2007年8月刊行
『ユモレスク』『回文兄弟』『あたしごっこ』『潮汐性母斑通信』収録歌に、その後の歌集未収録の歌も少し加えた。
●発行 沖積舎 03(3291)5891 ●定価3500円(税別)
●栞 平井弘 東郷雄二 佐藤弓生
●便利な索引付き(初句アイウエオ順索引・キーワード索引)
なお、表紙の絵は、母(広岡マリ)が描いたものです。このページ末尾にやや大きく画像を載せます。
p54 2首目末尾に「(ぼくたち)」とあるのはすぐ上の「家族」のルビでした。
漂流トランプ
とびはねて君がバナナをもぐたびにすすり笑う不憫な妹さん
どれも抱きたくない抱かれたがりもせずつぎつぎうさぎ うさぎ抱っこ会
おこるほど丁寧になる親戚の家にとまっておねしょしちゃった
仕方なく借りたぶかぶかスカートも足をいっぱい生やせば似合う
ひろげるとまんなかに目がひとつあるおかあさんもう朝だよ夜だよ
ひもとけば肩にさわらび萌えいづるハルマ和解っと小声で愛す
ふたつある眉べつべつに動きだしてしまうの 喫茶たいむましん
せっかくのカモメ眉のかど掻くだけで黙っていても憶説おじさん
それぞれが猫なでながらする将棋ときどき猫を交換する
鍵かけてうすやみ浮き輪をはめて弾くピアノのなかまで誰もいない
星が飛ぶこうして語る間にも目鼻飛び離れゆくいっしょうけんめい
やわらかい飛行機になって歩みよる従兄を目の力で転ばす
なぜわかってくれないのか みぶりてぶり三角波とはこういう波だ
指をつけると水面はおもしろがり 娘や今日はこっくりさんか
夕潮の浜に並ばせ 選ばれた順に漂流トランプとなれ
眠りながら口笛を吹くその深さを聖夜はぞっと兆すのだよ
お互いの臍からぐにゃぐにゃした刀をあああと引き抜きあってしまった
手があれば胸をこうしてばってんに押さえて飛び立つだろう飛行機
私の歌集の表紙には、最初の『ユモレスク』を除き、第2歌集からすべて母の絵を使っています。
たまたま、女性と鳥を描いた絵が家に二枚あり、 いつかこれをセットで歌集の表紙にと思っていました。
一枚は、小鳥にくちびるを寄せる女性。少しさみしそうな目をして、でも、かすかなほほえみをうかべているようにも見えます。
これはまあ、きれいな絵なんですが、もう一枚がすごい。
上の絵と同じ女性らしい人がひどく顔をゆがめ、左手で鳥の首をひっつかみ、右手の人差し指でニワトリの目をつぶそうとしている、とても気味の悪い絵です。
憎しみか怒りでぐっと細められている目。みにくいほど突き出したあごやくちびる。ハート形をした血の色のものが、涙か花びらのように散り、女性の胸には小さな青いおっぱいが透けています。
そして、肩のあたりにあるふたつの突起。よく見たらちっちゃい翼なんです。カビだらけのパンみたいな翼だ。翼がくさって縮んでしまっっている。
この絵はパッと見たとき、女性の赤い服以外は、なんとなく、地球儀の配色です。
背後の遺跡の寺院みたいな建物(空からみおろした姿)や、航空便らしい2通の手紙。これら、「空」を思わせるものたちの取り合わせ。頭上の鍋(?)、その中の字が書いてある卵(?)だか札(?)だかは意味不明。
読み解けない短歌みたいですが、この気味悪い絵を、私はとても気に入っています。