第99回薬剤師国試結果に関する国会質問

第100回薬剤師国家試験の結果は,前回より少し上回ったものの,63.17%にとどまった.

昨年,第99回の低合格率(60.84%)をうけて,合格発表直後に質問が行われている.その内容が衆議院のホームページに公開されている.

注)質問主意書は,国会法第74条の規定に基づき,国会議員が内閣に対し質問する際の文書.国会開会中に提出することができる.

議長に提出され承認を受けた質問主意書は内閣に送られ,内閣は7日以内に文書(答弁書)によって答弁する.

質問内容,答弁内容は,国会議員に配布される.

質問本文情報と答弁本文情報は別々に公開されているが,分かりにくいので質問・答弁の内容を対応させてみた(青字が政府答弁部分).

◯ 薬剤師の安定供給体制の改善についての見解?

◯ 国家試験を春・秋にしたら如何?

◯ 不合格者のため,採用見送りになった者を救済すべきでは?

◯ 日本薬学会に代わり,日本薬剤師会が中心になり教育すべきでは?

◯「薬学教育モデル・コアカリキュラム」を「薬剤師養成教育モデル・コアカリキュラム」にすべきでは?

◯ 文部科学省と厚生労働省との間で意思疎通が計られているのか?

野党としての質問には,「救済策」を持ち出すなど人気取り的な部分もあるが,実態を指摘している部分もある.

質問7に関連して,国は「修業年限が六年の薬学部は、必ずしも薬剤師の業務に携わる者のみを養成するものではない」と答弁している.

しかし,現実はかなり異なるといっても過言ではない.薬学教育評価機構によって公表されている6年制薬学教育の評価結果(現在までに13大学)に,その実態が現れている.評価結果については別稿をもって紹介したい.

質問本文情報

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平成二十六年三月三十一日提出

質問第九九号

第九十九回薬剤師国家試験の結果にみる薬剤師養成教育の在り方に関する質問主意書

提出者 柚木道義

第九十九回薬剤師国家試験の結果にみる薬剤師養成教育の在り方に関する質問主意書

平成二十六年三月三十一日に発表された第九十九回薬剤師国家試験の結果によれば、受験者の総合合格率は六〇・八四%、新卒受験者の合格率は七〇・四九%であったと聞く。この数値は春に実施される薬剤師国家試験(新卒受験者がなかった年を除く)としては極めて悪い数字であると認識するところである。国家試験の合格率に一喜一憂することは必ずしも医療の質を担保することにつながるとはいえず厳に慎むべきことであるが、今般の試験結果は、薬剤師養成教育の質について疑問を呈するに十分な結果であり、断腸の思いで質問主意書を提出するものである。今般の薬剤師国家試験の結果並びに薬剤師養成教育の在り方につき以下の通り政府の見解を求める。

一 今般の例年と比べて悪い結果となった薬剤師国家試験の原因について分析し、薬剤師が安定的に供給できるような体制を構築するように改善していく考えがあるのかどうか政府の見解如何。

一について

第九十九回薬剤師国家試験の合格率が低下した原因については、受験者数に占める平成二十三年度と平成 二十四年度の過去二回の試験で不合格だった既卒者の 割合が増えたこと等が考えられるが、この結果のみをもって直ちに薬剤師の需給に大きな問題が生じるものではないと考えている。御指摘の「薬剤師が安定的に 供給できるような体制」の意味するところが必ずしも明らかではないが、文部科学省においては、社団法人日本薬学会(当時)が平成十四年八月に作成した「薬 学教育モデル・コアカリキュラム」及び同省が平成十五年十二月に作成した「実務実習モデル・コアカリキュラム」等を基にして、平成二十五年十二月に、修業年限が六年の薬学部におけるカリキュラム作成の参考となる教育内容のガイドラインとして、新たな「薬学教育モデル・コアカリキュラム」(以下「新カリキュ ラム」という。)を作成したところであり、まずは、各大学における新カリキュラムを踏まえた教育の実施について、支援してまいりたい。

二 今般のように新卒者の合格率が低い場合には、薬剤師免許を行使するという前提で新卒薬剤師の採用計画をしていた病院等医療機関並びに薬局等医療提供施設においては、人事計画に狂いが生じることになりかねない。こうした状況を少しでも改善するために、現在、一年に一度しか実施されていない薬剤師国家試験を昭和六十二年以前のように春・秋の二回実施に戻すことを検討するのも必要ではないかと考える。東京大学などでも九月入学を検討していると聞く昨今の事情を鑑みるに、春・秋の年二回実施を真剣に検討することは時代の趨勢とは反しないものと考えるが、政府の見解如何。

