初めまして。フィラ・ラピズラリと言います。私はパリ左岸の音楽学校に通う、十七歳のピアニスト志望の者です。こういうの、なんだか緊張しますね。
今回、本を一冊紹介するというお仕事をいただいたので、不慣れですけどがんばってみようと思います。
これから紹介するのは「海の歌声」という、ドビュッシーの「沈める寺」をモチーフにした小編です。ドビュッシーは私も大好きな作曲家で、中でも「沈める寺」は私に初めてピアノを教えてくれた先生との思い出がある、とても大切な曲なんです。だからこの本を見たとき、ああ、これは私が読まなくちゃいけない本だ、と思って、手に取ったんです。
まず、表紙の絵がとてもきれいなんですよ。晴れた空に浮かぶ大きな月と、それを見上げる亜麻色の髪の乙女(余談ですけど、「亜麻色の髪の乙女」も「沈める寺」と同じ、ドビュッシーの前奏曲集の中の一曲ですね)。花の咲き乱れる庭園、空を泳ぐ魚たち。空の青が吸い込まれるようで、本当にきれいで……これは実物をぜひ見てほしいです。
ドビュッシーの「沈める寺」は、もともとフランスに伝わるイスの町の伝説からインスピレーションを受けて作られた曲だと言われています。
イスの町は住民の不信仰や王女の嫉妬のために海に呑み込まれてしまったけれど、見せしめのために時折海上に浮かび上がってくる、という伝説です。その様子を描写した壮大な音楽で、弾くのも表現するのも難しいんですけど、私は大好きな曲です。
この「海の歌声」も、かつて栄華を誇りながらも一夜にして海に沈んでしまったセインの都の伝説が残る、地の果てと呼ばれる小さな漁村から始まります。小さい頃から自分たちはセイン王家の子孫なんだと言い聞かせられてきた主人公のフェリクスには、やはり幼い頃から繰り返し見ている夢があります。悪夢とも幸せな夢ともつかないその夢の中で、フェリクスはいとしい人を求めて宮殿の回廊を走っています。
ある嵐の夜、海に投げ出されたフェリクスが漂着したのは、夢に見ていた宮殿の片隅でした。荒れ果てた遺跡を彷徨ううちに、フェリクスは「海の魔女」と出会うのですが……
というのが、この本のあらすじです。時間や空間が夢のように入れ替わりながら進んでいくお話の続きは、ぜひ本を手に入れて読んでみてください。できれば「沈める寺」を聴きながら。
私も久しぶりに弾いてこようと思います。それでは。