はむし'を漢字で書くと'葉虫'となり文字通り葉に着く虫を現しますがここで扱う葉虫はもっぱらコガネムシやカブトムシのように背中に堅い鞘をもつ甲虫の仲間で、普通はコガネムシなどよりはるかに小さい体型をしており、様々な植物の葉について葉を食料とする昆虫の仲間のことです。
葉を食べる虫にはモンシロチョウやアゲハ等蝶の青虫や、ヤママユやスズメガなど蛾の毛虫がありますが、彼らは幼虫の時期に葉を食べますが成虫になってから葉を食べることは有りません。ハムシはどの種も小さくてあまり目立ちませんが、数多く発生し幼虫の時期から生きた植物を食害し成虫になってからも植物を食べるので農作物の害虫として野菜や果樹を育てる者にとっては目の敵にされる存在です。
普段最もよく目にするウリハムシ。黄色いかわいい体に反して庭の野菜の大敵だ。6~7mmの体長で雄・雌ほぼ同じ様な形をしている。
5月連休も過ぎ、家のささやかな家庭菜園にもスイカやカボチャの苗が育ち始めると、必ずどこからともなく体調1cmに満たない黄色い虫がやってきて葉を食害し始めます。最初は数も少なくさほど気になりませんが何日か放置しておくと、同じ虫が何処からともなく集まってきて盛んに葉を食い荒らしひどい目に合います。
ウリハムシは家庭菜園に大抵姿を見せスイカ、キュウリ、カボチャなどウリ科植物を好み食い荒らす何とも厄介な虫。下はクロウリハムシでウリハムシ同様にウリ類を好む。共に成虫でコロニーをつくって越冬し春には活動し始める。どちらも幼虫は植物の根を食べるという。
ウリハムシが厄介なのは成虫で集団越冬するため春に活動しだすと、ちょうどその頃に植えたばかりの野菜の葉を食害し同時に野菜の根元に産卵。ふ化した幼虫は土中に潜って根を食べ、夏には成虫が大挙して発生してスイカやキュウリの葉を食べます。
夏に羽化した成虫は、冬を迎えると雨風をしのげる物陰や木の隙間などで越冬して春先に現れます。小さいからと見過ごしていると、どこからともなく多数の個体が集まって来て作物を台無しにされかねません。株が成長すれば葉数も遥かに多くなり根も丈夫になるので少々虫が付いたくらいではさほどの被害は有りませんが成長過程にある苗にとっては大敵となります。
上は瓜の葉を食べるクロウリハムシ。ウリハムシ同様食痕が丸い痕になって残る。
ウリハムシの近縁にクロウリハムシがおり、こちらもウリハムシ同様にウリ科の大敵です。数はウリハムシよりは少ないようですが、それでも油断していると多数の個体に葉を穴だらけにされます。ウリハムシやクロウリハムシの食痕は上の写真の様に丸く葉を食い荒らすのが特徴です。
上は枯れ松の樹皮下で越冬するクロウリハムシ。2011.02.22真冬の越冬コロニーの様子
ハムシの仲間は大変種類が多く、日本にも五百種以上生活しているそうですが、その殆どは森や草地で人の目に触れることなく私の散歩道周辺で見かけるものはせいぜい10種程度です。そんな中でもよく目につくのがクワハムシです。
体長は6mm程でウリハムシより僅かに小さいがカミキリムシのように長い触覚に金属光沢のある藍色をしているので割によく目立つ。
まだ年号が昭和の頃、自宅周辺には養蚕農家が沢山あり桑畑が方々に広がっていました。昭和の末には養蚕も廃れましたが桑畑の名残はまだ方々に見られ、道端にも桑が自生していたりしますから、名の通り桑を食草にするクワハムシが今もたくさん見つかります。
ウリハムシ同様、成虫で越冬し春先に活動し始めて交尾産卵し、夏には蛹を経て成虫となり越冬して翌年の春に活動する年1世代のライフサイクルを持ちます。
小さいが前胸部が赤いので割と目立つヤマイモハムシ。生活史はクワハムシ同様夏から秋に成虫が現れそのまま越冬、春に活動を初めて産卵し夏には蛹を経て次世代の成虫となる。
クワハムシに似た体型と生態を持つものに上写真のヤマイモハムシがいます。体長5~6mm頭と胸が赤い小さいハムシで、家では5~8月に山芋の葉でよく見かけます。
ハムシは種の多くが畑の野菜につかないこともあって、散歩の途中に目にする虫は、私にはテントウムシ同様に可愛い存在になっています。そんなハムシの代表種が下のイタドリハムシ。野草が一斉に成長し始める四月末から五月初めに姿を見せ始め、散歩道周辺のスイバやイタドリで頻繁に見かけるようになります。
スイバの花に付いたイタドリハムシ。スイバの花は好物らしく5月連休の時期にはこの花でよく見かけることが多い。
ウリハムシ等よりは一回り大きく10mm程。黒地に鮮やかな橙色の斑紋があり一目見たら忘れません。稀に斑紋が黄色い個体を見かけますが川原の周囲でお目にかかるのは美しい赤~橙色の個体ばかりです。
