美味いか不味いか?

「うまい」「まずい」を含む歌を集めてみました

●食べ物が「うまい」(or「おいしい」)「まずい」という語を含む歌句を抽出した。

※「うまい」は、「美味」という意味以外のもの(熟寝、上手、美しい等々)を除外。 「まずい」も同様に、意味の違うものは取り除いた。 ※食べ物をうまそうに描写しても、「うまい」と言わなければ抽出しない。 たとえば「舌に溶くるトマトーの色よ匂ひよとたべたべて更に飽かざりにけり」( 若山牧水)は含まれない。

●本日の「闇鍋」データ総数13229(短歌98,027、俳句27,615、川柳13,080 ほか)

うち、「うまい」は119、「まずい」は24。

圧倒的に「うまい」が多かった。

以下の歌句の並び順はほぼ見つけた順であり、意味はありません。

ピックアップ★忙しい人はここだけでも

■■うまい・おいしい■■

保守的に炊くとおいしいコシヒカリ

(川柳)松木秀

夏の夜のカレー三杯食べてのち寝言にもわれは「うまし」と言ひき

田村元『北二十二条西七丁目』

おいしいねきつねうどんはおいしいね迷子のやうにいま湯気のなか

川野里子「短歌」H23/1

電車の外の夕方を見て家に着くなんておいしい冬の大根

永井祐『日本の中でたのしく暮らす』

発売の初年のころは本当に喉に美味かったスーパードライ

ルビ:美味(うま)

奥村晃作

なんでこうつららはおいしいのだろう食べかけ捨てて図書館に入る

雪舟えま『たんぽるぽる』

消音銃を沈めてうまい珈琲だ

(川柳)定金冬二『無双』

落とし穴の空気がうまいのも困る

(川柳)須田尚美『自画像』

■■まずい■■

土を掘ればコロボツクルの死にかけが差し出すまこと不味さうな菓子

和里田幸男

浅漬もさう切ったのはうまくなし

(古川柳)

★以下詳細★

「うまい」「まずい」を含む歌句全部だと多すぎるので、半分ぐらいにしました。

ご飯

●イチオシ

保守的に炊くとおいしいコシヒカリ

(川柳)松木秀

山薊のかて飯うましふうふうと吹きさましつつ妻として食す

前田夕暮『耕土』

美代子さんのけさ食む飯も喜世子さんのけさ食む飯も米はうましも

ルビ:飯(いい)

森本平『橋を渡る』

天高々としてごはんがおいしくて

(俳句)澤田和弥

かくしつゝ我は痩せむと茶を掛けて硬き飯はむ豈うまからず

ルビ:硬(こは)

長塚節

カレーなど(ご飯物料理)

●イチオシ

夏の夜のカレー三杯食べてのち寝言にもわれは「うまし」と言ひき

田村元『北二十二条西七丁目』

★★カレー★★

初めての親父の受け売り「カレーはさ男が作ると美味いんだよ。」

植松大雄

一人でも暮らしていける気がしてるカレーの作り置きは美味しい

中川聡「早稲田短歌」43号2014.3

カレーライスがうまくて死ぬるのはやめた

(川柳)定金冬二『無双』

寝かせても不味いカレーと意識した途端に痒くなる虫刺され

柴田瞳

★★カレー以外のご飯もの★★

十六夜亜細亜のおこげ美味かりし

(川柳)きゅういち

テラス席が人気で、パエリアが美味しくて しかし二年後の客は、雨・風・霧などでせう

松平修文『トゥオネラ』

それなりにおいしくできたチャーハンに一礼をして箸をさしこむ

笹井宏之『てんとろり』

君と食む三百円のあなごずしそのおいしさを恋とこそ知れ

俵万智『サラダ記念日』

ああこれを茂吉好みき納豆にからまるもちひ食へばうましも

本田一弘『眉月集』

真理も美もなく意味も目的もないがとりあえず牛丼卵つき生姜のせはうまくそれはさびしいことなのか、神よ

フラワーしげる

←←← 私が神なら「いいから、味わって食べなさいよ、ほら、こぼさないで」とか言いそう。(笑)

パン

●イチオシ

砂糖パンほんとおいしいと川のほとり草の上こゑを揃へて言ひき

小池光『思川の岸辺』

新しいパン屋のパンが美味かったような小さなしあわせでいい

松木秀『RERA』(4)

ひとの幸せを願へぬといふ罰ありきメロンパン口に乾きやまずき

染野太朗「詩客」

あのまずいハンバーガーをもう一度食べておくべきだろうドムドム

穂村弘「忍者部隊月光」角川「短歌」2014/11

麺類

●イチオシ

おいしいねきつねうどんはおいしいね迷子のやうにいま湯気のなか

川野里子「短歌」H23/1

電話にてカルボナーレ作りしと言うおいしそうなり母のカルボナーレ

「レ」に傍点

前田康子『黄あやめの頃』

無灯火でひやむぎをくう誰一人尋ねてこないがこれはうまい

凌山清彦2015/3「かばん新人特集号」

きみとならもっとおいしいサイゼリヤのパスタを食べるずっと先まで

阿波野巧也 作者ブログ

鰊そばうまい分だけ我は死す

(俳句)永田耕衣

肉・魚介系

●イチオシ

おいしい唐揚げもいかがですかと問われて全体重をかけて「いらない」と答える

倉阪鬼一郎『世界の終わり/始まり』

たのしみはまれに魚煮て児ら皆がうましうましといひて食ふ時

ルビ:児(こ)

