日本薬学会の欧文誌 Chem. Pharm. Bull.の電子版最新号を見ていたら,どこかで見たような気になる論文があった.
以前,論文で扱っている化合物と同じ化合物について構造活性発現機構について考察した論文がアメリカ化学会のJ. Org. Chem.に掲載されていたので,目に留まったわけである.ところが,Chem. Pharm. Bull.の論文では,まったく触れておらず引用すらされていない.引用論文を見ると,他の研究者の論文は1報もなく自分たちの論文だけである.査読の 際,その領域に通じた審査員ではなかったのであろう.それにしても投稿者のみならず審査員にも問題がありそうである.
今回の著者等が記載している研究内容(キーワード等)で化学系データベースを検索したら,一発で関連研究がリストアップされる時代である.今回は,自宅 からGoogleで検索してみたが,関連論文のJ. Org. Chem.や Tetrahedron のAbstract(図入り)が見つかった.
以前,Diels-Alder付加体がclathrate(結晶包接体)形成能を有することをTetrahedron Lettersに速報として最初に投稿した際,レフェリーから関連研究の引用論文の不備を指摘されたことがある.新規性の裏付けとして,総説等の引用が必 要であるということであった.このような指摘が可能なのは,Tetrahedron Letters等は学会誌とは異なるため学部の垣根を越えた広領域の専門家が審査員として確保できているためである.
このようなことでは Chem. Pharm. Bull.の質的向上は期待できそうにない.外国の大学図書館ではますます読まれなくなってしまうだろう.
[一言] 投稿者は新規性を前面に打ち出して投稿するわけであるから,その妥当性を判断するのがレフェリーや編集員の役割と思うが,データベースで調べることもせず 手を抜いているようである.ある編集員によると,最近は明らかに英文チェックを受けていないと考えられる論文もあるとのことである.
(平成22年6月26日)