教員選考に関連して, 私が推薦する人の競争相手は周辺の大学に居ないのか問い合わせがあった. 有機化学と情報処理学を教えることのできる薬剤師教員がいれば, 狭い薬学界のこと,常日頃知れ渡っているはずである. なぜこのような問い合わせがあるのか疑問に思った.
ところで, コンピュータが世の中に登場した頃は, コンピュータは計算機専門家しか理解できないものであった. コンピュータを使用するためには, それを設置している場所(計算機センター)に出向く必要があり, コンピュータを維持するために数十人の職員が雇用されていた.
ところが, パーソナルコンピュータが登場すると, 「出向く」方式の計算は少なくなり, さらにネットワークが敷設されるとセンターへ出向くことはなくなっ てしまった. さらに, 大型コンピュータは, ユーザの仕事を小刻みに同時進行で処理する方式から, 専用のコンピュータで処理する方式に変化した. そのため, 最近は「専用サーバ」と呼ばれるパーソナルコンピュータが利用される. たとえば, メールの配信はメールサーバ, ホームページはホームページサーバが担当する.
このような方式になると, 数多くのサーバを保守するために, 専門家を雇うわけにはいかず外注ということになる. ところが, 在って当たり前の世界, 緊急を要することが多く,近くにいるパーソナルコンピュータの取り扱いに詳しい人間が管理することになってしまう.
ほとんどの大学ではLANが敷設されているが, 分離キャンパスに位置する学部,学科は, ネットワークやコンピュータの保守に一段と苦労するものである. 私の研究室は研究上,コンピュータを利用するため学部LANの保守を担当するのが当たり前ということになってしまった. 正常に稼働しないと自分たちも困る ので迅速に対応, 修理する努力が身に付き, センター職員と同程度の知識が付いてしまった. そうなると有難味も感じてもらえなくなるものである. そのこと は, 教員の評価においても同じであり, 有機化学+情報処理学の能力が有機化学だけで評価されてしまう傾向が見受けられる. 情報処理学に詳しいと有機化学上 の問題解決に役に立つし, 発想の転換をもたらすことが多い. 1+1が2ではなく, 3,4になってしまう典型的な例かもしれない.
教員選考委員は, 情報処理学の神髄を知り, 各専門領域の原点にもどり, 情報処理学を絡めながら多角的に評価してほしいものである.