(小学校,プログラミング教育,必修化,論理的思考)
熊本地震で慌てふためき,世の中の動きに目を配る余裕を失っていた4月20日, 私にとっては, 重要なニュースが報じられていた.それは「小学校におけるプログラミング教育必修化」である.朝日新聞DIGITALの記事を以下に示した.
小学校でのプログラミング教育必修化を検討 文科省 朝日新聞 DIGITAL 2016年4月20日09時16分
文部科学省は19日、小学校でのプログラミング教育の必修化を検討すると発表した。2020年度からの新学習指導要領に教える内容を盛り込む方向で議論する。技術の進化が飛躍的に進む中、コンピューターを制御する能力の育成が重要と判断した。
5月にも有識者会議を開く。プログラミングの新教科をつくるのではなく、理科や算数といった今ある教科の中に盛り込むことを話し合う見込みだ。現在の小学校では、課外活動として、パソコン画面上のキャラクターを動かすといったプログラミング体験はあるが、授業で教科として教えていない。
文科省は、中学、高校でも拡充を検討する。中学では「技術・家庭」でプログラミングについて教えているが、アニメーションづくりなど新しい内容を追加したい考え。高校では、現在は選択科目の中に含まれているため、学んでいる生徒は全体の2割だという。新学習指導要領では必修科目の学習項目に入れる方針だ。
小中高校でのプログラミング教育の必修化は、19日の政府の産業競争力会議で示された新成長戦略に盛り込まれた。(高浜行人)
長年,情報処理教育に携わり,現在主流となっている「アプリケーション利用教育」に疑問を感じ,坂村 健教授の提言などを紹介してきたが,「ようやく」の感が強い.プログラミング教育先進国の成功や社会のIT化とそれに伴う技術者不足にようやく気付き,新成長戦略と関連付けする形で小学校義務化に踏み切ったと見なすことができる.
小学校義務化に対する一般人の反応は,賛成が多いが,以下の様な反対意見も存在する.
・プログラミング教育の前に教えるべきことがある.
・将来IT技術者になるわけではないので必要がない.
・教員のITスキルの問題.
これらの意見は,新しいことを実施しようとする際に,常に遭遇する問題点である.以前,大学での情報教育の導入に携わった時も同じであった.もっと低次元な反対意見が教授会で議論された.もっとも重要な問題は,「教員のスキル」であることは明白である.民間活力を利用すべきとの提案がなされているが,学習熟が増えることは容易に想像できる.
義務教育で必修化しても高校の受験教育でリセットされるという人もいるが,「自転車の乗り方」と同じで若い時に習得した思考法のノウハウは消えることはないだろう.そのような子供たちが大学進学する頃までに大学の情報教育が進化できているかが問題である.
薬学教育においても,プログラミング過程での論理的思考力,問題解決能力の醸成効果を無視し,「もはやプログラミングする時代ではない」という一見正当 と思えるプログラミング非経験者の意見が先行し,ワープロ,表計算,プレゼンテーションを教えておけば充分という雰囲気に押されてプログラミング教育を実施し ていないところが多い.大学教育としての情報処理教育の在り方について早めの検討が必要であることは言うまでもない.その際,プログラミング教育経験者の意見が十分に反映されないと,これまでと同じ轍を踏む可能性が高い.
参考資料
・「プログラミング教育」(2015.3.7)
・文科省有識者会議に関する報道
小学校のプログラミング教育必修化 IT技術でなく論理的思考力が大事 文科省有識者会議 産経ニュース 2016.6.3 19:58
政府の新成長戦略に必修化が盛り込まれた小学校のプログラミング教育について、文部科学省の有識者会議は3日、コンピューターのプログラム作成技術ではなく論理的思考力などの育成が目的とする報告を大筋了承した。平成32年度から実施される次期学習指導要領で義務付けるため、中央教育審議会で議論さ れる。
報告では、「プログラミング的思考」を、自分の意図を実現するための手順を論理的に考える力と定義。職業に関係なく必要として、各 教科の中でコンピューターに指示することを体験させながら育成する。実施する学年や教科などは各小学校で決める。プログラム作成の作業を覚えることだとの 誤解があると指摘。理科の実験・観察や算数の筆算を重視し、「生物を模したコンピューター上のモデルやロボットの動きを見る」では生物学習に代替できない など注意も促した。
国が教育のICT(情報通信技術)化を推進する中、プログラミング教育は民間が先行。シーエーテックキッズ(東京)が 毎夏実施する体験講座では昨年、3年前の10倍の約1千人が参加した。同社が重視するのはITと社会との結びつきだ。上野朝大(ともひろ)社長は「コン ピューターが論理に沿って命令しないと動かないことを知り、やりたいことをITで実現できると理解することが大事だ」と話す。
必修化するには指導態勢の課題もある。特に学級担任が全教科を担当する小学校では、専門知識を持つ教員が少ないのが実情だ。
坂村健・東京大教授は「IT革命後、社会の仕組みが転換し、教育体系が従来のままというわけにはいかない。コンピューターの世界は目まぐるしく進化しており、自治体や学校で前倒ししてほしい。教員だけでなく外部人材を活用すべきだ」と話している。