英国EU離脱後の衝撃の余波(日経H28.6.29 春秋)
・英国がEUからの離脱を決めた衝撃の余震が続く。独仏伊首脳が混乱を防ぐべく方策をとることの約束を確認。日本も政府・日銀が緊急会議などで対応を急ぐ。が、当の英国からは「後悔」や再投票との声も聞こえてくる。緊迫と興奮の催しの後の筋肉痛か二日酔いが聞こえてくるようだ。身構えたこちらが戸惑う。
・離脱は「歓喜の歌」よりも自国のマーチ「威風堂々」を選んだようにも見えるが方針が揺れ続けては国の威信にも関わる。往時のモーツアルトは旅に暮らし、大陸出身のヘンデルはロンドンで活躍した。共通の文化の地盤が厚ければこそである。欧州の持つそんな底力が問題を解く鍵のひとつになるまいか。
感想:
・上記記事には、英国は「歓喜の歌」よりも自国のマーチ「威風堂々」を選んだようにも見える、と書かれている。確かに、エルガーの作曲した名曲「威風堂々」は周囲を圧するような威厳があり実に威風堂々たるマーチである。しかし、離脱決定後の英国政治家の動きには、離脱後の然るべき対応すらも感じられない状況に、今英国から聴こえてくるのは「威風堂々」どころか「かっての遺風は堂々ながらも今や行く道(未知)マチマチのマーチ」ではなかろうか。
・上記記事を読んで同日経紙のぺージをめくると、なんとそこには「“賭けと誤算 勝者も凍る”ー迫真“Brexitの衝撃2”」(日経H28.6.29)という記事が掲載されていた。それを読んで再び驚いた。まずは、今回の国民投票で離脱派の先頭に立って戦ったボリス・ジョンソンについて、同日の日経:「Brexitの衝撃」によると、次のような驚愕の事実が記載されているのである。
① 彼は一世一代に賭けには勝った。だが、欧州合衆国の提案者チャーチルの崇拝者ででもある彼は自らが開いた“パンドラの箱”の闇の深さを誰よりも知っている。彼は次期首相候補の筆頭であるにも関わらず「離脱後の英国」が辿るべき道筋については決して口にしないのである。更にこの記事には次のような記述もある。
② 彼は3年前のインタビューでは「私は単一市場の支持者だ。国民投票が実施されたら残留に投じる」と言っている。
③ そんな彼が何故離脱派のリーダーという役割を買って出たのか。浮かんでくるのはかっての盟友で生涯のライバルである、英首相、デイビット・キャメロン首相への強烈な対抗意識である。
④ 彼の目には、今回の国民投票は権力奪取の好機と映ったのではなかろうか。離脱派の重鎮たちの信任を得られれば、たとえ破れても次期首相選出の布石になると考えていたのではないか。
⑤ 当のジョンソンは「僅少差で負けて存在感を高められるのがベスト・シナリオ」と想定していた節がある。
・更に更に驚いたのは、権力闘争のために、国民投票を利用しようという危険なギャンブルに初めに手を染めたのはむしろキャメロンであったという記事である。
① 若くして首相に就き後ろ盾のないキャメロンは保守派の反EU派幹部に突きあげられた結果、盟友ジョージ・オブボーン財務相の猛反対を押し切って、13年1月に、15年の総選挙で保守党が勝てば国民投票を実施すると公約し、国家の命運をかけた重要な今回のEU問題を自らの政治基盤強化の賭けに使ったのである。
② 投票結果が判明した6月24日朝の会見で彼は「英国は大きな問題から逃げない。だからこそ国民投票を実施したのだ」と、強弁した。が、
③ 選挙キャンペーンでは残留のメリットを主張し続けたキャメロンには、自らの賭けの敗北が英国にもたらす打撃の凄さは手にとるように分かっていた筈である。
④ スコットランド独立の住民投票や総選挙で数々に政治的難所を切り抜けてきた彼も、最後の大勝負で身ぐるみはがれた。
・以上の記事を読み、政治家たる者は、国家が衰退を辿る中にあっては、当然に自国の苦境を克服すべき意欲を掻き立てて、それに必要な諸政策を遂行するものであろうと思っていたわれわれにとって、英国の主要な現政治家たち二人が、「英国がEUに留まるかどうかという国家の命運に関わる重大事」すらも、それを自らの政治的地位の向上への賭け金にしていたという事実に愕然とするのである。
・ところで、上記記事にあるヘンデルは、ドイツ生まれながらも青年期以降ロンドンに移住し、そこで有名な「水上の音楽」やハレルヤコーラスで有名なあの何とも荘厳な「メサイヤ」などを作曲している音楽家である。またビートルズは20世紀に世界の若者の心を捉える名曲の数々を世に送り出している(因みに今日6月29日はビートルズが来日して50年目に当たり、日本のビートルズフアンは本日をその記念日にしているとか。お蔭でこのところTVではビートルズ特集が喧しい)。このように音楽の世界に於いても、英国は、ドイツやイタリアといった圧倒的な音楽大国に伍してかなりメジャーな地位を占めていたし、かつまた、世界政治の中でもかってはかなりメジャーな地位を占めていたにも拘らず、今回は何故にいとも簡単にマイナーな地位に自らを陥れたのか、それこそが大いなる疑問である。音楽でもマイナー調は、一般的に暗く悲壮感漂うものである。(H28年6月29日記す)
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