥徳富岳とそれに続く尾根、その向こうに見える平らな山は南暑寒岳だろうか。行く手には南稜最高点1,280mがあり、群別岳頂上を隠している。左右に切れ落ちた細尾根で、アイゼンで歩くと雪を踏抜き、ひどく歩きにくい。すぐにシールに戻す。群別岳の頂上が見えてきて、そこに二人立っているのが見える。もうすぐいくぞ。

南稜1,280mの東斜面を写してないのは、オーバーハングしていて見えなかったからである。南稜1,280mピークに近づくと、群別岳との連結部分が広く平になっているのが見え、南稜1,280mピーク直下あたりからそのコル部分に向かってシール滑走する。広いコルにはスノーシューが一足置いてあり、頂上の二人のいずれかが置いていったのだろう。彼らの踏跡は南稜の東斜面をトラバースしてきている。「とっておき」記載の群別岳への最短ルートに違いない。コルのところでちょうど下ってきた一人とすれ違う。男性は元気に下って行ったが、スノーシューは置いていった。男性の背後の南稜1,280mピークは黒ぶちのやや右に傾いた異様な姿。幌天狗は平凡な低い山。コルから見る群別岳は頂上部分がオーバーハングの先で見えておらず、西側にブッシュの生えた斜面に見えている。

苦労してその頂上に立ち、目も眩むような四周の情景にしばらく見入る。眼下は切れ落ちた崖で高度感満点。見上げると目の届くはるか遠くまで、真っ白な雪の台地。

頂上南斜面は思ったよりも広く、九十九折で休みながら登っていく。たくさんの踏跡にスキートレースも混じっている。コルから頂上まで20分。狭い頂上で、下りようとしていた男性に写真をとってもらう。北に続く北西稜はすごい迫力。なんとその北西稜まで辿ろうとしている踏跡がある。その北西稜の背後に浜益岳と雄冬山が見えている。浜益岳から見ると群別岳を縦に見ることになり、北西稜は重なって見えていなかった。反対側の南稜ははるか眼下になっており、そのコルに向かって二人目の男性が下りて行く。東には奥徳富岳に向かって東尾根が延びており、北東方向に暑寒別岳の全景が初めて見える。浜益岳から見たとき、群別岳から暑寒別岳に向かって尾根が繋がっているように見えたが、群別岳頂上から見ると、その尾根は群別岳の北東絶壁の下に位置している。その向こうの暑寒別岳は丸い姿で、左に西暑寒別岳を従えている。右の南暑寒別岳はずいぶん離れている。拡大してみると、暑寒別岳と西暑寒別岳の西斜面は断崖絶壁に見える。このときは翌日は暑寒別岳に登るつもりでいたので、明日はあそこからこちらを見ているだろう、と思っていた。

奥徳富岳への尾根に向かう踏跡があったが、頂上まで続いていたかははっきりしない。途中に岩峰が立っているところが難所だろうが、行けないことはないだろうが、時間はかかりそうだ。風が強く、薄くかかっていた雲が濃くなってきて日差は弱いが、それでも目も眩むような四周の情景をしばらく見渡す。はるか眼下の幌天狗、その向こうに広がる海、黒い頭の南稜1,280mとその両側の切り立った崖。あの斜面を登り、越えてきたとは信じられない。南稜の東の谷は南に向かって下っており、そこに向かって赤いザックカバーの男性が下りて行く。コルでしばらく休んでいたが、頂上は狭く、風が強かったからだろう。頂上の東に出っ張りがあるが、岩なのだろうか、それとも雪庇なのか。その出っ張りの左のかなたに暑寒別岳。北方向には広い沢筋(暑寒別川)があり、その左側に雄冬山と浜益岳が立っている。

頂上北に続く北西稜が最高の迫力の情景。浜益岳と雄冬山を背景に迫真の岩峰を立てている。浜益岳はゆったりした稜線を左右に延ばしているが、前回あの頂上に立ったとき、この群別岳の切り立った情景がすばらしく印象的だった。増毛の山々の中で最も印象的な山である。さて、なごりおしい群別岳の山頂でシールを外して滑走開始、と思ったら、なんとシールを入れる袋が無い。大きいザックのほうに入れっぱなしにして、小さいザックに入れ替えておくのを忘れていた。なんてことだ。かつて大白森山で同じ事態になり(このときはテントに置いていた)、このときはシールを腹に巻いて滑走したが、今回は群別岳頂上からの長い滑走なので、折畳んでザックに入れる。張り直すときが大変だろうがしかたない。