春先に見られるイタドリハムシは前年の秋に越冬した固体で、春に活動し始めると好物の葉に産卵し孵化した幼虫はイタドリやスイバを食べて成長、初夏には蛹になり秋には新しい成虫が発生して冬越しします。
ハムシの仲間もイタドリハムシ程の大きさと見栄えを持っておれば、もっと人目に止まり私が気づくことも多いと思いますが現状は小さい種が多くていても気づかず見逃すことが多いようです。そんななかで大きさはウリハムシよりも少し小さめですが赤地に黒班とイタドリハムシの配色を逆さにしたような見場の良いハムシがいます。
クロボシツツハムシ。5mm程の大きさだがつややかな赤色がよく目立つハムシで図鑑類にはクヌギなどの雑木林に多いとあるが、私は毎年野バラの葉で見かける。
もう少し大型で目につきやすいものにヨモギハムシがいます。こちらは体長8mm前後で光沢のある藍色若しくは褐色で春先に伸び始めたヨモギの新葉でよく見かけますが、菊の開花する晩秋頃にも菊の葉についているのを目にすることがあります。
春咲と晩秋に目立つことが多いヨモギハムシ。色は地味だが金属光沢があってハムシの中では割と大きいため良く目につく。
春先に多いヨモギハムシも年一世代ですが秋には産卵し越冬する卵と共に成虫も越冬します。卵は春先に孵化してヨモギ属の新葉を食べて成長し蛹は秋に羽化して成虫となります。春から夏にかけて見られる成虫はすべて越冬したものです。梅雨も終わった夏場にはあまり見かけることはなく秋の新成虫と入れ替わる様に夏場には命を終えます。
上写真のイモサルハムシはヨモギハムシによく似た大きさと色合いをしていますが体形はヨモギハムシより丸みを帯びています。サツマイモや朝顔を食害し、春先に現れた成虫が食草の根元に産卵し幼虫は夏には蛹となって秋には成虫となり成虫で越冬しますが、そのまま蛹で冬越しする個体もある様です。
どの昆虫でもそうですが、春から秋にかけて成虫が出現する同じ科や属の種であっても、そのライフサイクルは産卵時期が春のものも居れば秋のものも居り、成虫で越冬するものも、卵や蛹で越冬するものもいて結構違います。
体内に様々な器官が形成され複雑な構造の成虫に比べて、硬い卵殻で覆われ成虫より構造の単純な卵で越冬する方が冬の寒さに対して適応能力が高いと見られますが、それにも拘わらず成虫で冬越しする種が少なからず存在することは寒帯と熱帯に挟まれた温帯に生活環境を築いた昆虫の特徴なのでしょうか。
このような差は種が分化したのちの過程でそれぞれの種が置かれた気候、風土など生活環境の違いや食性の変化に伴って徐々に種固有の生態が形成されていったものですが、恐竜よりも遥かに長い昆虫の進化の歴史の中ではなにほどの差異でも無いのでしょう。
ハムシの中でも本来は熱帯で暮らしていたものが何らかの事情で国内に持ち込まれて急速に広まった例が近年にあるため載せておきます。上の写真のオオモモブトハムシは本来は東南アジア熱帯産の昆虫なのですが2009年に松坂港周辺で発生が確認されており、船の積み荷に紛れて国内に入り込み巧みに環境に適合して繁殖したものと見られます。
葛の葉に多い金属光沢の美しいフェモラータオオモモブトハムシ。私が気づいた2017年当時はオオモモブトハムシの名で紹介されていたが近年先の長い名前に変わった様子。科も当初のモモブトハムシ亜科からコガネハムシ亜科に変わっている。
松坂で定着が確認されたのは2009年ですが、津市芸濃町の私がこの虫に初めて気づいたのは2017.7.17で国内の定着確認から11年後です。私はこの年の7月末までに自宅周辺の散歩道で10個体を確認しており、すでに2017年には自宅周辺に定着して羽化繁殖していたと思われます。それ以前の年には全く確認しておらず、私の日常の昆虫観察眼を信じるなら、繁殖して急激に数を増やしたのは2017以降とみられます。
松坂港周辺から自宅近辺まで直線距離にして26km程ですから一年間で3~4km分布域を拡げて来た勘定になります。その翌年には関町(亀山市)にも何匹か個体を確認しましたから近いうちには県外迄広がるでしょう。
赤い体の表面は周辺の色彩を取り込んで反射するので時に美しい緑や黄色の金属光沢を帯びるが、熱帯の種のように青や黒、緑など多彩な色は持たず度の個体も赤いものばかりだ。
クリストファー マーレーの「世界一美しい昆虫図鑑」にはこの虫の多色性を利用した美しい標本のページがあります。世界の甲虫iにはこの虫に限らず同一種が様々の色彩を帯びるものが多数あり、いったい彼らは何のためにこれほど美しい色合いの変化を身に纏う様になったのかほんとに不思議なことです。
上はクリストファー マーレーの「世界一うつくしい昆虫図鑑」宝島社 171ページ フェモラータオオモモブトハムシ より