「息の根」

大峰さんにもわからない。

自由登校になった二月。学校に来たものの生理痛がひどくて保健室に行った。薬が効いてくるまで休んでなさいって先生に言われた窓際のソファには、先客がいた。隣のクラスの大峰さん。三年間話したことはなかった。大峰さんはローテブルを挟んで向かいのソファに座った私をちらっと見て、会釈して、また視線を戻した。何か読んでいるみたいだった。

しばらくはお腹を押さえてうなっていた私。大峰さんは一度「大丈夫?」と聞いてくれた。

薬が効いて話ができるようになってから、私は聞いてみた。

「何読んでるの?」

「えっと……これ」

説明しにくかったのか面倒だったのか、大峰さんは本を差し出した。A5サイズの冊子だった。オレンジ色の表紙にローマ字のロゴ。

「い、き、の……ね?」

「息の根」

どういう意味?

首を傾げながら、本を開くとまず飛び込んできた文章は『どうしてこうなったのか、私にもわかりません』。

「作者がわからないって、何それー」

「だよね」

思わずけなすようなことを言ってしまったけれど、大峰さんは気を悪くした様子もなく苦笑した。

パラパラとめくって、最後のページ。短い詩のようなものが書かれていた。短かったから声に出して読んでみる。


普段の階段

身体は、朝に上って夜には下る。

心は、朝に昇って夜には沈む。

歪な私は、朝に登れず夜には落ちる。


「うーん、わかるようなわからないような……? どういうこと? 深読みしないとダメなの?」

「深読みするかしないかは読む人の自由でいいんじゃないかな。とっても大切な意味があるような気もするし、単なる言葉遊びってだけかもしれないし」

「難しいんだけど」

「ううん。単語や表現自体は全然難しくないんだよ。ただ組み合わせが変っていうか、文章全体で見ると意味不明っていうか」

「意味不明って!」

「いい意味で!」

大峰さんは慌てて付け足した。

私は冊子を返す。

「ま、作者だってわかんないって言ってんだから仕方ないよね」

「うん」

大峰さんは笑った。

「それ、どこで売ってんの? 本屋じゃないよね」

「ネットで買ったの」

「へー」

私は相槌を打ちながら、ドーナツ食べに行こうと誘うタイミングを計っていた。

レビュアー
大峰 さん

「息の根」(葉原あきよ)

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