おならの詠み方
可哀そうだよズボンのおなら 右と左に泣きわかれ
屁をひつておかしくも無い一人者
※上記はどちらも、落語で聞いた都々逸と川柳。
おならは滅びに連想脈がある?
♥おならの歌イチオシ
乞食の充ち来る町を歩き行き、乞食の屁の音を 聞くはや
ルビ:乞食【コツジキ】乞食の充ち来る町を歩き行き、乞食の屁の音を 聞くはや
釈迢空『天地に宣る』
釈迢空『天地に宣る』
知人とおならの話をしたついでに、DB闇鍋で検索してみた。
「屁」または「おなら」を含む短歌は、闇鍋短歌データ95367首の中に13首あった。
こういう言葉を詠み込む人は複数詠む傾向があるのか、13首だが作者は10人だった。
(私のも2首含まれていて、なんだか申し訳ない……、って謝る必要はないけれど。)
■短歌
■短歌
●おならと滅びには連想脈でつながっていそう
●おならと滅びには連想脈でつながっていそう
交差点に尼僧が佇ちてしめやかに放屁をなさむ滅びの前夜
交差点に尼僧が佇ちてしめやかに放屁をなさむ滅びの前夜
水原紫苑
水原紫苑
(生きいそぎたくないねえ)山もこんびにもみんなおならだせいきのおわり
(生きいそぎたくないねえ)山もこんびにもみんなおならだせいきのおわり
望月裕二郎 『ひらく』2009
望月裕二郎 『ひらく』2009
死にながら暮れてゆく町の正しさを僕はエレベーターにて放屁
死にながら暮れてゆく町の正しさを僕はエレベーターにて放屁
望月裕二郎 『ひらく』2009『あそこ』2013
望月裕二郎 『ひらく』2009『あそこ』2013
●どかーん
●どかーん
公演の前日の夜の役者たち特大音で屁をしたりする
公演の前日の夜の役者たち特大音で屁をしたりする
千葉聡 「かばん」新人特集9802
千葉聡 「かばん」新人特集9802
ややしばし偉大な瞋りに打たれたる思ひぞ俺の屁の猛きかな
ややしばし偉大な瞋りに打たれたる思ひぞ俺の屁の猛きかな
島田修三
島田修三
剣豪のビヘイビア濃き晩秋に放つおならは大抜刀音
剣豪のビヘイビア濃き晩秋に放つおならは大抜刀音
高柳蕗子「かばん」2016.12
高柳蕗子「かばん」2016.12
●くさい
●くさい
空つぽの批評読みたるフンゲキは屁を凛然と放てば臭し
空つぽの批評読みたるフンゲキは屁を凛然と放てば臭し
島田修三
島田修三
馬の屁のやうな匂ひの風が吹きぽつりぽつりと雨が降り来ぬ
馬の屁のやうな匂ひの風が吹きぽつりぽつりと雨が降り来ぬ
時田則雄『ポロシリ』2008
時田則雄『ポロシリ』2008
いにしえの屁を手づかみ鼻にやり世の慣いとて臭き確かむ
ルビ:慣【なら】いにしえの屁を手づかみ鼻にやり世の慣いとて臭き確かむ
蔦きうい 作者のHP 自選短歌
蔦きうい 作者のHP 自選短歌
●そのほか
●そのほか
サルバドール・ダリと源内を等しくし放屁論二冊の埃揺がぬ
サルバドール・ダリと源内を等しくし放屁論二冊の埃揺がぬ
榛名貢『非言非黙 弐』
榛名貢『非言非黙 弐』
笑ってもいいかとまどう湯の中の放屁を原爆雲になぞらえ
笑ってもいいかとまどう湯の中の放屁を原爆雲になぞらえ
森本平『モラル』
森本平『モラル』
おじいさん鯨がお年玉だよと冥府の闇をおならしてゆく
おじいさん鯨がお年玉だよと冥府の闇をおならしてゆく
高柳蕗子(歌集未収録?)
高柳蕗子(歌集未収録?)