そして、頂上からの思い出に残る滑走開始。

やはり滑走は格別である。滑走できるか分からず、コルにスキーを置いてくることも考えていたが、この南斜面は十分に滑走可能。しかも滑りやすい雪。急斜面にショートターンで快適に飛ばす。南東斜面に斜めに滑り降りていればトレースをはっきりとつけられたかもしれないが、登ってきた南斜面に沿って、登りトレースのやや東側の狭いスペースを滑る。あまり停止せず、すぐにコルに到達。振り返ると、急斜面につけたターントレースは余りはっきりは見えない。写真を拡大すると、うまく滑っているのが分かる。もっと南東側を滑ればはっきりしただろう。

南の谷への分岐は最低コルから少し登り返したところにあり、そこで休んでいた男性はコルに着く前に出発して、南の谷に下っていった。下っていく男性の姿を見た覚えがあるが、写真には撮っていない。たぶんすぐにオーバーハングの向こうに見えなくなったのだろう。分岐からは南稜1,280mに向かうが、そこからは急斜面のトラバースの登りなのでシールなしの登りは楽ではない。そんなところでバランスを失って転んでいる。たぶん写真を写していてバランスを失ったのだが、気をつけないといけない。それでもなんとか立ち上がり、コルから南稜1,280m直下まで5分で到達。そこから南稜を歩くが、幌天狗側斜面に広い雪原斜面が見える。登ってきたところまで行ってブッシュを下りずとも、その手前から滑走できそうだ。いや、下からはそんな雪原斜面は見えなかったが、おかしいな・・・と思いつつも、上から見えているのだから大丈夫だろう。少々のブッシュを越え、雪原斜面に滑り込む。ヤッホー。

ところが、その雪原斜面は下がブッシュ帯で閉じられていた。なるほど、だから下からは見えなかったのか(後でよく見ると、この雪原斜面は南稜1,280m直下に確かに確認できた)。ブッシュの切れ目を探して左下に向かい、うまくブッシュを抜ける。そこからはコルまで無限の雪原斜面で、思い切り飛ばす。写したトレースを見ると、はっきりしないが、大きめのターンで滑走しているようだ。この無限の雪原斜面の滑走がこの日のハイライト。前日の風邪もこの日の疲れもふっとばし、風を切り、気持ちは猛然と、体は軽々と、エッジを刻む。すべてはこのために。

最低コルでシールを貼り、登り返す。無限斜面を見上げると、その真上に黒い岩壁、その上に閉じられた小雪原。あんなところを滑ってきたのか。南稜1,280mからコルまでの滑走は20分、そこからP4直下までの登り返しに15分弱。小さく黒く見えていたP4は怪獣の角のように頭上にそびえている。次なる難関はそのP4のトラバース。往路のトレースを忠実に辿って登り返し、10分強でP4の尾根に到達。尾根上は風が強く、風の弱い所まで進んで休憩。

P4からP3に向かうと、P2が天狗の鼻のように見えている。実際には、P1の鼻の方がはるかに大きいのだが。P3から幌天狗を見ると、その手前にP1とP2が並んで見える。二つの天狗の鼻。頭上を鷹か鳶が飛んでいる。P3からはいったん大きく滑り降り、P2に登り返す。P2の岩尾根は登れないので、往路のトレースを辿り、大きく南側を回って尾根に登る。尾根に戻ると、正面にP1の高い鼻がそびえる。P1の岩の鼻に向かって登っていく途中、風が強いのでゴーグルをかける。いったん雲が濃くなっていたのが、この強風で青空になっている。こんなに風が吹くと雨になるんでは・・・という悪い予感がしたが、これは当たっていた。

P1直下から往路のトラバース・ルートを辿る。次なる難関。P4のときは10分だったが、P1トラバースは距離があり、幌天狗まで40分弱かかっている。幌天狗への最後の登りのとき、背後に影が長く伸びている。もう夕方か(15時過ぎ)。幌天狗の頂上に行き、少し下ったところで風を避けて休憩。ワックスを塗ったかもしれない。そして滑走。その先、ほぼ滑走終了したM1まで1時間強、往路では3時間。しかし、M1から駐車地点まで2時間弱もかかってしまい、滑走による時間短縮分を使いきってしまった。

幌天狗頂上で群別に分れを告げ、滑走開始。長い頂上尾根を滑り、それから広い南西斜面に滑り込む。ショートターンで飛ばして中間テラス部分から北西に向きを変え、頂上のすぐ西にあるM4に寄る。ここは往路では来ていない。黄金山、ピンネシリに神居尻山。M4から雪原に滑り込み、その先の急斜面に出る。歪んだ枝の木はダケカンバか。急斜面の先に続く幌天狗の広い尾根の先には海が夕日で光っている。16時前。

急斜面の滑走。ショートターンを刻む。雪斜面はきれいだが、もう薄暗い。下の雪原に下り、少し登り返してM3。背後には急斜面台地の右上に幌天狗。M3からは林間の滑走。林の緩斜面を登り返し、M2。この長い頂稜では、最初にもう遠くなった幌天狗、次に重厚な浜益岳を見る。その先の広い尾根を滑走している途中で休憩9回目。雪質が悪くなり、滑らないのでまたワックスを塗ったかもしれない。その先で往路では気付かなかった分岐に当り、踏跡に従って右(北西)に向かう。これは間違っていなかったようで、その先で右手背後に幌天狗、次いで浜益岳に浜益御殿が見える。M1のあたり。

