空よ海よ山よ

「空よ」「海よ」「山よ」という呼びかけで、ズバリ一番多く短歌に使われるのはどれだと思いますか?

2019年1月22日現在、データベース闇鍋のデータ数は134,718歌句。

うち短歌 94,963首

(俳句は26,344句 川柳は12,921句 ほか)

そのうち、「空よ」などと呼びかけた形の歌は以下の通り。

「空よ」16首(作者15人)

「海よ」11首(作者8人)

「山よ」3首(作者3人)

少しずつピックアップします。

♥お気に入り各1首♥

あけつぱなしの手は寂しくてならぬ。青空よ、沁み込め

前田夕暮『水源地帯』1932

※ 現代の人を選びたかったけれど、結局こっちにした。

海よ海よ われらをいまも胸に抱き傷なき断面のまことを見せよ

井辻朱美『クラウド』2014

※すっげー! かっけー!

海というどえらいものに「海よ」なんて呼びかけるなら、このぐらいのことを言わなきゃ。

つまらん歌は「おとといきやがれ」だ。と思っちゃうぐらい、かっこいい。

山よ笑え若葉に眩む朝礼のおのこらにみな睾丸が垂る

渡辺松男

※微笑ましいが、女子としてはやや不満。左右に手を広げるかたちのかわいい卵巣が見えないのか。

★空よ

かの空よ若狹は北よわれ載せて行く雲なきか西の京の山

与謝野晶子

ガウディの仰ぎし空よ骨盤に背骨つみあげわれをこしらふ

春野りりん『ここからが空』

菊に立つほのほは直く立つものを秋空よわれはほほゑみをらむ

ルビ:直(なほ)

坂井修一

少女神のブラウスとなる夏空よ鈍色の鳥のボタンならべて

ルビ:鈍色(にびいろ)

水原紫苑

できたての名詞のようなあやうさで静かにこわれはじめる空よ

東直子

★海よ

冬の皺よせゐる海よ今少し生きて己れの無惨を見むか

中城ふみ子『乳房喪失』

天守の窓にかならず開く 海よ この世に真一文字の不思議

井辻朱美『クラウド』2014

名も持たぬ流星すべり落ちてゆく海よ彼らの自慰をみていて

井上法子『永遠でないほうの火』2016

★山よ

「山よ」は3首しかなく、うち渡辺松男の1首は上のお気に入りに入れ、残りは2首。しかも1首は拙作ですが…。

すぽーつよ山よをとめよ音楽よ若うこの世は生くべかりけり

尾上柴舟『間歩集』

遠縁のおじいさんひとり住むという校歌のなかの秩父の山よ

高柳蕗子『潮汐性母斑通信』

■俳句

俳句と川柳は手持ちデータが少ないため、はっきりしたことは言えないが、俳句では「よ」という詠嘆はあまり使わないらしく、ほんの少ししかみつからなかった。

そして川柳はひとつもなかった。


その、ほんの少しも、あまり霊毛がそよがず(俳句素人なのにすみません)、以下2句だけあげておきます。


名残の夕陽ある淋しさ山よ 尾崎放哉



稻光


顏の山脈

瞳の海よ 高原耕治(多行句)

2019.1.22高柳蕗子