この本を手にとったのは文芸部の部室でのことでした。部室には狭いながらも沢山の本がおいてあります。中にはイベント好きの先輩方が置いていった同人の小説誌もたくさんあります。
その日は二人で部室に来たはいいものの、部誌の製作期間でもなく暇でした。なので本棚の中を適当に漁っていると、同じ表紙の二冊を見つけたのです。一人の人が間違えて同じ本を二冊買ってしまったのか、それとも偶然に二人が同じ本を買ってここにたどり着いたのか。想像は色々と膨らみます。興味を惹かれ私はその本の片方をゆかりに渡して一緒に読むことにしました。
「あ、この5ページ目に出てくるキャラクター、ゆかりにそっくり」
そのキャラクターは七条先輩といって真面目で厳しい人でした。するとゆかりは頬を膨らませます。
「あら、こんな能天気で大雑把な子、くれあの方がそっくりじゃない?」
おや? 私の読んだ七条先輩とは全く別の人物像です。ゆかりの冊子の5ページ目には「堂島カナ」と、知らないキャラクターの名前が。確かめると私の冊子とゆかりの冊子ではページがバラバラだったのです。
乱丁か印刷ミスかと思いましたが、どちらの冊子もちゃんと筋が通っています。実はこの冊子、一冊一冊の並び順が異なる本だったのです。ゆかりの本と私の本、並び順が異なるのも仕様。それでいて一つの物語として話が通るのですから、驚きました。
ですが、この冊子『さすぺんす』というタイトル通り、とある事件が起こっているはずなのですが真相が書かれていないのです。それもそのはず一冊一冊、ページがバラバラなのですから統一の真相なんて存在しません。きっと作者も冊子を作るだけ作って投げ出したに違いありません。
けれども、私たちは文芸部員、この小説を読み終わるとすぐに、ルーズリーフを取り出して文字を書き始めました。そう。私は私が手にとった冊子の、ゆかりはゆかりが手にとった冊子の真相を書き始めたのです。もしかしたらここだけでなく、他のどこかにも私の小説を読んで真相を考え、自分だけの「たねあかし」を書いた人がいるかもしれません。
この本に巡り会えたようにそんな真相にたどり着けることを期待しながら、私たちはペンを走らせました。