二について

薬剤師国家試験については、昭和六十一年までは毎年春と秋の二回実施していたが、春の国家試験と秋の 国家試験の受験者数に大幅な隔たりがあること、秋の 国家試験は春の国家試験の不合格者に対する救済の意味合いが強いこと、医師国家試験及び歯科医師国家試験が毎年一回の実施へと変更されたこと、試験問題の改善を図るためには試験問題に関する調査、検討及び改正のための準備作業が必要であること等の理由から、昭和六十二年から秋の国家試験を取りやめたところであり、現在も同様の考え方であるため、現時点で御指摘のような検討を行う考えはない。

三 併せて、国家試験に合格できなかったことを理由に採用が見送りとなることも考えられるが、新卒者の雇用の安定という考えから政府として何らかの措置を検討するのか政府の見解如何。

三について

政府としては、御指摘のような検討を行う考えはない。

四 薬剤師養成教育については、日本薬学会が検討した薬学教育モデル・コアカリキュラムを基に各大学が教育を実施しているものと理解するものである。しか し、今般の薬剤師国家試験の結果を鑑みるに、薬学部入学者が六年の歳月をかけて薬剤師養成教育を享受した結果として十分な成果をあげられない事実が考察される。少なくとも臨床現場の求める最低限のニーズである薬剤師国家試験に合格できる卒業生を養成できるように配慮された教育プログラムでなければ、六年もの長期間にわたって授業料を支払う学生の期待に応えたとはいえない。今般の厳しい結果を受けて、薬剤師養成教育の中身について再度検討するべきではないかと考えるところであるが政府の見解如何。

四について

政府としては、第九十九回薬剤師国家試験の結果のみをもって直ちに御指摘の「薬剤師養成教育」の内容の適否を判断できるものではないと考えている。な お、文部科学省においては、薬剤師業務の変化や学術の進歩に対応する等の観点を踏まえ、平成二十五年十二月に新カリキュラムを作成したところであり、平成 二十七年度以降、各大学において新カリキュラムを踏まえた教育が実施されることになるものと考えている。

五 また、薬剤師養成教育を所管する文部科学省と薬剤師の需給と職能の質を所管する厚生労働省との間で意思疎通ははかられているのかどうかについて確認をしたい。薬剤師養成教育の中身の検討において、文部科学省は、厚生労働省や病院並びに調剤薬局等現場の意見を踏まえているのか。また、踏まえているのであれば、具体的にどのように配慮がされたのかをお示し願いたい。

六 薬剤師養成教育については、薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂に関する専門研究会で検討していると理解するところである。しかし、同専門研究会の委員を見る限りにおいて、少なくとも調剤薬局での勤務経験のあるものは極めて限定的であり、また、ドラッグストアなど調剤を伴わない医薬品販売業での経験を有する者については皆無であるとみられる。薬剤師養成教育とは、職業としての薬剤師を養成する目的で教育が提供されるものであり、原理原則を貫くのであれば、職能団体である日本薬剤師会を中心にして検討を進めるべきと考える。しかしながら、現状は、学術団体である日本薬学会を中心にした議論が進められていると聞く。学術的な要素が必要なのは理解するところであるが、薬剤師養成教育の目的は、調剤、医薬品の供給その他薬事衛生をつかさどることによって、公 衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するに足る「薬剤師」の安定的な供給であることを考慮するならば、薬剤師の現場を熟知した者こそが、薬剤師養成教育の中身の検討に携わるべきであると考えるが、政府の見解如何。

五及び六について

薬学系大学の人材養成の在り方を検討する文部科学省の薬学系人材養成の在り方に関する検討会及 び薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂に関する専門研究 委員会には、厚生労働省の職員がオブザーバーとして、現場の薬剤師業務の実態を熟知している公益社団法人日本薬剤師会及び一般社団法人日本病院薬剤師会の 役員が委員として参画しており、例えば、新カリキュラムの作成に当たっては、現場の薬剤師業務の実態を踏まえた検討が行われ、実務実習において在宅医療に関する薬剤師の業務を体験するなどの内容が加えられたところである。

七 文部科学省の薬剤師養成教育の検討委員会の名称であるが、「薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂に関する専門研究委員会」とされている。ところで、 薬学部における薬剤師養成教育課程を六年制に年限延長した折に、六年制課程とは別に、薬学研究者の養成課程である四年制課程を併存させ、薬学教育は、薬剤 師養成六年制課程と薬科学研究四年制課程の二つに整理された。文部科学省の専門研究会は、薬学教育モデル・コアカリキュラムという名称を用いながら、もっぱら薬剤師養成課程のみの検討を行っていることを鑑みれば、その名称に四年制課程も包含する「薬学教育」を用いるのはいささか配慮にかけると考えるものである。同専門研究会の特性を鑑み、「薬剤師養成教育モデル・コアカリキュラム」という名称を用いるのが妥当と考えるが政府の見解如何。

