Military

実験局の次に11 meter band(26-28MHz)にやって来たのは軍事局でした。1929年7月8日、アメリカ合衆国のフーバー大統領はハワイとフィリピンの陸軍の無線局に26MHz帯の4波を分配しました。

日本では逓信省は海軍省や陸軍省の無線局には権限が及ばないし、海軍省は陸軍省や逓信省が担当する無線局には権限が及びませんでした。そこで三省からなる「電波統制協議会」で話合いによる周波数の獲得合戦を行っていたのです。

同様にアメリカにおける周波数の分配は、庁間諮問委員会IRACと連邦無線委員会FRCの2つの組織でそれぞれ周波数の割当が行われていました。政府系無線局の周波数分配を担当するのがIRACで、非政府系無線局の周波数分配を担当するのがFRCです。このページではIRACの説明から始めようと思います。

  • 1912年に商務労働省長官が、非政府系無線局の管理を開始

1912年8月13日、米国でRadio Act of 1912 (Public Law 264, 62nd Congress, "An Act to Regulate Radio-communication")が成立した。その第1条で特許を監督する商務労働長官に無線管理の権限を与えた。

『商務労働長官の許可なく、米国の個人・会社・団体は、各州・海外領土・米国船籍船舶もしくは外国と商業通信を行えず、違反者には$500以下の罰金、並びに使用装置・発明品は国が没収する』と定めた。ここに「非政府系無線局の通信を管理する法律」が誕生し、商務労働省(のちの商務省)が権限を握った。しかし"個人・会社・団体は" とあるように、商務労働長官の権限は他省の無線局には及ばなかった。のちに電波行政の専門組織として連邦無線委員会FRC(Federal Radio Commisson)や連邦通信委員会FCC(Federal Communications Commission)が管理する時代になってもこれは同じである。

  • 1923年に省庁間無線諮問委員会IRACが、政府系無線局の管理を開始

無線の黎明期は政府系無線局といっても海軍の海岸局と戦艦の無線が大多数であと陸軍の無線局である。海軍や陸軍はそれぞれ独自に周波数を確保していたが、電波の利便性が広く認知されるに至り、他の省庁との調整が必要になってきた。

1922年6月1日、放送バンドなど新しい無線サービスに周波数を分配するに当たり、無線に関する省庁間諮問委員会(Interdepartment Advisory Committee on Governmental Radio Broadcasting)を設けて、話合いを行った。

この会議では高まる民間からの周波数要求に対して、自分達が主導で政府系無線局に有利な周波数分配を行う重要性が再確認された。要するに民間(非政府系)無線局に周波数を持っていかれる前に、自分達の周波数バンドを確保しようとする狙いもあった。

この組織は1923年に、省庁間無線諮問委員会IRAC(Interdepartment Radio Advisory Committee)と改称し、その後も継続的な活動をした。ちなみにIRACの中でも最も古くから無線を利用していたのが海軍省で、当然その発言力も強大だった。

1923, 24, 25年に開かれた、国内無線会議(National Radio Conference)の周波数分配でも、IRACが大きな影響力を振るっていた。以後、米国における周波数分配は、まず周波数帯を政府系(Governmental Station)か、非政府系(Non-Governmental)かの分配を行う。政府系の周波数バンドはIRACに裁量権があり、非政府系の周波数バンドは商務省に裁量権があるからだ。

1927年の新しい無線法(Radio Act of 1927)では、非政府系無線局については連邦無線委員会FRCが周波数や出力の指定と、免許証の発行を行うようになったが、政府系無線局への周波数分配は大統領の権限で行われることになった。そして大統領へ周波数分配の助言を行う諮問機関がIRACだった。つまり政府系無線周波数の指定に関する影の実権を、IRACが握ったのである。

  • 26MHz帯に軍事局がやってきた

1928年3月30日、新しい無線法 "Radio Act of 1927" の第6条の定めにしたがい、クーリッジ(Calvin Coolidge)大統領が、周波数17.6 - 22,625kHz のおよそ600波の政府関係省庁無線局の周波数を指定する大統領令(Executive Order No.4846-A)にサインした。アメリカの電波行政史上で初となる大統領による周波数分配の瞬間であった。

しかし政府系無線局には海軍と陸軍の軍用局を含んでいたため、この大統領令は非公開とされた。その後、1928年6月4日の大統領令EO No.4902 と、1929年3月2日の大統領令EO 5067 で軽微な修正があった(26-27MHz帯には無関係)。