問題はその先で、自分の往路トレースが分からないため、一番新しい踏跡を辿ることにし、途中で尾根中央を外れて斜面右(北西方向)に向かう。結局、これがたいへんな間違いで、そこから2時間弱もかかる原因となる。尾根を忠実に辿り、西斜面を下って林道を探すべきだった。新しい踏跡はたぶん幌天狗頂上にいた人ものだろう。道を良く知っているに違いない、と思ったのだが、北西方向から行くルートでは往路の南西方向とは違っている。何か良いルートがあるに違いない、と思ったのは間違いで、そのルートはやがて雪が消え、ブッシュに入り、沢筋にぶつかる。踏跡は沢を下らずに斜面をトラバースしていく。それなら斜面を降りてくる必要はなかった。沢を下ってみては、という誘惑を振り切れたのは過去の経験である。

ビンディングを外して尾根を歩いていたが、やがて雪がなくなり、シートラーゲン。結局、左手に現われた斜面を登り返し、その先の笹の下りで林道を発見する。やはり北西方向は間違いで、北東方向に向かうべきだった。ともあれ林道を見つけたのでそれに従って下る。いつの間にか、一番新しい踏跡もここに来ている。その一番新しい踏跡は、途中でまた林道を離れて北西に向かう。九十九折の林道をショートカットするならと踏跡を辿ってみたが、どうも怪しい。途中で引返し、融雪で泥だらけの林道に戻る。

林道に下りたのが17時半過ぎなので、そこから更に1時間弱歩いたことになる。雪が積もっていれば10分であろう。いやはや。泥と水をできるだけ避けたいところだが、堅い土にスキー靴は弱い。思い切って(仕方なく)泥の中に踏み込む。後でじっくり洗ってやるからな。融雪の流れが林道から沢に下り、最後の残雪の上で最後の休憩。いやあ疲れた。徒渉点を渡り、意外と長く感じた最後の林道を歩き、ついにゲートに到達。朝あった車はなく、エクストレイルのみがある。二人目の男性もここに車を止め、帰って行ったのだろうか。

着替え、靴の泥を取り、スキーにワックスをかけてから車に乗って出発したときはもう暗くなっていた。19時過ぎ。前回寄った浜益温泉に行く。スタンプカードを押してもらうのに気を取られ、千円札のおつり五百円をとるのを忘れていて、帰りに野菜200円を買おうとして小銭がなく、車にとりに戻る。いやはや。翌日の暑寒別に登るため増毛に向かい、コンビニで食事を購入。コンビニ手前にキャンプ場表示があったので寄ってみるがいまいちなので止め、昨晩と同じゲート前に止める。今日は22時。おでんを食べ、夕食はなかなか手についていない。

やった、群別に登ったぞ!しかも頂上とG1から滑走できた。北海道の良い思いでになるだろう。

 前日

津軽海峡フェリー、ブルードルフィン

増毛の夕暮れ

恵岱岳?

 当日

林道ゲート、駐車地点

エサオマントッタベツを諦めた日の翌朝、4時過ぎに起きたとき、快晴になりそうな空を見て、群別岳に登ることにする。もしそうしなかったら後悔するのではないか、なんとか登れるのではないか、と考えた。前回泊まった雄冬峠駐車場に寄って着替えをし、前回は寄らなかった群別・幌天狗の尾根の北側にある林道に向かう。その林道はすぐに見つかり、開いたゲートのところに先客の車が一台。車はゲートまでとガイドにあったが、開いているので少し先まで入ってみるが、整備が悪く駐車スペースもないので引返す。群別岳には、その林道を行くのではなく、ゲートのすぐ先にある分岐を右に入って荒れた道を進まないといけない。よって、車で入らなくて正解だった。

林道から脇道(赤テープ)

駐車地点で湯をわかして朝食を食べ、テルモスにお茶を入れ、出発は6時。なあに、遅くなってもヘッドランプがある。日帰りツアーとなって格段に軽くなったザックをかつぎ、林道を少し歩いてヤブの道へ右折。古い赤リボンが目印。それにしてもひどく荒れた道で、最初は疑心暗鬼。違うかもしれない。しかし、15分ほど歩いた先でガイドの通りの徒渉点があり、確信に変わる。このルートで間違いないようだ。それにしても雪のない道をスキー靴で歩くのはつまらない。もっと早い時期に来るべきだった。