(右質問する。)

七について

修業年限が六年の薬学部は、必ずしも薬剤師の業務に携わる者のみを養成するものではないことから、新 カリキュラムについて、御指摘の「薬剤師養成教育モ デル・コアカリキュラム」という名称を用いることは適当ではないと考える。なお、新カリキュラムは修業年限が六年の薬学部についてのものであることについ て、大学関係者に周知してまいりたい。

引用元 http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a186099.htm

--------------------------------------- 質問本文にマージした答弁本文 --------------------------------------------------------------------------------------

答弁本文情報

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平成二十六年四月八日受領

答弁第九九号

内閣衆質一八六第九九号

平成二十六年四月八日

内閣総理大臣 安倍晋三

衆議院議長 伊吹文明 殿

衆議院議員柚木道義君提出第九十九回薬剤師国家試験の結果にみる薬剤師養成教育の在り方に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員柚木道義君提出第九十九回薬剤師国家試験の結果にみる薬剤師養成教育の在り方に関する質問に対する答弁書

一について

第九十九回薬剤師国家試験の合格率が低下した原因については、受験者数に占める平成二十三年度と平成二十四年度の過去二回の試験で不合格だった既卒者の 割合が増えたこと等が考えられるが、この結果のみをもって直ちに薬剤師の需給に大きな問題が生じるものではないと考えている。御指摘の「薬剤師が安定的に 供給できるような体制」の意味するところが必ずしも明らかではないが、文部科学省においては、社団法人日本薬学会(当時)が平成十四年八月に作成した「薬 学教育モデル・コアカリキュラム」及び同省が平成十五年十二月に作成した「実務実習モデル・コアカリキュラム」等を基にして、平成二十五年十二月に、修業 年限が六年の薬学部におけるカリキュラム作成の参考となる教育内容のガイドラインとして、新たな「薬学教育モデル・コアカリキュラム」(以下「新カリキュ ラム」という。)を作成したところであり、まずは、各大学における新カリキュラムを踏まえた教育の実施について、支援してまいりたい。

二について

薬剤師国家試験については、昭和六十一年までは毎年春と秋の二回実施していたが、春の国家試験と秋の国家試験の受験者数に大幅な隔たりがあること、秋の 国家試験は春の国家試験の不合格者に対する救済の意味合いが強いこと、医師国家試験及び歯科医師国家試験が毎年一回の実施へと変更されたこと、試験問題の 改善を図るためには試験問題に関する調査、検討及び改正のための準備作業が必要であること等の理由から、昭和六十二年から秋の国家試験を取りやめたところ であり、現在も同様の考え方であるため、現時点で御指摘のような検討を行う考えはない。

三について

政府としては、御指摘のような検討を行う考えはない。

四について

政府としては、第九十九回薬剤師国家試験の結果のみをもって直ちに御指摘の「薬剤師養成教育」の内容の適否を判断できるものではないと考えている。な お、文部科学省においては、薬剤師業務の変化や学術の進歩に対応する等の観点を踏まえ、平成二十五年十二月に新カリキュラムを作成したところであり、平成 二十七年度以降、各大学において新カリキュラムを踏まえた教育が実施されることになるものと考えている。

五及び六について

薬学系大学の人材養成の在り方を検討する文部科学省の薬学系人材養成の在り方に関する検討会及び薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂に関する専門研究 委員会には、厚生労働省の職員がオブザーバーとして、現場の薬剤師業務の実態を熟知している公益社団法人日本薬剤師会及び一般社団法人日本病院薬剤師会の 役員が委員として参画しており、例えば、新カリキュラムの作成に当たっては、現場の薬剤師業務の実態を踏まえた検討が行われ、実務実習において在宅医療に 関する薬剤師の業務を体験するなどの内容が加えられたところである。

七について

修業年限が六年の薬学部は、必ずしも薬剤師の業務に携わる者のみを養成するものではないことから、新カリキュラムについて、御指摘の「薬剤師養成教育モ デル・コアカリキュラム」という名称を用いることは適当ではないと考える。なお、新カリキュラムは修業年限が六年の薬学部についてのものであることについ て、大学関係者に周知してまいりたい。

引用元 http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b186099.htm

(2015.4.13)