1955

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北洋漁場での27MHz帯の試用が予想以上に効果的だったため、日本本土沿海でも全国を5ブロックに分けて、各ブロックに特殊波2波と船間波1波を割当てました。27MHzがマリンバンドとしてデビューすることになったのです。

SUMMARY この年の出来事

Feb. 19, 1955 - 郵政省は北洋漁場へ出漁する船団ごとに27.4-28.0MHz帯の電波を分配した。

July 1955 - 北洋漁場での27MHzの利用が好成績を収めたため27MHz上半分を漁業バンド化する検討に入った。

Aug. 5, 1955 - 宝塚歌劇団のラジオマイク(アメリカ製, 40.68MHz)が陸上移動局として免許。

  • January 1955 郵政省が北洋漁場用の周波数を分配

昨年暮れの実地実験を受けて、1月下旬に郵政省は今年度の北洋漁業用で認可する27MHz帯の周波数を公表し、無線機メーカーが早急に無線機を設計できるよう配慮した。5月の船団出航までそんなに時間は残されておらず、相当タイトなスケジュールだったと想像されるが、どうにか春前にはメーカー各社が27MHz帯実験局の免許を得て最終調整にこぎつけた。

  • Feb.19 1955 27MHzを北洋の漁場・会社別に分配

2月19日、郵政省は1955年(昭和30年)度の「北洋漁業無線通信要領」を決め、地方電波監理局長に通達した。これまで未使用だった27.4-28.0MHz帯をアリューシャン海域およびオコック海域で操業する漁船の船間通信用として指定した。これが27MHz帯の漁業無線の始まりである。

日本の独立でマッカーサーラインが消滅し、北洋での試験操業が再開されたが、年々好成績を収め、収益性が高いことが明らかになると水産庁には膨大な出漁申請(14社から母船14隻、独航船606隻、調査船117隻)が寄せられた。

水産庁は12月30日に母船式サケ・マス漁業の許可方針を発表。最終的に9社、母船14隻、独航船334隻、調査船72隻という空前の規模で出漁することが決まり、水産庁から要請を受けた郵政省が船団ごとに(沿岸国の無線局に混信を与えないよう調査のうえ)27MHz帯の周波数を割り振った。

なお日魯漁業の27.436, 27.754MHz、北海道漁業公社の27.582, 27.884MHzはアリューシャン海域と、オコック海域(オホーツク海域)の両船団が使うが、距離が離れているため混信しないと判断したようだ。またブリストル湾の蟹漁にあたる日本水産の東慶丸の船団には27MHz帯の指定はなく、中短波帯の通常の漁業波だけの指定だった。

では母船式漁業と27MHz無線の関係について補足しておく。北洋母船式漁業は5月から9月末までの長期間出漁する漁法で、荒天と濃霧という厳しい環境下で操業する。母船は実際に漁をする独航船へ燃料の給油や、食料を供給し、魚はその際に母船へ運ばれ、母船内で加工される。

母船(船舶局)はいわゆる陸上の海岸局の役目を担い、各独航船と頻繁に無線通信が行われる。去年の北洋漁業では初めて船団ごとに船間連絡用の専用波(中短波帯)を割当ててみたところ、その効果は絶大だった。水産庁からぜひ今年もとの要請があったが、中短波帯の周波数が不足しているため、空いている27.4-28.0MHz帯を使うことになった。

左表の各母船1隻あたり、20-30隻の独航船と、4-6隻の調査船でひとつの船団を形成している。母船にいる船団長が全ての船を指揮するが、船団長の重要な役割のひとつが漁場の選定だ。先行活動中の調査船からの無線報告を的確に判断し、船団の全船舶へ無線で廻航命令を出し次の漁場へ移動するのである。母船式漁業では船団の各船と安定した無線連絡が取れないと成立しない漁法ともいえるだろう。その重要な通信を27MHzに託したのだ。

