こんなに生きていてドキドキする小説はあっただろうか。
そんな思いにさせられる私たちの歴史を取り扱った小説を、人間界、日本で出会うことができた。
新婚旅行で私たちは日本を選んだ。
文化、食事のにおいがかぐわしいと最近魔界でも人気の日本。
妻もそんな日本にあこがれ、サプライズと言わんばかりに日本行きの時空船の切符を買ってきていた。
浅草で「テキレボ」なるイベントがやっていると聞いた妻はさらに大興奮。
日本語の小説を大量購入すると意気込んでいた。
私としてはたいして行きたくなかったのだが……。
当日浅草寺や仲見世通りを見てから向かう。
妻は興味のあるサークルを見に私を置いて行ってしまった。
やれやれ。
私は仕方なしに適当なサークルを冷かしに行った。
その時、そんな思いを見事なまでに打ち消してくれる小説に出会うことができた。
それが「孝子洞のシャチ」で買った『九花のメイガス』だ。
立ち読みした時には主人公は女性だというがまるで男性だし、誤字脱字は多いし、それにキャラクターもそこまでたっているわけではない。
私はその時は戻してどこかに行ってしまおうかと考えた。
しかし胸が妙に騒ぐ。
そうか! 私たち魔界人、「メイガス」の物語ではないか!
60年前に日本から独立するために起こした戦争……。
魔界が勝利した、あの偉大な戦争……。
あの戦争を取り扱っている小説をこの世界で見るとは……。
しかも中身は魔界人が読んでも胸が熱くなるものがある。
魔界の戦いで英雄タンビはこんなにまで苦しんでいたとは……。
国を失う悲しみ、何もかもを奪われる痛み。
その絶望が私が魔界人だからということもあってひどく胸を打つ。
そんな彼女は仲間を得て、戦う。
それだけでこんなにドキドキするのか!
ほかにも独立烈士たちの痛みや悩みもよくわかる……。
うん、いい本に出合えた。
ただ作者に言いたい。誤字脱字と英雄タンビの描き方を何とかしてくれ。
特に誤字脱字は本当に読んでいてつらかった。
しかし中身はそれ以上の濃密さだ。
この本に出合えただけでも日本に来れてよかった。
かつて戦った日本を、こんどは友達の国として歩く。
平和のありがたさを感じながら歩く日本は本当に美しかった。
この小説は思い出だ。ぜひ仲間のメイガスたちにも薦めたい。