スマホでNMR解析(ChemDoodle)

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化学式描画ソフトとしては,CambridgeSoftが開発したChemDrawが有名である.ChemDrawが登場する前は,投稿論文やスライドの図はテンプレートを使ってロットリングペンで描いたものである.それがマウスを装備したパソコンで描けるようになったのは1980年代後半になってからである.当然のことながら,それまでの文字を印字する目的のドットプリンタに代わって,レーザープリンタの開発が複雑な化学構造の印刷を可能にした.

化学系研究室では,ゼミ,卒論,修論の作成等で使用するため,卒業する頃にはワープロを含めた電子編集のベテランになる.最近は,大学自体がライセンス契約を結んで低学年から利用できるようにしている大学が増えてきた.

このソフトは,一般の人が購入するとなると標準版でも12万円程度の出費が必要である.化学構造式を描くだけではなく,構造式からいろいろな物理化学的な情報を得ることができるPro版やBio版になると30万円以上の価格が付いている.ChemDrawに代わる安価なソフトとして,ChemDoodleというソフトがある.Linux版も開発されているというので試用版をダウンロードして使ってみた.

下図はIntel Mac, OS10.6およびLinux Ubuntu上での実行画面である.StyreneとcyclopentadienoneのDiels-Alder環化付加反応を描いてみた.付加体の構造はめちゃくちゃであるが,2d構造最適化をクリックすると,きれいな付加体に修正してくれる.実験装置も反応容器,還流冷却器を合体させて描くことができる.構造式から化合物名への変換も問題ない.作図したデータをワープロにペーストしてもずれたりはしない.パソコンで使用した感じでは,化学構造式の描画に関する限りChemDrawの代替アプリとして利用できる.

Ubuntuの画面(アプリ指定のOracleのJavaがインストールされている必要がある)

低価格な類似アプリにはないと言われているNMRおよびCMRスペクトル予測を行ってみた.比較のため,ChemBioDrawの予測結果を参考資料にに示した.スペクトルの予測値は統計的なものであるので,以前紹介した非経験的分子軌道計算による予測値とは根本的に異なる.スペクトルパターンの概略を知るには便利なツールである.

本ソフトはスマホやタブレットでも使えるらしい. ホームページには,"Chemistry in your Pocket"と書かれている.価格も低価格の7553円である.便利になるのはよいが,こんなことまでスマホでやれると宣伝するのは行き過ぎではないだろうか.学生の有機合成化学実習レポート等の手抜きのために使用される可能性大である.「次の化合物のパターンを予測せよ」などの課題は出せない.実測値と予測値を比較させ,この種の予測の限界を知る目的に利用させるのなら面白いかもしれない.化学論文は,元素分析,質量分析,赤外線吸収,核磁気共鳴の測定値はすべて実験者の申告を信用することが前提である.この種のアプリが,最近問題になっている論文の捏ち上げに使用されないことを祈りたい.

ChemDrawの予測図(一部を表示)

(1S,4S,5S)-5-phenylbicyclo[2.2.1]hept-2-en-7-one

(2014.5.17)

追記

化学系の研究室で卒論研究の指導を受けた学生は,オンラインによる文献検索,ゼミの資料作成,卒論執筆を通して情報処理技術を実践的に自然に身につける.最近は,低学年でWord, Excel, Powerpointを教えることが情報教育となっているが,理系に関しては,その必要はないと思う.教えるとしたら,基礎知識,ネチケット,セキュリティ等の事柄ではないだろうか.