「蒼衣さんのおいしい魔法菓子」

悩める女子高生にどストライクかも

表紙の主人公の顔が、遠くに行ってしまった大切な家族に似ていた。

……という、単純な理由で手に取ったのは、焼き菓子の詰め合わせのような本でした。


主人公は、お人好しのパティシエ・蒼衣さん。彼は、愛知県にある架空の都市・彩遊市にある「魔法菓子店 ピロート」で、魔力の宿る不思議なお菓子を作る「魔法菓子職人」として働いています。

お店を訪れるのは、友だちとの仲違いで悩む高校生や、誕生日を発端にしたトラブルを抱えた家族、職場の人間関係に疲れた社会人。

周りから見れば些細な、でも、本人にとっては苦しい悩み……「人生のつまづき」。美味しい魔法菓子をきっかけに、日常の悩みを抱えたお客さんを優しく助ける、ヒューマンドラマです。


まず、なんといっても魔法菓子の描写がとても不思議で美味しそう!

プラネタリウムのように星座が浮かぶチョコレートケーキ。食べれば体がふわふわと宙に浮かぶシュークリーム。中から金や銀の粒が現れる焼き菓子。

手品のような魔法効果は夢にあふれていて、次はどんな魔法が出てくるのだろうとワクワクします。

不思議なだけではなく、読むだけで口の中に味わいが広がってくるような描写は、今すぐ近所のお菓子屋さんに駆け込みたくなります。


興味深い、と思ったのは、魔法菓子のあり方でした。

魔法菓子は不思議な力を持っているけれど、ひとの気持ちをさっと変えてくれたり、ずばりと問題を解決してくれる万能アイテムではありません。未来を変えるのは、問題を抱えた当人であり、魔法菓子は、あくまできっかけなのだというところが好きです。


そして、登場人物。

一見穏やかで優しい蒼衣さん自身も、好きな人への嫉妬や、慢心、嫌なことから逃げたりする「心の魔物」を持ち、人生のつまづきを抱える一人です。

過去にトラウマがあるからこそ他人に優しくありたいと思う一方で「魔物」に翻弄される表裏一体な部分に親近感を覚えました。私も少し前に、似たような経験をしたからかもしれません。


ピロートの店長で、親友の八代さんとの関係も(蒼衣さんが少し依存気味かもしれませんが)大人になってもこんな友情を続けていきたい、と憧れます。朗らかで前向きな八代さんの強さは、蒼衣さんでなくとも好感を持ちました。


自分だけじゃなくて、自分が大切にしたいひとにも読んでほしいと感じる、不思議なシンパシーを感じる一冊でした。

レビュアー
悩める女子高生 さん

「蒼衣さんのおいしい魔法菓子」(服部匠)

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