俺だ。サバンナの男だ。
レビューとかいう軟弱なものは普段読まない俺だが、今回だけは語らせてもらう。すなわち、サバンナはこの本に屈したということだ。
サバンナは過酷な地だ。ここ最近は群生するきりんまるが暴れまわっている。
きりんまるに打ち勝つには、奴の首をへし折るしかない。そのためには何が必要か。そう、酒呑童子だ。
どういうわけか奴は酒呑童子を溺愛している。正確には奴の推し?である「シュテンちゃん」というものを愛しているらしい。
強大な存在に打ち勝つには、奴の弱点を探るのが一番だ。
俺はシュテンちゃんの情報を集めまわり、この本にたどり着いた。
「いく野の露になほしをるらむ」
軟弱な響きだ。最初はそう思った俺だったが、中身を見てその考えは改められた。
これはシュテンちゃんと犬村辰敏という男のカップリング?アンソロジー?らしい。ほう。まずは読んでみるか。
どうやらシュテンちゃんというのは年を取らない妖艶な美少女で、犬村はそんなシュテンちゃんに幼いころ恋をした男らしい。年月が経ち、いつのまにか男はシュテンちゃんよりも成長してしまい、そのつむじを見下ろしてしまうようになった。
年の差、種族差恋愛というやつだな。サバンナに住む俺でも分かる。
内容としては短編集のようだ。シュテ犬が出会う話から、シュテ犬が死別する話まで、穴を埋めるように無数の短編が配置されている。
くそ、読めば読むほど味が出るぞ。なんて本だ。
出会い、デートをして、お酒を飲んで、子供ができて──これはもう人生ではないか!シュテ犬は人生!
だがこの本。誰も知らないカップリングの本だといって、270ページを超えているというのに、値段は500円らしい。馬鹿め!そこまでしてできるだけたくさんの人に布教したいらしい。馬鹿め!
だがこれはいいものだ……俺は軟弱ものに札束を叩きつけた。
読了後、俺は最後に著者名を確認した。アンソロなのに七割以上が作者本人の作だった。なんで?