2025年4月,スウェーデンのストックホルム国際平和研究所 (SIPRI)は世界各国の軍事費に関する最新データを発表した.論文のタイトルは以下の通りである.
Trends in World Military Expenditure, 2024(世界の軍事支出の傾向、2024 年)
軍事費の年次変化(論文の図を引用)
去年の世界の軍事費の合計は,2兆4600億ドル,前年と比べ7.4%増えている.日本円でおよそ380兆円になった.10年連続の増加で,記録がある1988年以降,最高額を更新したという,
ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢が要因だと分析している.ロシアは前の年と比べ34%増え,推計1490億ドルとなった.2022年11位のウクライナは2023年には51%増えて8位に順位を上げ,2024年は3%増の647億ドル.パレスチナ自治区ガザへの侵攻を続けるイスラエルは65%増え,465億ドルとなった.
軍事費が最も多い国は1位がアメリカ,2位が中国で,ロシア,インドと続き,日本は前の年と比べ21%増の553億ドルで10位である.
「前例のない軍事費の増加は,世界の安全保障環境の悪化を反映している」と指摘している.
表1。2024年度軍事費が高い上位40カ国
軍事費の単位は10億ドル.米国の997は9970億ドルの意味.【】は推測値
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----順位---- 国 支出額
2024 2023
1 1 United States 997
2 2 China [314]
3 3 Russia [149]
4 7 Germany 88
5 4 India 86
Subtotal top 5 1635
6 6 United Kingdom 81.8
7 5 Saudi Arabia [80.3]
8 8 Ukraine 64.7
9 9 France 64.7
10 10 Japan 55.3
Subtotal top 10 1981
11 11 South Korea 47.6
12 14 Israel 46.5
13 16 Poland 38.0
14 12 Italy 38.0
15 13 Australia 33.8
Subtotal top 15 2185
16 15 Canada 29.3
17 19 Türkiye 25.0
18 17 Spain 24.6
19 21 Netherlands 23.2
20 20 Algeria 21.8
21 18 Brazil 20.9
22 24 Mexico 16.7
23 22 Taiwan 16.5
24 26 Colombia 15.1
25 23 Singapore 15.1
26 28 Sweden 12.0
27 25 Indonesia 11.0
28 27 Norway 10.4
29 29 Pakistan 10.2
30 30 Denmark 10.0
31 39 Romania 8.7
32 32 Belgium 8.6
33 34 Greece 8.0
34 33 Iran 7.9
35 31 Kuwait 7.8
36 36 Finland 7.0
37 35 Switzerland 6.7
38 44 Czechia 6.5
39 40 Iraq 6.2
40 43 Philippines 6.1
Subtotal top 40 2 521
World 2 718
米国の占める割合は濃緑色部分(論文の図を引用)
世界の軍事支出は10年連続で増加(論文冒頭の和訳)
世界の軍事費は2024年に2,7180億ドルに増加した。これは、支出が丸10年間毎年増加し、2015年から2024年の間に37%増加していることを意味する(図1を参照)。2024年の9.4%の増加は、少なくとも1988年以来の最大の前年比増加率である。世界の軍事負担、つまり世界の国内総生産(GDP)に占める軍事費の割合は、2024年には2.5%に増加した。政府支出に占める平均軍事費は2024年に7.1%に上昇し、一人当たりの世界軍事費は1990年以来最高の334ドルとなった。
2年連続で世界の5つの地理的地域すべてで軍事費が増加しており、これは世界中で高まる地政学的緊張を反映している。世界の軍事支出が10年にわたって増加した一因は、主に進行中のロシア・ウクライナ戦争を背景とした欧州における支出増加と、ガザ紛争をはじめとする広範な地域紛争を背景とした中東における支出増加です。多くの国が軍事費の増額を表明しており、今後数年間で世界的な軍事支出のさらなる増加につながると予想されます。
論文には地域ごとの考察結果なども記されている.それにしても我が国がいつのまにか上位十位にランクされているとは認識不足だであった.各種の統計で,先進国なのにビリの方に位置していることが多いのに軍事費は別格らしい.政府が進めている国防費増強計画が実現すると,世界3位の水準になるとのことである.何となく歴史が繰り返す方向へ動いている感じがするのは私だけだろうか.
昨年4月23日の朝日新聞朝刊の天声人語に,哲学者カントは,「戦争はあたかも人間の本姓に接ぎ木されたかのようである」,放っておけば必ず戦争になる.だから止める手立てをと説いたと書かれていた.
今夏,戦後80年を迎える.私は,終戦の時6歳であったが,出征して行く兵士の行進,民家分宿,鉄回収, 天井板の強制撤去,防空壕掘り,消火訓練等をはっきりと記憶している.戦中,戦後に経験したことを次世代の人達には経験して欲しくない.自由に情報が入手できる時代は何時まで続くか分からない.平和の間に,他人の戦争体験を自分のこととして,世の中の動きに敏感になることを期待したい.
憲法記念日に寄せて
第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 ② 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。 国の交戦権は、これを認めない。
参考資料
Trends in World Military Expenditure, 2024(世界の軍事支出の傾向、2024 年)
Xiao Liang, Dr Nan Tian, Dr Diego Lopes da Silva, Lorenzo Scarazzato, Zubaida A. Karim and Jade Guiberteau Ricard
April 2025
Stockholm
SIPRI
(2025.5.3)