最初にカタログ登録された内容がひどい。
タイトルが「そんなばかな(仮)」で、
内容紹介「今から新刊が……出る、だと?」
こいつは真面目にやる気がないな、と俺は直感したね。SNSを見てると、3/4が入稿〆切だったくせに「金の力で解決しました」と言いながら3/11に延長していた。毎日飽きもせず「原稿がヤバい」と言いながら、ほかのこともツイートし続けてたな。俺もいろんな原稿修羅場を見てきたが、ここまでまともに原稿作業のできない奴は初めてだ。呆れたよ。
こういう奴に限って、構想は立派なんだよな。異世界宇宙の成り立ち? 月たちの神話だって? 構想だけ上手くいってたってアウトプットしなきゃ何にもならない。奥付や中扉もイラスト付きでマメに作ってあるのに、本文はからっきしだ。俺には分かった、こいつはもう諦めたんだ、ってな。
正直言って、そこから何をどうミラクル起こして脱稿したのか、見ていた俺にもわからなかった。ただ、3/9に何かがあったらしい、その日を境に爆速で本文が進み始めて入稿前の最終チェックまではあっと言う間だった。中身もちらっと覗いたが、なんだこいつ、ちっこい緑の月、健気で可愛いじゃないか……それがなんで、そんな……。
──おっと、ネタバレはしない。もうすぐ製本されてくるから、楽しみにしててほしい。
ん? 俺がどこで作者の作業を見ていたのかって? 言わなかったかな、俺は原稿修羅場ウォッチャー。〆切がヤバい気配を感じ取っては背後から様子を覗きに行くのが趣味の者だ。最高にスリリングでエキサイティングなショーだから、もしあんたが生身を持っていないお仲間だったら、ぜひ一度試してみることをオススメする。