【注】 これらの27MHz帯の周波数は基本的には漁場における連絡用だが例外的に往復航行中にも使用が許された。

  • July 26 1955 27MHzが大好評 「ぜひ日本近海でも使いたい~」 でもEスポが最大の害敵

北洋漁場での27MHzの無線通信は想像以上に効果的で、その評判が日本本土にも伝えられると、漁業関係者団体から日本近海漁業の船舶にも27MHzが欲しいとの要望が一気に強まった。郵政省では沿岸局とその周辺海域で操業する船舶へ27MHzの分配が可能かの検討に入った。いよいよ日本国内での27MHz漁業無線バンドが幕開けようとしていた。

日本の27.5-28.0MHz帯はいわゆる米軍バンドだったが、それは政府間交渉で退去願うとしても、やっかいな問題は春から夏にかけて発生するスポラディックE層による見通し外伝播による混信対策だった。そもそもスポラディックE層を喜ぶのはアマチュア無線家だけで、それ以外の無線局にとって突発的な長距離伝播は通信の邪魔になるだけで何のメリットもない。全国を6ブロックに区分して、500kmの距離を考慮して周波数の地域配分を行った。1ブロックごとに1波を、そして全国波として船間用27.632MHzと、無線機メーカー用の実験波27.650MHzが割り当てられた。

郵波航第776号 (D332-1) 昭和30年7月26日

地方電波監理局長

電波監理局長

漁業用27Mc帯周波数の指定について

右については、今般左記により取り運ぶこととなったから、了知の上、よろしく配意されたい。

一 本件周波数は、地方別に使用するものと、全国的に使用するものとに区別して指定されるものであるが、そのいずれか一方のみを指定してもさしつかえないこと。なお指定される電波型式はA1, A2 及び A3 とするが、そのいずれか一つまたは二つを希望するものについては、希望どおり指定できるものであること。

1.地方別に使用するものは、次のとおりであること

(一) 関東及び信越電波監理局管内の漁業局の使用するもの A1, A2, A3 27,668kc

(二) 東海、北陸及び近畿電波監理局管内の漁業局の使用するもの A1, A2, A3 27,572kc

(三) 中国及び四国電波監理局管内の漁業局の使用するもの A1, A2, A3 27,730kc

(四) 九州電波監理局管内の漁業局の使用するもの A1, A2, A3 27,529kc

(五) 東北電波監理局管内の漁業局の使用するもの A1, A2, A3 27,554kc

(六) 北海道電波監理局管内の漁業局の使用するもの A1, A2, A3 27,752kc

2.全国的に使用するものは、次のとおりであること

(一) 漁船の船舶局相互間に使用するもの A1, A2, A3 27,632kc

(二) 実験用として使用するもの A1, A2, A3 27,650kc

二 本件周波数の空中線電力は、次によること

1.海岸局 A1, 50W A2, 35W A3, 25W 以下

2.船舶局 A1, 20W A2, 15W A3, 10W 以下

三 本件周波数の通信時間は、さしむき随時とすること

四 本件周波数は、いずれも呼出及び応答にも使用できるものであること

五 本件周波数を指定される船舶局の無線設備の操作は、無線電話の場合については、特殊無線技士(超短波海上無線電話)によりその操作ができるよう法令の改正方、取り運び中であるが、それまでは法第40条の区別による他の無線従事者によって行われるものであること。

六 本件周波数等についての技術基準については、一般の例によるほか特に次のものについては、それぞれの基準に合致するよう申請書に記載せしめる方法による等適宣指導されたいこと

