女王国と帝国との戦いにおいて不敗を誇った、女王国海軍最強の霧航士ゲイル・ウインドワード「自身」による独白を収録した唯一の書物ですね。オレも戦時を描く作家の端くれとして、大いに自作の参考にさせてもらっていますよ。戦時を知る者の生の声っつーのは、得ようと思っても得がたいものですからね。……と言っても、なんてったって、あのゲイル・ウインドワードですよ? あの、人の話を右から左に聞き流し、ミーティングの内容を三歩歩くどころか一呼吸で忘れて人に聞くような、同僚に「頭に豆腐が入ってる」と言わしめた、あのゲイルの主観による記述にどれだけ信憑性があるかなんて、十分想像がつきそうなもんでしょうよ。
とはいえ、民衆に絶大な人気を誇った英雄様も色々と悩んでほとんど自暴自棄になってたってこと。名声の影で、実際には「英雄」となったきっかけでもある相棒殺しに苛まれていたこと。新しい相棒との距離感に戸惑いながらも、少しずつ心を通わせていくこと。時に愉快に、時に本気に、ほんと馬鹿なくらい真正面からことに当たるあいつの姿は、なかなかに痛快なもんですよ。当時を示す資料として、だけじゃなくて、読み物として十分読めるものなんですから、案外文才はあるのかもしれませんね、あいつ。
ついでに、オレでもまだ検閲かけられてて詳しくは描けない、翅翼艇の性能や特徴に言及されているところも見所ですね。同じ『翅翼艇』って名前で括られてたって千差万別、故にこそ一騎当千であり続けた女王国の秘密兵器の姿を堪能できるっていう意味では、なかなか貴重な書物じゃないかと思いますね。しかも、本来ならばありえない『翅翼艇同士』の戦いとあっちゃ……、と、ここはオフレコでしたっけ? オーケーオーケー、大事なところはそっと隠しておきましょう。女神の蒸留酒は戸棚の下に、ってね。とにかく、スリリングな展開はお約束しますよ。英雄ゲイルとその相方が関わって、そんな平和裏に済むわけがないってね。
ああ、そうそう、大事なことを言い忘れてました。『空言』って言葉の意味、ご存知です? オレも大概に『空言』で知られたもんでね、この書評も話半分に聞いていただくくらいがちょうどいいですよ。ただ、ひとつだけ忠告するなら、これ、分冊ですけど両方手にした方がいいですよ。本当に……、意地の悪ぃことをしますよねえ。「誰が」とは言いませんけど、ね?