当家に通ってくる家政婦が自分で書いて印刷した本のレビューをしてくれと言うので仕方なく読んだ。
面倒な確定申告の資料整理を手伝うとまで言うので、そう……仕方なくだ。
「こんな毎月通帳に入金してくる地代収入と、不動産会社の管理料の領収書、固定資産税の納付書、接待交際費を集計取って、自宅の地震保険と国民健康保険料と扶養控除とふるさと納税寄付金書き込んだら仕舞いの申告書、どうして三月十五日までほっとくかな……」とブツブツ言っていたが、面倒なものは面倒なのだ。
(余談だがふるさと納税の返礼品は霜降り和牛とコシヒカリとズワイガニをセレクトした。私はそのようなものを食さないが、我が家の住み込み運転手の八人の子息たちが人狼で、食費がかかると、運転手のフジキノがつねづね嘆いているので配慮したのだ。当家においては従業員の福利厚生にも気を遣っている)
それはさておき、「祝祭 カルネヴァーレ」だが……十二世紀ヴェネツィアを舞台にした吸血鬼の華麗なる食生活の物語だ。
当時の雰囲気が出るように、当家の家政婦はずいぶん気を遣って書いているようだ。私は当時のヴェネツィアには商用で短期間訪れたきりで、この作品で描写に力を入れているカルネヴァーレは体験したことがないが、非常にそれらしく書かれている。
しかしこの作品でなにより充実している点は、そうだな、この小説のヒロインが実に美味しそうに描かれていることだ。
健康で、肉付きが良くて二十歳前後、しかも処女……最高ではないか。
世の吸血鬼ものは、このように……もっと食材(※)の描写に力を入れるべきだな。うちの家政婦はそこのところがよく分かっている。
対する吸血鬼もなかなかの男振りだ。美形で亡国の王。しかも過去に起こった悲劇を乗り越え、復讐を完遂し、いまは閑居している……まるで私のようだな。(※※)
しかし、一点、気に入らないことがある!
あの家政婦……私が離婚経験があるのを知っているはずなのにこんなものを読ませるとは!
この結末……私からはひとこと、「リア充、爆発しろ!」とだけ言っておこう!
実に腹立たしい結末だったぞ!
家政婦からひとこと注釈
※:人間のことです。
※※:この吸血鬼氏はただの暇人です。別に過去に悲劇を背負っていたりしません。