今、同人誌の即売会ってものが大変な盛況でございます。一昔前までは好き者同士の集まりだったのが、今じゃ外国から観光客まで来るってんだから、世ン中わからないもんですな。あたしも一度は行ってみようかなとは思っているんでございますがね……、
「……おうおう、八っつぁんよく来たな。まあ何にももてなせねえが、座ってくれよ」
「もてなす気なんてハナッからねえだろ。同じ貧乏長屋に住んでんだから……。それで熊ッ公、突然呼び出して何でぇ」
「これだこれだ。ちょっと見てみなよ」
「文庫本じゃねえか、これがどうしたぃ」
「この前浅草の、蚤の市で買ってきたんだよ。なんだってえとな、落語を短編小説にしちまってるってんだから面白えじゃねえか。お前さんもよく、落語聴くじゃねえか」
「そりゃあ、寄席で落語家の噺聴いたりはするさ。でもよ、こいつぁ本じゃねえか。別モンだろう?」
「それがよ、ただ落語を今っぽくしただけの本じゃねえんだ。この短編なんて見てみろ。あの落語のサゲから話が始まってよ、そこから独自に物語が進んでくって寸法だ」
「へえ、あの噺の後日談ってわけだな。……にしてもよ、ずいぶん妙な展開になっていってるじゃねえか。これじゃあオチはどうなっちまうんだ?」
「そこはお前さん、読んでみてからのお楽しみだよ。ああそうそう、この短編もいいぜ。あの落語が今っぽい話で新鮮なだけじゃねえ。この本を売ってるような蚤の市の事情まで絡めてるときた」
「ずいぶん生々しいねぇ。するってえと何かい、蚤の市の事情を書いた話を、わざわざ蚤の市で売ってたってえのか。これを書いた奴、どうかしてんじゃねえのかい?」
「八っつぁん、その心配には及ばねえ。今度はこの短編を見てみな」
「どれどれ……。へええ、こりゃ変な話だね。何度も何度も同じような文章ばっかりなのに、話はしっかり進んでやがる。こりゃ書いた奴は、いよいよもってどうかしてるね。それで、何が心配ねえんだぃ」
「自分で言ってるじゃねえか。ただどうかしてるんじゃあねえ。変な文章だろうと真面目な文章だろうと話を進められる、力のあるやつがいるってことだよ」
「なるほどなあ、何だかもっと読みたくなってくるじゃねえか。他の話はどうなんだぃ」
「それがよ……、この本について語るにゃぁ、どうも文字数が足りねえみてぇだ」
「冗談言っちゃいけねえ!」