「掌上筆戯2」
木槿国の人々よりおすすめ♡
いつもより少し遅れて市場に来た少年は店の前に常連の画員夫婦と生員の三人が居るのを見つけた。
「今日は早いお越しですね」
「うん、非番だからあんたのとこで朝御飯食べようと思って」
と女服姿の画員の妻が答えた。
「でお前、何抱えているんだい?」
少年が包みを持っているのに気付いた画員が訊ねた。
「“掌上筆戯2”ですよ。前回入荷分がみんな捌けたので追加で仕入れたんですよ」
「あの本ね、韓国史の様々な物語が分かるって評判よ」
画員の妻がさっそく喋り始めた。
「一つ一つの物語が短いから読みやすいしね」
「韓流ファンの友人の妓女に見せたら喜んでいたわ、登場人物のプロフィールが分かるからって」
話が盛り上がっているのを見た少年は
「皆さん、もう読まれたのですか?」
と思わずきいてしまった。
「もちろん、巽庵と茶山兄弟の話が感動的だったね」
と生員が感慨深げに答えた。
「私は秋史先生の夫人を偲ぶ物語ね。先生の奥様愛されていたのよね〜」
画員の妻は夫を横目にうっとりとした口調で話す。しかしは画員知らぬふりして話を継いだ。
「俺は孤雲先生の話だな。栴檀は双葉よりナントカっていうもんな」
「ところであんたは読んだの」
妻は少年に話を向けた。
「はい、田道士の話が面白かったですね」
「そういえば主上は正祖大王の物語をたいそう気に入られたようだ。国王の心構えはこうでなくてはと仰りながら」
「王様も御覧になったのですか!」
生員の話に一同は驚いた。
「王宮にはまだ納入してないのに、どうして御存知なんだろう?」
少年は首を傾げた。
生員はそれには答えず
「もう一冊買いたいのだけどいいかい」
と言った。
「大丈夫ですよ」
少年が答えると
「じゃ、私も。友人に頼まれちゃって」
と画員の妻も手を出せば
「俺も知人に買って来いと言われてね」
と画員も買い求めた。
─この分だと追加注文出さなきゃならないな。木槿国の販売権を独占したんだから、どんどん売って稼がなくっちゃ。明日は王宮に納品に行かなくてはね。
二冊目を買い求める常連を見ながら少年は思わずにやけてしまうのだった。
木槿国の人々 さん