「マーイェセフィド」

佐藤パルヴィーンより世界遺産です!

皆さんはアルヤというとどんな国を思い浮かべるでしょうか? 旧ソ連? 内戦、民族浄化? イスラーム国家?

16世紀から19世紀にかけて、アルヤには太陽王朝という王政の時代がありました。実は、この時代の国教はイスラームではなく、太陽神と同一視される王が最高司祭として国を治めていました。

この王朝の歴代の王には数々の不思議な伝説が残っています。特に有名なのは、ブルーの髪の伝説です。ブルーの髪の王は神の力が使える『魔法使い』で、国を繁栄させる力をもつと考えられていました。したがってブルーの髪の王子が生まれるとその子は必ず王位を継承しました。

本作の主人公であるシャムシアス王は17世紀の王ですが、彼もブルーの髪の王子でした。生涯ただ一人の王妃を愛し抜いた人で、妃を愛するがあまり女学校や母子寮を作ったことで有名です。なんと、アルヤの王は17世紀ですでに福祉や女性の権利について考えていたのです。

このシャムシアス王、少年時代のことはほとんど分かっていません。彼の最愛の妃セフィーディアとの出会いの経緯も史料は一切残っていません。

21世紀に入り、DNA解析の技術が発展してきた結果、シャムシアス王は女性だった可能性が高まってきました。

その研究結果を参考に書かれた歴史小説が本作『マーイェセフィド』です。

シャムシアス王とその最愛の妃セフィーディアのラブストーリーです。

この二人の関係はアルヤ人が大好きなモチーフで、語り手を変えて何度も小説に書かれてきました。

本作は初めて日本人作家の手によって書かれたシャムシアス王小説で、シャムシアス王が実は女性であるという最新の研究結果とセフィーディア王妃は男性だったのではないかという大胆な仮説をもとにしています。

作者の丹羽夏子さんはアルヤ旅行の最中にこの『物語』に出会ったとおっしゃっていました。

孤独で美しい少年セフィードが女装して王妃になる。同じく孤独な王女シャムシャは彼の心の清らかさに惹かれていく。しかし時代は二人が普通に愛し合うことを許しません。シャムシャには兄がいて、まだ王位を狙っているのです。

伝統的な古典文学に異性装の作品のある日本の皆さんには楽しんでいただけるものと思います。

この作品を通じて日本の皆さんに私の母国アルヤを好きになってもらえたら私も嬉しいです。


──アルヤ文化考証/東洋文学研究所アルヤ文学科准教授・佐藤パルヴィーン

レビュアー
佐藤パルヴィーン さん

「マーイェセフィド」(丹羽夏子)

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