「はー」
「映画友達に薦められたんだっけ、よかった?」
「よかったけどよくない……」
「あれ」
「話はよかった。希望もあった。だけど問題が解決しきってない」
「え、ダメじゃん」
「話はダメじゃないの。虐待受けた男の子が再生目指すって部分は、まあ、いい。でもこれはそこがメインじゃなくて、大きな傷も負わず生きてこられた私みたいのの『なかったことにしときたい気持ち』がこっちの立場から書かれてて、それがつらい」
「怖い話?」
「主人公は中学生の《まお》で、お兄さんの結婚相手の連れ子《なあ》、この子が虐待を受けた子ね、年が近いからってなあの面倒をまおがみるわけ。仲良くなるけど、まおが大学生になった頃雲行きが怪しくなって、彼女が知らない『母親とふたりきりだった頃の歪み』が最悪な形で発覚するの。
ほらウチもさ、家庭状況が悪い子を救いきれなかったじゃない。身につまされつつ、でもここまでにはならなくて済んだなあって」
「俺のことだよね?」
「これに書かれてたけど、民生ってシステムも機能不全で児童相談所も疲弊してて救助側も困窮現場もうどん詰まりでさ、そういうの、よくない」
「ノンフィクションだったの? 読むの大変そうだね」
「フィクションだし、まおの一人称だからするするいけるよ。読む?」
「あ、終わった?」
「終わった。けどダメだろ! 俺はなあに納得できない! まおさんはもっといい奴がいる!」
「そこかー。まおは納得してるじゃん」
「わかってる~。でももっとちゃんとしあわせになって欲しい~」
「まあまあフィクションですよ。でも、なあみたいな子が簡単に変われるファンタジーもないんだよ。まおは気長に向き合うんでしょね」
「なあもなあ、もう少しこう……俺の周りにはいないタイプ」
「晴は頑張り屋だからね。でも頑張れない人を切り捨てていったらきっと駄目。それに人って類友なんだろね、まおとなあは進学先では出会わなかったよ。『居ても見えない』、じゃない?」
「絢音さん~」
「あっ、重、グリグリしない、重い~」
「俺、白城家に救われた。ふたりも家族に救われて欲しい」
「そうだね、だけど受け止めきれない人を責めるのもまた駄目なんだよ。う、ブーメラン。私も眞沙子さんを責めちゃ駄目、か」
「まさかの展開。母さんを許してくれる?」
「くぬう……しあわせでいてほしいとは思ってる……」
「そっか」
「重いからどいて~。潰れる~」