1929年7月8日にフーバー(Herbert Hoover)大統領は、大統領令"Assignment of Frequencies to Governmental Radio Stations"(EO No.5151-A)で、前回は周波数分配が保留されていた24-56MHz を、海軍省(Depertment of Navy)と陸軍省(Depertment of War)の無線局に分配した。やはりこのEO 5151-Aも非公開だった。

これらの周波数の指定先が海軍(Navy)に変わっている。

  • 27MHz帯にも軍事局を割当てた

1931年6月8日(EO No.5638)、アメリカの海外領土だったフィリピンのアメリカ海軍に、27.150MHzが追加指定された。27MHzの軍事局としてはこれが最初である。

EO 5638(June. 8, 1931)の中から、25-30MHzの部分を以下に抜粋した。

これまでアメリカ本土には26-28MHzを使う軍事局はなかったが、今回テキサス州 Fort Sam Houston の陸軍局に26.250MHzが指定された。本土の軍事局としてはこれが最初である。このほかに陸軍のパナマ運河地帯(26.190MHz)、アラスカ(26.220MHz)、フィリピン(26.280MHz)が指定されている。

26.190/26.220MHz が陸軍省のハワイ地区へ、そして26.250/26.280MHz が陸軍省のフィリピン地区へ分配された。なお誤解のないように補足するが、24-56MHz帯が陸軍・海軍の周波数帯になったわけではない。これは大統領のむせんで諮問機関IRACが担当する政府系無線局の中で24-56MHzが陸軍と海軍に分配されたという意味である。

非政府系の無線局へ周波数を分配していた商務省は商務省で、24-56MHzの中で、IRACの周波数とはかち合わない周波数を、非政府系無線局(民間)へ分配していた。つまりアメリカでは、まず最初にその周波数がGovernmental(政府系=IRAC担当)か、Non-Governmental(非政府系=商務省担当)かの、ぶん取り合戦を行う。

そしてそのあとに、IRACと商務省が自分の持ち周波数の中で、自分の権限により管下各無線局へ周波数分配を行う仕組みだ。

大統領令では無線局が地域ごとに書かれているので、これを周波数順に並べてみたものが下図である。

米国における政府系の11meter 無線局の歴史は、陸軍省から始まった。それもアメリカ本土ではなく、ハワイと、(当時米国の植民地だった)フィリピンの陸軍省の無線局である。

  • 商務省のRadio Service Bulletin にもこっそり(?)掲載

この26MHz帯の陸軍局は大統領令から1年ほど経ってから、本来軍事局への電波行政権のない商務省無線局(Radio Div.)が発行するRadio Service Bulletin No.156(Mar.31, 1930)の変更欄(Alterations and Correction)にも、一般の無線局に混ざって目立たぬ形で掲載された。特に軍事局だというような表示はされていない。

◆Fort Shafter, Honolulu (Hawaii)

従前の0.185, 8.160, 12.240, 16.320, 20.420MHz を廃止して、0.185, 20.400, 26.190, 26.220, 30.555, 30.590, 30.920, 34.960MHz の周波数を追加。

【参考】この陸軍局は1926年(大正14年)12月、東京芝の逓信官吏練習所にあった、逓信省工務局の短波実験局J1PPと交信しています。興味ある方はJ1PP J8AAのページも御覧ください。

(Alterations and Correction,Broadcasting Stations, Radio Service Bulletin, No.156, p.16, Mar.31,1930, Department of Commerce, U.S.Government. P.O.)

◆Fort Santiago, Manila (Philipines)

従前の周波数に、26.250, 26.280, 30.625, 30.660, 35.000, 35.040, 39.375MHz が追加された。

(Alterations and Correction,Broadcasting Stations, Radio Service Bulletin, No.156, p.16, Mar.31,1930, Department of Commerce, U.S.Government. P.O.)

  • ハワイとフィリピンの26MHz局が海軍へ

1929年9月30日の大統領令(EO No.5197-A)で、この周波数26.19MHz(Hawaii), 26.22MHz(Hawaii), 26.25MHz(Philippines), 26.28MHz(Philippines)は、陸軍省から海軍省へと指定が変更された。

EO 5197A(Sep. 30, 1929)の中から、25-30MHzの部分を以下に抜粋した。