安倍さん，言い過ぎでは？

安倍晋三首相が国際オリンピック委員会（ＩＯＣ）総会で，汚染水について「状況はコントロールされている」と明言したことについての是非が問われている．その後の東電の相次ぐ不始末が裏目に出ている可能性がある．ウエブ上の勝手な意見ならともかく，「嘘つき」呼ばわりするテレビコメンテーターもいる始末である．

そこで，正確にはどのように発言したのか調べてみた．

官邸のホームページに原文が紹介されている．冒頭の挨拶（青字の部分）の後に，ごく短く述べているだけである（赤字の部分）．

さらに，質疑応答では「汚染水の影響は原発の港湾内0.3平方キロ内で完全にブロックしている」「近海のモニタリングでは、数値は最大でもＷＨＯ（世界保健機関）の飲料水の水質ガイドラインの５００分の１」，「健康問題は現在も将来も問題ない」などと数値を上げて説明したと報じられている．

招致成功後，安倍首相は「（汚染水問題を加えるのを）決めたのは寸前．私の強い意志と実態を分かりやすい言葉で話し．質問でさらに説明しようと考えた．自信があるから（解決できると）申し上げた」と語った．

東京五輪開催を実現させたスピーチだが，国際社会に公約した格好となった．安倍首相は実現に向け重い責任を担うことになった．

”安倍首相，簡単にビッグな約束をして大丈夫かな”と思うのは，私だけではないはずである．

記憶に残っている中に年金問題への対応がある．

第一次安倍内閣の時，スーパーコンピュータを導入するから，「一年間で私たちはすべて突合を行うということをお約束をする」と断言，当初2年程度を想定していた調査期間を前倒しすると表明した．基本データが無いのにコンピュータ処理はできないはず，お手並み拝見と思っていたら年金記録の照合作業は進まず頓挫した．参院選挙における安倍首相の公約は実現せず，後任の首相である福田康夫首相が謝罪する事態となった．

また，安倍氏は総裁選に出る際に，「画期的な新薬が開発されたので治りました」と言っていた．厳密には潰瘍性大腸炎は完治するものではなく，症状が再び悪化する可能性が十分にある．私の知る限り剤形を変えただけの薬である．そのことを現役の薬剤師に確認したら，◯△新薬のアサコール（メサラジン）とのことであった．結核の治療薬パラアミノサリチル酸（PAS）の位置異性体である．おそらく発売元の製薬会社名が”◯△新薬”だから新薬と思っているのではないかという付録がついていた．添付文書

メサラジンとPAS

アベノミクス第三の矢は内容的には新味がなかった．その中で大胆な規制緩和の目玉として医薬品のネット販売を挙げたのには驚いた．その発想も自分自身の体験からきているのかもしれない．

もっと問題なのは，国内では問題山積の原発を平気で外国に売り込んでいることである．福島原発の現状と核廃棄物処理に関連して放射性物質の物理的性質を理解しているのか疑問である．福島原発で得た情報を共有することで，世界一安全な技術と情報を提供できるとも言っている．長年原発建設を推進してきた手前，前政権の失政の所為にはできない面が多いので，矛盾を感じていないのだろうか．

結論的には安倍首相は科学に弱いのかもしれない．しかし．細かいことにいちいち目を向けていたら，首相などやっておれないだろう．政治家にはこの程度のアバウト性は必須と思われる．

分子の姿を直接見ないとその存在を納得できない理系人間には到底理解できない世界である．

参考データ

メサラジンは炎症に起因する活性酸素を消去する働きがあると云われている．BDE (bond dissociation energy) をPM6法を用いて計算してみると，PASよりずっと低い値を示す．

(2013.11.10)