「おりおりおでかけおぼえがき」

眼帯の旅人にはわからない。

行きつけの店のカウンターに冊子が置いてあってさ、マスターに聞いたらお客に頼まれたんだと。ここらじゃ見ない顔で来たのも1回こっきりだって言ってたから、俺とおんなじ旅人かもな。

「おぼえがき」ってあるから文字だらけかと思ったら絵が多くてさ。出かけた先、食ったもの見たもの買ったもの…まあそんなのがみっちり描きこんであるんだ。余白恐怖症かこいつ。しかも俺の知らねぇ場所ばっかでよ。どこだよフクオカって。マスターに聞いてもさっぱり見当がつかねぇって首ふってたな。

誰が描いたのか、行ったのはどこなのか、わからねぇことだらけだけど、一つだけ俺にもわかったことがある。コレ描いた奴は間違いなく口下手だ。たぶん行ったトコがどうだったかって喋ンのがとことん苦手なんだろうさ。だから描いた。これでもかってぐらいみっちりとな。悪いことじゃねぇぜ。俺は酒飲みながら喋る方が好きだけど、歌や音楽で伝える奴もいりゃ絵で伝える奴もいる。まあ人それぞれだ。 それにこうして店に置いとくってことは知らねえ誰かに自分の旅を伝えたかったんだろうよ。でなけりゃ覚え書きなんて手元に置いとくもんだろう?

…そろそろ俺も旅に戻るかねえ。街もそれなりに楽しいけどフラフラする方が性にあってるし、それに旅してりゃ案外コレ描いた奴にばったりってこともあるかもな。

ああ忘れてた。冊子はいくつか預かってるそうだから欲しかったらマスターに言うといい。コーヒー片手に読みゃ暇つぶしになると思うぜ。

レビュアー
眼帯の旅人 さん

「おりおりおでかけおぼえがき」(烏楽)

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