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5月1日,朝のNHKローカルニュースのトップは,水俣病犠牲者慰霊式に関する話題であった.
水俣病が公式に確認されてから,5月1日で57年となり,水俣市で午後、水俣病の犠牲者を追悼する慰霊式が行われるという内容だったが,最近の最高裁判決との関連でニュース性が高まった感があった.
そのニュースを聞きながら,50年前(昭和37年,1962),大学3年生の時に,新日本窒素肥料株式会社へ工場見学に行った時のことを思い出した.
大学に入学した昭和34(1959)年は,水俣病略年表(水俣病センター相思社) において,もっとも記載項目の多い年である.7月には,熊大研究班が「有機水銀説」を公式発表したが,工場側は直ちに有機水銀説を否定する一方,排水処理施設の整備を進めていた.同年12月には排水浄化装置「サイクレーター」が完成し,工場排水による汚染の問題はなくなったと宣伝していた.同じ時期,日本化学工業協会の理事は有機水銀説を否定し「爆薬説」を発表した.さらに,中央の「御用学者」が「有毒アミン説」,「腐敗アミン説」等を発表するに及んで,大学の(先入観的)格差の下で,学者,評論家,マスコミの態度も揺れ動き,社会は混乱した,
しかし,この間,有機水銀説を裏付ける研究は着実に進展していた.昭和37年には,その成果が入鹿山且朗熊大教授により論文発表された(「チッソ水俣工場のアセトアルデヒド工程の反応管から採取した水銀スラッジから塩化メチル水銀を抽出」).
注)メチル水銀の毒性については,1997年にダートマス大学で起こった Karen Wetterhahn教授の事故を紹介した記事に詳しく書かれている.彼女は,実験中ラテックスの手袋を付けていたにも関わらず,手袋に数滴付着しただけで,数ヵ月後に死亡した.事故の詳細
工場見学に行ったのは丁度その時期であった.化学実験室で見慣れているガラス製の反応容器や蒸留装置からは想像できない巨大な反応装置や電解槽などの施設を一通り見学した後,「サイクレーター」へ案内された.そこで,工場長?は我々の目の前で処理された排水(?)をコップに汲んで飲んでみせた(処理装置完成時,社長も同じパフォーマンスを県知事の前でやっていた).お決まりのコースを見学,説明を聞いた後,湯の児温泉へ案内されたが,その計らいの経緯は分からない.
工場見学後,水俣市出身の友人の招きで,仲間数人と彼の実家に立寄ってお寿司をご馳走になり,帰路についた.列車の中で,友人のひとりが「寿司の“ねた”は大丈夫だろうか」と先刻から思っていたことを切り出した.「太刀魚は一夜で不知火海を渡るらしい」,「広く流通しているから既に食っているよ」という話まで出た.50年前の事であるが,現在は,汚染地区は当初のように限定的なものではなく不知火海沿岸一帯が健康調査対象になっている.
熊本に住んでいると,水俣病関連のニュースが多いこともあり,ー連の学者の人間模様や工場見学の日の出来事は,忘れることはない.大震災以後は,水俣病問題を福島原発事故とオーバーラップする形で考えることが多くなった(学者の在り様も含めて).
原発事故では,放射能汚染地区の機械的線引きはまったく意味を持たないことが証明された.水銀汚染魚の分布も同じと考えるべきである.
水俣出身の友人は卒業後,県職員になり熊本県衛生研究所,熊本県保健環境科学研究所などで活躍し,定年退職後も薬剤師として頑張っている.
2013年5月1日の報道内容
1)水俣病は,昭和31年5月1日に原因企業であるチッソ(旧新日本窒素肥料株式会社)の付属病院の医師が症状のある人の入院を保健所に届け出た日が公式確認の日とされている.
2)公式確認から57年となる5月1日水俣市などが主催する水俣病犠牲者慰霊式には,患者や遺族,それに石原環境大臣など約800人が出席する予定.
3)水俣病の認定患者は,これまでに熊本県と鹿児島県で2274人いるが,約80%の人がすでに亡くなっている.
4)水俣病の最終解決策と国が位置づけた「未認定患者の救済策」には,およそ6万5000人が申請している.
5)今年4月16日,水俣病の認定をめぐる裁判で,最高裁がこれまでの行政の認定審査よりも認定の幅を広げる判断をしたため,救済策に申請した人の中にも,水俣病と認定されるべき人がいる可能性あり,問題が解決したとは言えない状況が続いている.
夕刻の民放を含めた報道番組では,「水俣病犠牲者慰霊式」は5月1日午後1時半から水俣湾そばの公園「エコパーク水俣」で行われたが,石原大臣と直接謝罪を求める患者との接触はなかったことが報道されていた.
参考資料
1)当時,新日本窒素肥料株式会社については,阿蘇観光の途中で知ったという人が多かった.立野の手前,右側谷向こうに白川水力発電所がある.大正3年から発電を開始し,現役である.九州電力黒川第二発電所は反対側に位置している.
2)「サイクレーター」は水の汚濁を低下させるだけで,排水に溶けているメチル水銀の除去には効果がないことが明らかにされた.チッソサイクレーター(くまにち画像データベース)
3)異説についてのWikipediaの説明
清浦雷作・東京工業大学教授はわずか5日の調査で「有毒アミン説」を提唱し、戸木田菊次・東邦大学教授は現地調査も実施せず「腐敗アミン説」を発表するなど、非水銀説を唱える学者評論家も出現し(御用学者)、マスコミや世論も混乱させられた。
(2013.5.9)