この作品に出会ったのはまさに偶然であり、運命だったかもしれません。
わたしは冬の寒さ厳しい国で暮らす、本が好きな女の子です。
家がそれなりに裕福だったので、読む本にはあまり不自由していなかったのですが、最近は読書にも少し飽き飽きしていたところでした。
ところが、多くの本に同じような設定が溢れかえる中で、明らかにわたし好みの光る作品、それが「砂の棺」でした。
偶然にも、わたしが暮らす国の、隣の国の物語です。
まず、「主人公の存在がない」というところが明らかに他の作品と違いました。
「主人公がない」といっても、複数主人公とか、いわゆる三人称である「神の声」という意味ではありません。
言葉通り、主人公には「姿も声も名前も存在しない」のです。
意識だけの希薄な存在として、相棒として共に行動している傭兵の精神の中にだけ存在しています。
そしてその「存在しない主人公」の見聞きした語りで、物語が進んでいくのです。
この設定は、他では見たことも聞いたこともありませんでした。
だからわたしは思わずこの作品に魅入ってしまったのです。
多重世界ほど難解ではなく、同世界の現実と夢とを行き来しつつ、語られる大きな謎の物語。
わたしは購入後、夢中になって、そう、寝食を忘れるほどに没頭して一気に読みました。
物語の最後まで辿り着いた時、わたしの意識は完全に、物語の中に入り込んでいました。
そして衝撃的なエンディングの時から、一年後の世界を描かれた外伝。
このお話は本編の重厚さと違い、終始朗らかな雰囲気で進みます。
いくつか、少し重いエピソードはあるけれど……。
全く違うとは言い切れないですが、印象の明らかに違う本編と外伝には、やはりシリーズの一本筋通ったところが確かに存在します。
登場人物の生き様を、選んだ人生を、謎と事件を想像し、読み進めながら追う過程も楽しかったのです。
皆さんもぜひ、わたしの抱いた感動と興奮を、「砂の棺」の中の世界で一緒に味わいましょう!
ここだけの話ですが、この作品がきっかけで、わたしは素敵な彼とお付き合いする事になったんですよ。うふふ。