仕事が終わって帰宅すると本が床に転がっていた。鍵は間違いなく締まっていたので、見覚えがないとなると友人が置いていったのかもしれない。家事や持ち帰り仕事をする気になれず、現実逃避にページを開いた。
この本は五人のインタビューで構成されているが、全員が一般的な人間ではない。どうやら本の中の世界ではテクノロジーが過剰に発達した結果バブルが起き、崩壊していく文明の中で科学技術は忌避され、その恩恵を受けた者は迫害されているようだ。臓器移植を受けた少年、薬物強化者の青年、人工授精による双子、養育用に作られたアンドロイド、そして科学技術を有する研究者。それぞれが語る内容にはそれぞれの苦痛が表現されているのだが、やはり通常の人間ではないからか、どこか他人事のように淡々と語られていることが多い。
そもそも何故この五人のインタビューが記録されているのかというと、五人の中心人物である研究者をある協会が追っているからだ。そして協会は研究者を手に入れるために、エージェントを派遣する。果たしてエージェントは任務を果たすことができるのか、というのもこの本の見どころと言えるだろう。
ちなみにこの話を友人に話したら、一瞬目を細めた後に「その協会のエージェントがその本を置いていったのかもね」と笑っていた。お前がそのエージェントじゃないのかと言ってやりたかったが、そんな雰囲気でもなかったのでアルコールと共に流し込むことにした。