残雪が出てくる

残雪斜面

心配した徒渉点は問題なく越え、気温が上がってきたので上着と手袋と脱ぎ、荒れた道を進むが、途中から道の中央を水が流れだし、どうにもスキー靴を汚しながらの登りとなる。また洗わないといけない。高度があがるにつれて残雪が増え、7時過ぎに最初の休憩をとってシールに切り替える。すぐに残雪べったりの林の斜面となり、尾根の頂上が近づくと樹間に朝日が射してくる。残雪には古いスキートレースもある。

雪原と朝日

浜益岳

次いで尾根の北側に三つの白い尾根が見えてくる。おそらく右が浜益岳、中央が浜益御殿、左が雄冬山の尾根と思われる。すごい快晴の青い空。浜益御殿の南側を見るのは、考えてみると今が初めてだが、確かにあのような断崖になっているのだろう。前回はあの上を歩いていたのだ。背後に海が見え、最初のピークのM1・560mを認定。まだ先は長い。そのM1を過ぎるあたりで幌天狗に向かう太い踏跡を認め、それを辿る。そして行く手の樹間に幌天狗が見えてくる。いやあ、まだまだ遠く、高い。

幌天狗

広い疎林雪原を登り、いったん林を抜けてM2・745mに着くと、行く手に浜益岳と幌天狗が並んでいる。壮観。浜益御殿はもう浜益岳の南尾根に隠れて見えず、初めて見る浜益岳の南斜面が真っ白に輝いている。前回はあの頂上からこちらを眺めていたのだ。その浜益岳頂上から見たとき、群別岳と比べるとえらく貧相に見えた幌天狗だが、ここから見ると高く三角形の頂上を戴いていて貫禄あり。

日本海と小さな人影

黄金山

樹木がまばらに生えている広い尾根を行くと南側の視界も開け、黄金山が黒く低く見えている。もうすっかり雪はない。その向こうには別狩岳から神居尻の山々が見えているが、前回登った察来山がどれなのか同定は難しい。標高の低い山々がたくさん連なっている。9時に2回目の休憩をとり、9時20分頃に短い丘斜面を登ると、行く手の林の上に幌天狗の三角形の頂上が遠く小さく見えている。高さはだいぶ稼いだが、距離はまだ遠い。左手には浜益岳の二つのピークが並ぶ。

幌天狗

M3・944mに達すると、行く手の幌天狗頂上はその手前の急斜面台地の上に乗っているように見える。近くなったが、ずいぶん急な斜面に見える。平らな雪原を進んでその急斜面にとりかかるとき、背後を歩いてくる人影を見る。こんな快晴だし、登ってくる人がいないわけがない。いずれは追いつかれそう。病み上がりでもあるし無理はできないが、なんとはなしに足が速まる。10分ほどでその急斜面を登りきって上の雪原台地に達する。後続の人を見ていなかったら、ここで休憩していただろう。そのまま雪原を縦断し、尾根になっている南側から頂上に向かう。南には神居尻山とピンネシリ。だいぶ霞んで見える。幌天狗の頂上はもうすぐだが、頂上直下にもうひとつの斜面と台地が見える。

見えてきた群別岳

幌天狗

幌天狗から見る群別岳と奥徳富岳

そのもうひとつの斜面を登り、九十九折に斜面を右に登ったとき、幌天狗の東側に奥徳富岳が垣間見える。そして、もうひとつの台地を進んで幌天狗の頂上斜面を登っていくと、背後に下の平原台地とそこを歩いてくる後続の人影が見える。幌天狗の頂上へはどうやら先に着けそうだ。南の眼下には頂上の黒い黄金山。しかし、麓にはまだ残雪があるようで、その手前の群別岳への尾根にも雪がある。頂上直下の急斜面を登りきって頂上尾根に達する。幌天狗の頂上尾根は長く、平坦なその尾根を歩いていくと、まず奥徳富岳が現われ、次いで群別岳の南稜、そして群別岳の頂上が姿を現わす。浜益岳から見た鋭鋒の群別岳は格別だったが、ここから見る群別岳は尖った北西稜を持ち、断崖の西斜面を見せ、正に迫力満点。こちらからはとても登れそうもないように見える。結局、あのトサカのような南稜に登り、そこを越えて群別岳の南側から頂上に達したのだが、今写真を見ても信じ難いルートではある。

群別岳

郡別岳は日本百名山や北海道百名山にも選ばれていないが、ごらんの通りの迫力は名山と呼ぶにふさわしい。(日本の山1000には選定されている)

