あんぱんを

どう詠む?

アンパンマンの短歌もあります

「あんぱん」と聞いた途端、

どこか頭のすみっこで、ほんのほんのかすかーに、

未生のこども、

的な方面に連想脈が刺激される気がして、

短歌を集めてみたのです。

えー、あららー? どうしてー?

はっきりそう詠んだ歌はなかった!

とっくにあると思ったけど、ないなら自分で詠めばいいのか。(笑)

本日のお気に入り

お急ぎの方はここだけでも!

あんぱんのあんを見て食ふ二月かな

(俳句) 阿部青鞋(1914 - 1989 )

あんぱんがたべたいひととあんぱんのあいだに物凄い滝がある

笹井宏之『てんとろり』2011

アンパンの幸福感をふくらます三分の空気と七分のアンコ

杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』

アンパンマンが飛んでいるので眠れない

(川柳)田中博造 『セレクション柳人田中博造集』

アンパンをくちいっぱいにほおばったやせたかなしいやなせたかしい

本田葵 「かばん」2019・8

(アンパンマンのほうに分類すべきか?)

神様またこんなところに肘ついて 桜あんぱん凹んでしもた

十谷あとり『風禽』2018


あんぱんを詠み込んだ短歌

さくらさくらふはりと降りてあんぱんの臍の窪みを湿らせ咲けり

川野里子 出典調査中

あんぱんが急に恋しくなる春昼ガリヴァー旅行記再読すれば

松村由利子 「詩客」 2013-03-29

もう二度と会えないけれどあんぱんの餡のうすむらさきたいせつに

村上きわみ 出典調査中

ゆく春のゆふべパン屋に売れ残るさくらあんぱんよもぎあんぱん

大口玲子『桜の木にのぼる人』2015

アンパンをくちいっぱいにほおばったやせたかなしいやなせたかしい

本田葵 「かばん」2019・8(アンパンマンのほうに分類すべきか?)

あんぱんのうへの桜の花びらがまるでおへそのやうにしよつぱい

目黒哲朗 「詩客」 2013-06-14

行列のできるパン屋のあんぱんへあともう一歩で目覚めてしまう

本多忠義『禁忌色』2005

アンパンの幸福感をふくらます三分の空気と七分のアンコ

杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』2010

神様またこんなところに肘ついて 桜あんぱん凹んでしもた

十谷あとり『風禽』2018

あんぱんがたべたいひととあんぱんのあいだに物凄い滝がある

笹井宏之『てんとろり』2011

君とわれ餡パン食ひつつ過去をいひこのあかときの晩年めける

安田純生 出典調査中

俳句

あんぱんのあんを見て食ふ二月かな

阿部青鞋(1914 - 1989 )出典調査中

あんぱんを落して見るや夏の土

永田耕衣(1900 - 1997 )出典調査中

あんぱんの葡萄の臍や春惜しむ

三好達治(1900- 1964 )出典調査中

川柳

アンパンをはんぶんこして負け組に

松木秀 出典調査中

アンパンの洞に最高責任者

平賀胤壽 「水摩」2008・12

アンパンマンを詠み込んだ短歌

あからひく朝の路上にころがるはアンパンマンの頭部なりけり

加藤治郎『噴水塔』2015

アンパンマンの顔のかけらが県道に落ちてゐるからすこし悲しい

喜多昭夫『早熟みかん』2011

高橋がアンパンマンの顔をしてエアーズロックで膝を蹴られる

西山ぜんまい 「早稲田短歌」43号 2014・3


「アンパンマン」は暴力的な詠まれ方をする傾向があるのか?


アン アン アンパンマン俺の中ではワルそうな奴がみんなともだちさ

斉藤斎藤『渡辺のわたし』2004

アンパンマンを怖がりし息子みづからを食わせてしまふ技を見てより

川野里子 出典調査中

夕焼けやなんのために生きるのとアンパンマンも問われておりぬ

東直子「短歌研究」2011・2


★川柳

アンパンマンが飛んでいるので眠れない

田中博造 『セレクション柳人田中博造集』

「未生のこども」 あたるも八卦的な推理

冒頭に書いた「未生のこども」というイメージは、現段階では、

次のような要素を混ぜあわせてむぎゅっと握り固めたとき、たらっとこぼれる一滴、

というぐらいの淡いものだと思います。

・【視覚からの連想1】餡の質感や色 &【同音シフト連想】アンが「暗」に通じる

→餡は闇を煮詰めたものみたい

・【視覚からの連想2】 構造が卵みたい※ &【観念的連想】臍がある→血縁

※(白身と黄身/パンと餡)

→命への連想 臍のある卵 →「未生のこども」

(臍のないあんぱんも実際には多いが、詩歌としては「臍」を重視しちゃう)

これは、現段階では、ハッキリ考えることではなく、

うっすらもやもやと生じそうにはなるが明確化はしないでとどまる、

--そのぐらいの淡さのイメージだと思います。

でも大勢が「あんぱん」の歌を詠んでいくうちに、いつかだんだんと

この方面への連想脈は濃くなっていくのではないかなあ。

(濃度という語がありますが、淡度もあっていいなあ。)


2019・8・15 高柳蕗子

データはなかなか出典を確認できず、ときどき間違いがあり、常に点検し続けていますが、追いつかないのが実情です。上記の歌句を引用する際は、なんらかの方法で表記等を確認してください。

追記

おまけ:あんこ

短歌

黒や茶の餡こをきつと宿したるいとほしく白きモナカとねまる

※ねまる=だまってすわる、くつろぐ

雨谷忠彦「かばん」2004.6

県庁の人も山形訛りにて黒胡麻餡のくず餠をすすむ

小島ゆかり『憂春』

少し軽く生きんとおもう餡ぬきの饅頭のような雲浮くかなた

杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』

お正月明けの職場は全国のあんこやラングドシャの香のなか

田村元「詩客」2013-03-08

橋を渡る娘たちはみな髪をまとめくずもちの中のあんこのごとし

小川佳世子『ゆきふる』

俳句

厚餡割ればシクと音して雲の峰 中村草田男

川柳

味噌餡は葉裏包みや柏餅 時実新子

たましいに鯛焼きの餡付着する 樋口由紀子『容顔』