「南風掌編集 準備号 追憶」

カフェ経営初老男性より愛をこめて。

あ、どうもいらっしゃい。カフェ・ジャルダンです。この時間はすいてるからね、どこでも好きなお席にどうぞ。もうちょっとあったかくなれば、テラス席もいいんだけどねえ。ああ、おすすめはチョコラータだよ。


うちもおかげさまで長く店をやれてこれてねえ。ご近所のバール・リオンスさんとおんなじぐらいやってるかな。うん、あそこのマスターもねえ、ぶっきらぼうだけどまあ悪い人じゃないよ。あ、マスター知ってる? ほう、そうでしたか。

バール・リオンスのマスターっていえばね、この本にもちょっとだけ出てるんだよ。これ、そう、『南風』の番外編っていうのかね、それを再録やら書き下ろしやら集めたやつなんだが、その中の一編にね。画家の男が舞姫のティーヴァちゃんと出会った晩のことを、画家側から描いたって話なんだがね。そこに、マスターけっこういい感じで出ばってたねえ。

いやあ、そして、実をいうと私も出てるんですよこの本。だから知ってるんですけどね。ええ、本のことを知ったきっかけどころか、本のかたちになる前から知ってましたよ。しかも私ゃ、マスターより多く出てんですよ。『南風』本編でも、私の方が印象的なんじゃないだろうか。なんたってねえ、ティーヴァちゃんとラーシェくん姉弟は、うちの店の二階に住んでましたからねえ。いろいろ思い出もあってねえ。


で、この本なんだけどね、掌編あれこれ、どれも短い話だし、それを『南風』の時系列を追っかけるかたちの順番で入ってるから、「本編読むまででもないけどどんな話の雰囲気なんだか知りたい」って人にゃおあつらえ向きじゃないかねえ。お話の流れがほとんどわかるから。うん、そして、この人たちどうなるんだろう? って思ったら本編を見ればいいと思うねえ。


ああ、あと、この本なんで「準備号」ってなってるかっていうと、そのうちに全編書き下ろしの短編集が別で出るからみたいだよ。そっちにも私とうちの店が登場することを祈ってるところですよ、ええ。

あっ。ご注文。失礼しました。今からご用意してきますんで、ええ、この本読んで待っててくださいよ!(本を手渡してどたどた厨房へ去る)

レビュアー
カフェ経営初老男性 さん

「南風掌編集 準備号 追憶」(猫宮ゆり)

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