奥徳富岳

群別岳と小さな木

ところで、幌天狗の頂上は強風で、そしてなんと先客がいた。あのゲートに止めていた車の主だろうか。風を避けていたのか、頂上のだいぶ西側で休んでいた。群別には行かないのかな。雪の上に座って浜益岳の方を眺めている。幌天狗の頂上にはゆがんだ潅木があるだけで標識はなし。浜益岳から群別岳への稜線、その右手の奥徳富岳、そしてその手前にある幌天狗の北東尾根を初めて見る。遠くそびえる群別岳に比べ、手前につづまって見える幌天狗北東尾根はなんとか辿れるように見える。ガイドの写真には尾根を行く踏跡がついていた。実際にはどうか、尾根の北側をトラバースしている踏跡が見える。よし、あれだ。ザックを下ろしてピッケルを腰に差し、幌天狗の北斜面をシールで滑走してトラバース・ルートの起点に下る。ふむ、これか。徒歩の踏跡ではあるが、トラバースならスキーの方が楽だろう。シールのままで尾根に滑り込み、踏跡に沿って幌天狗北東尾根P1・1,189mをトラバースしていく。しかし、傾斜はそれほどでもなく、途中からはシールでの歩きとなる。慎重に前進するが、スキーの下りの歩きは難しい。登るように靴やビンディングの角度がついているためだ。それでも20分弱でP1の先の尾根に着き、スキーを外して3回目の休憩。いやあ、疲れた。ひっくりかえって休んでいると、幌天狗の頂上に人影。後続の人だろう。だが、その人も、頂上に先に来ていた人も、結局、群別岳には来なかった。

幌天狗・北東尾根P1

P1からP2・1,160mに向かう。群別岳の左奥に暑寒別岳の一部が見えているが、それは本峰ではなく西暑寒別岳。それに雄冬山も浜益岳の陰になって見えていない。P2頂上から振り返ると、P1が鋭い鋭鋒になってそびえている。これが「幌天狗」の名前の由来なのだろう。天狗の鼻。P2の先端はわずかにブッシュが覗いており、南側の斜面を回って東に下る尾根に滑り込む。そこは広い尾根になっていて、丸いピークのP3・1,171mに向かって登り返していくと、やがてP3の丸い頂上の向こうに、いったん隠れていた群別岳の頂上が見えてくる。

幌天狗

P3の頂上の先は尾根が細くなっており、雪に割れ目のできている南斜面を上から見下ろしながら慎重に進み、細尾根をまっすぐ滑り降りてP4・1,160mに向かう。最低コルはP4の先のようだ。最後のP4は細尾根の先端部分で、雪が融けてきてブッシュが出ている。そこからは浜益岳の右奥に尾冬山が見えている。東と南は進めず、踏跡もここで途切れている。いや、踏跡が一つ、北側を大きく下って東に回りこんでいる。これだ!と思い、P1のときよりも急な斜面のトラバースにかかる。先行の踏跡はブッシュ帯を避け、大きく下まで回りこんでいる。それが正解だろうと考え、大きく下まで下ってからトラバース。雪は柔らかいが滑らず、ほとんど歩いて進み、10分強でP4の東側基部に到着。休憩4回目。トラバース中は緊張を強いられるため、休憩が必要だ。背後には鋭い岩峰となったP4が立っている。これを登るのは無理そうなので、帰りもトラバースだな。

迫力の群別岳

北東尾根P4岩峰のトラバース

コルから見上げる群別岳

もうこの先には最低コルまでの滑走と、登り返ししかない。行く手には群別岳の頂上と手強そうな南稜。コルに向かって滑走開始し、振り返るとP4の岩峰。群別南稜のどのあたりを登るか考えながら進む。①群別に直接向かうルート・・・これは傾斜がきつく、無理、②南稜の北側・・・雪斜面があるが、岩壁部分が広い(実はブッシュ帯で、帰りに通る)、③南稜の中央・・・比較的広い雪斜面あり、④南稜の南側を回る・・・その南稜・南端からのスキートレースあり。結局、正面やや右寄りの③に向かう。④はトラバースとなるのが嫌だし遠回りになる。しかし、雪斜面はいずれ終わり、ブッシュ帯となる。

群別岳と南稜1,280m峰

コルから見上げる群別岳と南稜1,280m峰

コルから南稜に登り、幌天狗・北東尾根を見下ろす

南稜のブッシュ帯は稜線の狭い部分のみであり、コルから長い急斜面をまず登り、③の雪斜面に入り、最奥のブッシュ帯に到達。休み休み登ったのでずいぶん時間をかけたイメージがあり、コルからブッシュ帯まで40分弱。そこでアイゼンに切り替え、南稜の上に出る。ところで、南稜に登った40分間にたくさん写真を撮っており、背後の幌天狗の東稜の個性的な四つのピークを写している。P1は確かに天狗の鼻に見えてきた。そして群別岳頂上の南斜面を登る人影を見つける。やっぱり登っている人がいたのか、と思ったが、とても登れそうもない群別の頂上ピラミッドを登るルートは南斜面しかないと思っていたので、それは当たっていた。よし、これでもう群別岳には登れるぞ、と確信する。群別岳に登る人影は、南稜斜面を登っている間に二人見た。

