尊敬しているラノベ作家さんからの紹介で、通販で購入した本の紹介である。
1997年、女子高生の立花加奈が行方不明になった。 一緒にいたと思われる親友の世良田美頼発見されたが、彼女はその後、心を病み続けた。
そして2017年、ある学者が道玄坂の上、神泉の踏切で自殺をする。その通話履歴に残っていた名前が「タチバナカナ」であったことから20年前の謎と、20年の間に渋谷周辺で起こっていた踏切自殺との関連が暴かれていく。そんな話である。
当時の描写が実に懐かしい。
だが、そうやって渋谷で女子高生をやっていたような子とは、俺は縁遠く、というか、俺はもう少し上の世代で、1997年はすでに大学生だった。千葉にあった大学でゼミと牛丼屋のバイトに明け暮れていたな、とか。
ゼミに声の小さいキモヲタの俺に優しくしてくれる女子がいて、やっと春到来か、と舞い上がったものの、単にその子は誰にでも優しいだけだったことに気づき、一週間寝込んで、牛丼屋のバイトもクビになったなとか。つくづくロクでもない記憶の扉が開いてしまう。
そんな俺からは、無敵に見えていた渋谷の女子高生にもまた闇があったのだというのは、よくよく考えれば当然であるが、今まで気づいていなかった部分である。
さてそうして、元々低い自己評価がダダ下がった俺は、就職活動にも失敗し、晴れて現在、キモくて金のないおっさんになった。
現在四十代周辺の就職氷河期世代を巡る言説に「生きづらさ」がある。生きづらさとは、発達障害だったり、心の病であったり、個人の側にある状況をそう呼んだものであるが、読み進めていくうちに、やはり俺たちは「生きづらさに向けて疎外されてきたのだ」という思いを強くした。
物語は多くの伏線を回収して解決するが、正直なところ、そのトリックは無理があるだろー、と思わないでもなかった。だが、最後にわかるタイトルの意味など仕掛けもいっぱいで読ませるところがある。
物語を追っていく警察官の深川環は、姉御肌の女性で、気持ちの良いキャラクターであると思う。だが、個人的には俺の身内に似ていて、どうもむず痒かった。
この春、平成が終わる。バブルの崩壊と長い衰退の時代であった。読んだ人には様々な思いがあるだろう。
最後に加奈と美頼は百合的な関係にあるのだが、おじさんとしては、こう言い残してこのレビューを終わらせたい。
百合は尊い。