千美生の里、と呼ばれる場所がある。
簡単に言うなら、野間みつね作品キャラの住処だ。
里の時間だと四十年近く住んでるかな、俺は。
最初の頃は、作品の形で外に出ていくことも多かったが、俺の「前任者」が住み始めた頃から急速に里の外には出にくくなって、今に至る。それでも稀には外に出ていける時があるし、好きだと言ってくれる読者達も居るそうなので、有難い話だ。
それはさて置き、俺は、里長が「野間みつね」じゃなかった時代からの付き合いなので、彼女の作品は殆ど全て手に取る。去年やっと本になって里の外へ出た『魔剣士サラ=フィンク』も、八二〇ページだ超鈍器だと騒動されてるが、俺の「前任者」が主人公のひとりである『ミディアミルド物語』に比べればサクッと読み終えられる短さだし、あっちより遙かに漢字も開かれてるし、大騒ぎするほどの重さもない。……あ、いや、物理的な本の重さじゃなく、物語の重さの話だ。念の為。
主人公サラ=フィンクは、一見、ニヒルな奴だ。登場時は。
が、どうも事情あってのことらしい──という辺りが、第一話の時点で早くも見え始める。
第六話までの第一部では、彼の秘密が徐々に明らかになると共に、その弱さ脆さがどんどん表に出てくる。逆に、登場時には無力なお姫様かとも見えていたヒロインのミルシェ嬢は、折々に結構な強さ逞しさを発揮し、無自覚ながらも彼を救うことが少なくない。特に、第六話第二章で彼女が発した「え、それじゃ、サラ=フィンクって」に始まる台詞は、なかなか強烈だった。
第二部では、そんなふたりの関係変化が主眼になる趣がある。色んな出来事は起きるものの、それが大抵、互いの関係が深まる方向へと転んで……物凄く乱暴に言えば、これ、彼らが「なるようになる」話だよな?
……あと、他作品に比べて、えぐみが少ない。物語の終わり方にしても、ノンハッピーエンド好きの里長にしてはハッピー気味だ。裏で様々なことが起きていて「完全無欠のハッピーエンド」ではないが、当事者達がそれぞれ納得しての結末なら、バッドエンドではないだろうし。
数ある里長の作品の中でも割と安心して最後まで読める話、と評してもいいんじゃないかな。
ところで里長、お前なー、これだけは我慢出来ないから文句を言わせてもらうぞ。
この話の主人公にまで、赤変する瞳を持たせるなよ! 俺の特異性が薄れるだろ! (苦笑)