南稜に達し、1,280m峰と群別岳頂上を見る

南稜を登り始めたとき、その黒い稜線部分ははるか頭上に細く小さく見えていた。登るにつれ、高度が上がるにつれて黒い稜線は大きくなってゆき、背後の細天狗東尾根は低くなっていく。やがて幌天狗東尾根は眼下となり、天狗の鼻も目立たなくなった。北の浜益岳も眼下になっている。アイゼンに替えて5分弱で稜線に達すると、その西側の風景が目に入る。奥徳富岳とそれに続く尾根、その向こうに見える平らな山は南暑寒岳だろうか。行く手には南稜最高点1,280mがあり、群別岳頂上を隠している。左右に切れ落ちた細尾根で、アイゼンで歩くと雪を踏抜き、ひどく歩きにくい。すぐにシールに戻す。群別岳の頂上が見えてきて、そこに二人立っているのが見える。もうすぐいくぞ。

南稜から幌天狗を見下ろす

南稜1,280m峰からシール滑走

南稜1,280mの東斜面を写してないのは、オーバーハングしていて見えなかったからである。南稜1,280mピークに近づくと、群別岳との連結部分が広く平になっているのが見え、南稜1,280mピーク直下あたりからそのコル部分に向かってシール滑走する。広いコルにはスノーシューが一足置いてあり、頂上の二人のいずれかが置いていったのだろう。彼らの踏跡は南稜の東斜面をトラバースしてきている。「とっておき」記載の群別岳への最短ルートに違いない。コルのところでちょうど下ってきた一人とすれ違う。男性は元気に下って行ったが、スノーシューは置いていった。男性の背後の南稜1,280mピークは黒ぶちのやや右に傾いた異様な姿。幌天狗は平凡な低い山。コルから見る群別岳は頂上部分がオーバーハングの先で見えておらず、西側にブッシュの生えた斜面に見えている。

群別岳頂上と登山者

南稜1,280m峰と幌天狗

群別岳頂上の私

苦労してその頂上に立ち、目も眩むような四周の情景にしばらく見入る。眼下は切れ落ちた崖で高度感満点。見上げると目の届くはるか遠くまで、真っ白な雪の台地。

群別岳・北西陵と浜益岳、雄冬山

頂上南斜面は思ったよりも広く、九十九折で休みながら登っていく。たくさんの踏跡にスキートレースも混じっている。コルから頂上まで20分。狭い頂上で、下りようとしていた男性に写真をとってもらう。北に続く北西稜はすごい迫力。なんとその北西稜まで辿ろうとしている踏跡がある。その北西稜の背後に浜益岳と雄冬山が見えている。浜益岳から見ると群別岳を縦に見ることになり、北西稜は重なって見えていなかった。反対側の南稜ははるか眼下になっており、そのコルに向かって二人目の男性が下りて行く。東には奥徳富岳に向かって東尾根が延びており、北東方向に暑寒別岳の全景が初めて見える。浜益岳から見たとき、群別岳から暑寒別岳に向かって尾根が繋がっているように見えたが、群別岳頂上から見ると、その尾根は群別岳の北東絶壁の下に位置している。その向こうの暑寒別岳は丸い姿で、左に西暑寒別岳を従えている。右の南暑寒別岳はずいぶん離れている。拡大してみると、暑寒別岳と西暑寒別岳の西斜面は断崖絶壁に見える。このときは翌日は暑寒別岳に登るつもりでいたので、明日はあそこからこちらを見ているだろう、と思っていた。

幌天狗と日本海

奥徳富岳への尾根に向かう踏跡があったが、頂上まで続いていたかははっきりしない。途中に岩峰が立っているところが難所だろうが、行けないことはないだろうが、時間はかかりそうだ。風が強く、薄くかかっていた雲が濃くなってきて日差は弱いが、それでも目も眩むような四周の情景をしばらく見渡す。はるか眼下の幌天狗、その向こうに広がる海、黒い頭の南稜1,280mとその両側の切り立った崖。あの斜面を登り、越えてきたとは信じられない。南稜の東の谷は南に向かって下っており、そこに向かって赤いザックカバーの男性が下りて行く。コルでしばらく休んでいたが、頂上は狭く、風が強かったからだろう。頂上の東に出っ張りがあるが、岩なのだろうか、それとも雪庇なのか。その出っ張りの左のかなたに暑寒別岳。北方向には広い沢筋(暑寒別川)があり、その左側に雄冬山と浜益岳が立っている。

奥徳富岳と下っていく男性

頂上北に続く北西稜が最高の迫力の情景。浜益岳と雄冬山を背景に迫真の岩峰を立てている。浜益岳はゆったりした稜線を左右に延ばしているが、前回あの頂上に立ったとき、この群別岳の切り立った情景がすばらしく印象的だった。増毛の山々の中で最も印象的な山である。さて、なごりおしい群別岳の山頂でシールを外して滑走開始、と思ったら、なんとシールを入れる袋が無い。大きいザックのほうに入れっぱなしにして、小さいザックに入れ替えておくのを忘れていた。なんてことだ。かつて大白森山で同じ事態になり(このときはテントに置いていた)、このときはシールを腹に巻いて滑走したが、今回は群別岳頂上からの長い滑走なので、折畳んでザックに入れる。張り直すときが大変だろうがしかたない。