1.A3の発射電波の占有周波数帯幅は、6kc以内とすること

2.発射電波の周波数許容偏差は0.01%以内とすること

3.スプリアス電力強度は、基本波に対して40db以下(ただし船舶局については、できるだけとする)とすること

4.受信機選択度は、通過帯域幅6kc、20kc離調で50db以上の減衰を基準とすること。なお、中間周波数は、なるべく放送バンドを避けるものとすること

5.2波以上を装備する場合の周波数切換は、迅速かつ確実に行うことができるものであること

七 本件に対する検査については、一般の例によること。なお、検査の要領については、郵波航第131号(s30.3.1)の通達第3項に準じ実施するものであること(ただし、左表一般事項1を除く)

八 なお漁船の船舶局が激増する等の理由で、本件通達による周波数のみをもってしては、通信そ通上、困難を伴うような特殊事情のある場合には、さらに考慮のこととするから詳細進達されたいこと

1958年(昭和33年)12月1日、電波法改正に伴う設備規則が変更されるまでの間は、この通達(1955.7.26)により我国の「27MHz帯漁業無線制度」がスタートした。

  • Aug.05 1955 40.68MHzのラジオマイクを陸上移動局として免許

京阪神急行電鉄(阪急)が経営する兵庫県宝塚市の宝塚歌劇団ではアメリカから40.68MHzのラジオマイク(ワイヤレスマイク)を輸入し設備し、1955年(昭和30年)8月5日に郵政省はこれを陸上移動局として免許した。宝塚歌劇団はさっそく公演中の花組のミュージカル「キスメット」で使用を開始した。1934年(昭和9年)よりスタンドマイクを導入していたが、マイクから離れた位置でのセリフは肉声に頼るしかなく、4,000人を収容できる宝塚大劇場では、ワイヤレスマイクの免許を得て場内の隅々までセリフを届けるのが悲願だった。

その効果が評判となり、国際劇場(松竹)や日本劇場(東宝)など、40.68MHz のラジオマイク(陸上移動局)を導入(開局)する劇場が他にも現れた。郵政省では2年後に、免許を要しない無線局として扱うように電波法施行規則を改正した。

  • Aug.15 ~ Sep.2 1955 郵政省電波監理局による「27MHz帯Eスポ調査」 ・・・2018年3月5日更新

北洋漁場に次いで、日本近海漁場でも27MHz帯を漁業無線に分配することになり、その暫定規則を通達した。

郵政省電波監理局は地域毎のチャンネルプランを策定するときの基礎資料として、27MHz帯のスポラディックE層の発生状況について調査することを決めた。しかし夏季が終ってしまうと、来春まで調査できなくなるため大急ぎで準備がすすめられた。

送信局は北海道電波監理局が担当し、1955年(昭和30年)8月15日から9月1日までは毎日09:00-17:00の連続送信(最終日は9月2日09:00から9月3日09:00まで24時間送信)した。周波数は実験用の27.650MHz(出力15W)のA2(変調周波数1000Hz)波で、アンテナは北海道電監構内に地上高11mの垂直ダイポールを建てた。

受信局は北海道を除く9箇所の地方電波監理局(東北電波監理局 [送信局より540km] 、信越電波監理局 [同780km] 、関東電波監理局 [同840km] 、北陸電波監理局 [同880km] 、東海電波監理局 [同960km] 、近畿電波監理局 [同1100km] 、中国電波監理局 [同1230km] 、四国電波監理局 [同1265km] 、九州電波監理局 [同1470km] )で受信アンテナは関東だけが水平ダイポールで、他は垂直ダイポールを使用した。

なおこの受信測定には電波研究所の稚内電波観測所、秋田電波観測所、国分寺電波観測所も協力した。詳細は電波研究所季報(上杉弥兵衛/糟谷績/折茂仁介、27Mc帯のEs層反射による伝播について、『電波研究所季報』Vol.2 No.8、July 1956)で報告された。

  • Dec.27 1955 沖電気工業の検定機UFB-1B型

沖電気工業(株)の「UFB-1B型極超短波簡易無線電話」が試験に合格し、検定番号 第5053号を取得した。なおこの機種は翌年秋には改良(UFB-1C型)され再検定を受けている。