●狂歌
●狂歌
山住みは屁をひるのみか夜は猶くさきの風の音ばかりなる
山住みは屁をひるのみか夜は猶くさきの風の音ばかりなる
智恵内子
智恵内子
■俳句
■俳句
俳句は、古典では一茶、近現代の人では永田耕衣が面白かった。
俳句はあまりデータを持っていないため、以下は厳選した結果とはいえない。
●一茶
●一茶
ちる花を屁とも思はぬ御顔かな 御仏の鼻の先にて屁ひり虫
ちる花を屁とも思はぬ御顔かな 御仏の鼻の先にて屁ひり虫
虫の屁を指して笑ひ仏哉 馬の屁に吹き飛ばされし蛍かな
虫の屁を指して笑ひ仏哉 馬の屁に吹き飛ばされし蛍かな
馬の屁に目覚て見れば飛ほたる 屁くらべが又始るぞ冬篭
馬の屁に目覚て見れば飛ほたる 屁くらべが又始るぞ冬篭
屁くらべや夕皃棚の下涼み 屁もひらず沈香もたかず年の暮
屁くらべや夕皃棚の下涼み 屁もひらず沈香もたかず年の暮
垣外へ屁を捨に出る夜寒哉
垣外へ屁を捨に出る夜寒哉
●永田耕衣
●永田耕衣
炎天や十一歩中放屁七つ 『物質』
炎天や十一歩中放屁七つ 『物質』
春風や巨大放屁の物化はや 『泥ん』
春風や巨大放屁の物化はや 『泥ん』
蜜柑山飛天放屁もあるやらん
蜜柑山飛天放屁もあるやらん
白梅の放屁声をば拭うなり
白梅の放屁声をば拭うなり
● 正岡子規
● 正岡子規
取り落すおならかすむや春の月
取り落すおならかすむや春の月
香も焚かず屁もひらず春の日半日
香も焚かず屁もひらず春の日半日
成佛ヤ夕顏ノ顔ヘチマノ屁
成佛ヤ夕顏ノ顔ヘチマノ屁
●そのほかの俳句
●そのほかの俳句
放屁虫俗論党を憎みけり 高浜虚子
放屁虫俗論党を憎みけり 高浜虚子
放屁蟲エホバは善と観たまへり 川端茅舎
ルビ:善(よし放屁蟲エホバは善と観たまへり 川端茅舎
人口肛門(オストミー)のおなら優しき師走かな 秋元不死男
人口肛門(オストミー)のおなら優しき師走かな 秋元不死男
屁をひつて裾あふぎたる団扇かな 佐藤紅緑
屁をひつて裾あふぎたる団扇かな 佐藤紅緑
屁のやうな気炎が花鳥だと思ふ 筑紫磐井
屁のやうな気炎が花鳥だと思ふ 筑紫磐井
●竹の屁??
●竹の屁??
※竹の中の空気が気圧や温度で膨張するなどして、竹が割れてカンカンと音をたてることがあるそうです。そのことでしょうか?
竹の屁をちぇちぇくり聞くや西鶴忌 加藤郁乎
※ちぇちぇくる=〘自ラ四〙 ちちくる(乳繰) 用例:浄瑠璃・義経千本桜(1747)「若葉の内侍もチヱチヱくったな」(なお同じ意味の「ててくる」もあり、用例は浄瑠璃・夏祭「上に娘のおかちをててくり」竹の屁をちぇちぇくり聞くや西鶴忌 加藤郁乎
竹の屁を折節聞くや五月闇 榎本其角
竹の屁を折節聞くや五月闇 榎本其角
■川柳
■川柳
川柳は古川柳も含めてたくさんあるようです。
ただ、現代のおならの川柳はやや物足りない。
私の勝手な好みではありますが、これだ!というものに出会えませんでした。
おなら句のおもしろさでは俳句に軍配をあげたい。
●北斎
●北斎
誰が嗅で見て譬たか河童の屁 屁でもない事雪隠で考へる
誰が嗅で見て譬たか河童の屁 屁でもない事雪隠で考へる
木魂して天地にひびく井戸屋の屁
木魂して天地にひびく井戸屋の屁
●古川柳からいくつか
●古川柳からいくつか
屁の論で嫁一生の意地を出し はづかしさ悔しさ嫁の無実の屁
屁の論で嫁一生の意地を出し はづかしさ悔しさ嫁の無実の屁
なんじらは何を笑ふと隠居の屁
なんじらは何を笑ふと隠居の屁
●現代
●現代
僕は句を作り屁放虫死ねず 中村冨二『千句集』
僕は句を作り屁放虫死ねず 中村冨二『千句集』
次は→蛇口を捻って考える?
次は→蛇口を捻って考える?
2019.2.25 高柳蕗子