頂上から南の景観:奥徳富岳、下っていく男性、南稜1,280m峰、幌天狗

頂上から北の景観:北西稜、暑寒別岳、奥徳富岳

暑寒別岳

奥徳富岳

頂上から南西の景観:南稜1,280m峰、幌天狗、北西稜

浜益岳

雄冬山

頂上から北西の景観:幌天狗、浜益岳、雄冬山、北西稜、暑寒別岳

頂上からの滑走

そして、頂上からの思い出に残る滑走開始。

南稜から見る群別岳

やはり滑走は格別である。滑走できるか分からず、コルにスキーを置いてくることも考えていたが、この南斜面は十分に滑走可能。しかも滑りやすい雪。急斜面にショートターンで快適に飛ばす。南東斜面に斜めに滑り降りていればトレースをはっきりとつけられたかもしれないが、登ってきた南斜面に沿って、登りトレースのやや東側の狭いスペースを滑る。あまり停止せず、すぐにコルに到達。振り返ると、急斜面につけたターントレースは余りはっきりは見えない。写真を拡大すると、うまく滑っているのが分かる。もっと南東側を滑ればはっきりしただろう。

南稜1,280m峰に登り返す

南稜1,280m峰を越える

南稜からの滑走

南の谷への分岐は最低コルから少し登り返したところにあり、そこで休んでいた男性はコルに着く前に出発して、南の谷に下っていった。下っていく男性の姿を見た覚えがあるが、写真には撮っていない。たぶんすぐにオーバーハングの向こうに見えなくなったのだろう。分岐からは南稜1,280mに向かうが、そこからは急斜面のトラバースの登りなのでシールなしの登りは楽ではない。そんなところでバランスを失って転んでいる。たぶん写真を写していてバランスを失ったのだが、気をつけないといけない。それでもなんとか立ち上がり、コルがら南稜1,280m直下まで5分で到達。そこから南稜を歩くが、幌天狗側斜面に広い雪原斜面が見える。登ってきたところまで行ってブッシュを下りずとも、その手前から滑走できそうだ。いや、下からはそんな雪原斜面は見えなかったが、おかしいな・・・と思いつつも、上から見えているのだから大丈夫だろう。少々のブッシュを越え、雪原斜面に滑り込む。ヤッホー。

幌天狗・北東尾根を見下ろす

ところが、その雪原斜面は下がブッシュ帯で閉じられていた。なるほど、だから下からは見えなかったのか(後でよく見ると、この雪原斜面は南稜1,280m直下に確かに確認できた)。ブッシュの切れ目を探して左下に向かい、うまくブッシュを抜ける。そこからはコルまで無限の雪原斜面で、思い切り飛ばす。写したトレースを見ると、はっきりしないが、大きめのターンで滑走しているようだ。この無限の雪原斜面の滑走がこの日のハイライト。前日の風邪もこの日の疲れもふっとばし、風を切り、気持ちは猛然と、体は軽々と、エッジを刻む。すべてはこのために。

斜面途中から見上げる群別岳

北東尾根P4岩峰

最低コルでシールを貼り、登り返す。無限斜面を見上げると、その真上に黒い岩壁、その上に閉じられた小雪原。あんなところを滑ってきたのか。南稜1,280mからコルまでの滑走は20分、そこからP4直下までの登り返しに15分弱。小さく黒く見えていたP4は怪獣の角のように頭上にそびえている。次なる難関はそのP4のトラバース。往路のトレースを忠実に辿って登り返し、10分強でP4の尾根に到達。尾根上は風が強く、、風の弱い所まで進んで休憩。

幌天狗から見る暑寒別岳、群別岳、奥徳富岳

見納めの群別岳

P4からP3に向かうと、P2が天狗の鼻のように見えている。実際には、P1の鼻の方がはるかに大きいのだが。P3から幌天狗を見ると、その手前にP1とP2が並んで見える。二つの天狗の鼻。頭上を鷹か鳶が飛んでいる。P3からはいったん大きく滑り降り、P2に登り返す。P2の岩尾根は登れないので、往路のトレースを辿り、大きく南側を回って尾根に登る。尾根に戻ると、正面にP1の高い鼻がそびえる。P1の岩の鼻に向かって登っていく途中、風が強いのでゴーグルをかける。いったん雲が濃くなっていたのが、この強風で青空になっている。こんなに風が吹くと雨になるんでは・・・という悪い予感がしたが、これは当たっていた。

夕日の日本海

P1直下から往路のトラバース・ルートを辿る。次なる難関。P4のときは10分だったが、P1トラバースは距離があり、幌天狗まで40分弱かかっている。幌天狗への最後の登りのとき、背後に影が長く伸びている。もう夕方か(15時過ぎ)。幌天狗の頂上に行き、少し下ったところで風を避けて休憩。ワックスを塗ったかもしれない。そして滑走。その先、ほぼ滑走終了したM1まで1時間強、往路では3時間。しかし、M1から駐車地点まで2時間弱もかかってしまい、滑走による時間短縮分を使いきってしまった。

浜益岳

幌天狗頂上で群別に分れを告げ、滑走開始。長い頂上尾根を滑り、それから広い南西斜面に滑り込む。ショートターンで飛ばして中間テラス部分から北西に向きを変え、頂上のすぐ西にあるM4に寄る。ここは往路では来ていない。黄金山、ピンネシリに神居尻山。M4から雪原に滑り込み、その先の急斜面に出る。歪んだ枝の木はダケカンバか。急斜面の先に続く幌天狗の広い尾根の先には海が夕日で光っている。16時前。

幌天狗からの滑走

急斜面の滑走。ショートターンを刻む。雪斜面はきれいだが、もう薄暗い。下の雪原に下り、少し登り返してM3。背後には急斜面台地の右上に幌天狗。M3からは林間の滑走。林の緩斜面を登り返し、M2。この長い頂稜では、最初にもう遠くなった幌天狗、次に重厚な浜益岳を見る。その先の広い尾根を滑走している途中で休憩9回目。雪質が悪くなり、滑らないのでまたワックスを塗ったかもしれない。その先で往路では気付かなかった分岐に当り、踏跡に従って右(北西)に向かう。これは間違っていなかったようで、その先で右手背後に幌天狗、次いで浜益岳に浜益御殿が見える。M1のあたり。

幌天狗

問題はその先で、自分の往路トレースが分からないため、一番新しい踏跡を辿ることにし、途中で尾根中央を外れて斜面右(北西方向)に向かう。結局、これがたいへんな間違いで、そこから2時間弱もかかる原因となる。尾根を忠実に辿り、西斜面を下って林道を探すべきだった。新しい踏跡はたぶん幌天狗頂上にいた人ものだろう。道を良く知っているに違いない、と思ったのだが、北西方向から行くルートでは往路の南西方向とは違っている。何か良いルートがあるに違いない、と思ったのは間違いで、そのルートはやがて雪が消え、ブッシュに入り、沢筋にぶつかる。踏跡は沢を下らずに斜面をトラバースしていく。それなら斜面を降りてくる必要はなかった。沢を下ってみては、という誘惑を振り切れたのは過去の経験である。

944m峰からの滑走

ビンディングを外して尾根を歩いていたが、やがて雪がなくなり、シートラーゲン。結局、左手に現われた斜面を登り返し、その先の笹の下りで林道を発見する。やはり北西方向は間違いで、北東方向に向かうべきだった。ともあれ林道を見つけたのでそれに従って下る。いつの間にか、一番新しい踏跡もここに来ている。その一番新しい踏跡は、途中でまた林道を離れて北西に向かう。九十九折の林道をショートカットするならと踏跡を辿ってみたが、どうも怪しい。途中で引返し、融雪で泥だらけの林道に戻る。

黄金山

林道に下りたのが17時半過ぎなので、そこから更に1時間弱歩いたことになる。雪が積もっていれば10分であろう。いやはや。泥と水をできるだけ避けたいところだが、堅い土にスキー靴は弱い。思い切って(仕方なく)泥の中に踏み込む。後でじっくり洗ってやるからな。融雪の流れが林道から沢に下り、最後の残雪の上で最後の休憩。いやあ疲れた。徒渉点を渡り、意外と長く感じた最後の林道を歩き、ついにゲートに到達。朝あった車はなく、エクストレイルのみがある。二人目の男性もここに車を止め、帰って行ったのだろうか。

樹間の幌天狗

着替え、靴の泥を取り、スキーにワックスをかけてから車に乗って出発したときはもう暗くなっていた。19時過ぎ。前回寄った浜益温泉に行く。スタンプカードを押してもらうのに気を取られ、千円札のおつり五百円をとるのを忘れていて、帰りに野菜200円を買おうとして小銭がなく、車にとりに戻る。いやはや。翌日の暑寒別に登るため増毛に向かい、コンビニで食事を購入。コンビニ手前にキャンプ場表示があったので寄ってみるがいまいちなので止め、昨晩と同じゲート前に止める。今日は22時。おでんを食べ、夕食はなかなか手についていない。

林間滑走

やった、群別に登ったぞ!しかも頂上とG1から滑走できた。北海道の良い思いでになるだろう。

 別の日の群別岳

暑寒別岳から見た群別岳

暑寒別岳から見た奥徳富岳と群別岳

浜益岳から見た鋭鋒の群別