橘曙覧『橘曙覧遺稿志濃夫廼舎歌集』

こころざしなどたましひの他なればうまし鉛色の生牡蠣が

塚本邦雄『獻身』

懸命に釣った魚はおいしくてもらいし大魚はそう旨くない

武富純一『鯨の祖先』

悪相の魚は美味し雪催

(俳句)鈴木真砂女

早吸の瀬戸に揉まるる関アジの美味なるかなや秋日和かな

田原久美子

鬼怒川のやまべ燒串うまけれどこゝろなの人やけふ持ちて來し

長塚節

イモムシは食べられませんでもエビならおいしく食べることができます

ながや宏高「かばん新人特集号」2015/3

野菜系

●イチオシ

電車の外の夕方を見て家に着くなんておいしい冬の大根

永井祐『日本の中でたのしく暮らす』

群馬からくるかつぎ屋を待ちて買う木枯漬という沢庵うまし

久々湊盈子『風羅集』

上州よこんにやくを自慢するなかれ日本中どこにもうまいのがある

土屋文明

待ち合わせもろくにできない 茄子がまずい 君に会いたい 茄子が食えない

石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』

初午や煮しめてうまき焼豆腐

(俳句)久保田万太郎

今日は晴れトマトおいしいとか言って

(俳句)越智友亮

下界はやみつばうまくて知人働らく

(俳句)阿部完市

漬物がおいしいという憎い死者

(川柳)定金冬二『無双』

浅漬もさう切ったのはうまくなし

(古川柳)

果物

●イチオシ

桜島山体膨張説あれどふもとに実るデコポンうまし

高野公彦『無縫の海』

柿の実のあまきもありぬ柿の実のしぶきもありぬしぶきぞうまき

正岡子規

垣の外になめて植ゑたる柿の木のうまし木の實のともしきろかも

※ともしきろかも=「ともし」心引かれる 。「ろかも」…よ。…なあ。 『万葉集』に「悲しきろかも」「尊きろかも」「乏しきろかも」等の用例あり。

長塚節

朝食用冷蔵プラムを食べましたおいしく甘く冷たくゆるして

望月裕二郎『ひらく』

蚊にさされたるところちさき桃となりおいしさうに君のふともものうへ

渡辺松男『蝶』

大熊の梨うまかりき過去の助動詞「き」にて言はねばならぬなにゆゑ

本田一弘『磐梯』

嫌な音させてスイカが割れましたとは書きません 美味しかったです

東直子「早稲田文学」2017女性号

塩水で色止めをするあやうさに人を恋いたり 不味いりんごだ

染野太朗「詩客」

西瓜美味しむかしむかしターザンは

石田柊馬

お菓子類

●イチオシ

土を掘ればコロボツクルの死にかけが差し出すまこと不味さうな菓子

和里田幸男

夜、歯磨き直後のチョコレートめっちゃうまいまた歯を磨いて寝る夜

石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』

あの、思ひ出すと少しく胸傷むホットケーキさおいしかつたね

高木孝『地下水脈』

噛み切ってあけてくれたプレミアム柿ピーもどき不思議に激不味

杉山モナミ YouTube

コーヒー

●イチオシ

消音銃を沈めてうまい珈琲だ

(川柳)定金冬二『無双』

喫茶部のツンとすました女故またコオヒイのうまき味かな

ルビ:喫茶部(きつちやぶ)、故(ゆゑ)

小熊秀雄(北海ホテル茶房にて)

卓の下に長い脚組むフラミンゴ 東京の珈琲はおいしいですか

杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』

不味いコーヒーも不味いチョコレート・ケーキも忘れがたく、憎まれ口をたたく女主人も

松平修文『トゥオネラ』

酒類

●イチオシ

発売の初年のころは本当に喉に美味かったスーパードライ

ルビ:美味(うま)

奥村晃作

手を裂きて送るに北の酒うまし誰ぞや蒙古へ明日入ると云ふ

与謝野鉄幹『紫』(難波葦涯に与ふ)

ニヒリズムの媚薬とわれらいいつのり昨日ひれ酒うまかりしかな

佐佐木幸綱『アニマ』

しのぶれど色に出でにけるわたくしと飲む焼酎はおいしいですか

鯨井可菜子『タンジブル』2013 タンジブル

銅と同じ冷たさ帯びてラムうまし。どの本能とも遊んでやるよ

千種創一『砂丘律』

玉子酒まずいです休みます寝ます

(俳句)福田若之『自生地』

●イチオシ

闘ひはいつでもやるぞといふ時は水がおいしく食べられるなり

前川佐美雄

ジャージだと汗をかくのはあたりまえだ水道の水がいちばんうまい

フラワーしげる『ビットとデシベル』

こんなにうまい水があふれてゐる

(俳句)種田山頭火

茶など

●イチオシ

私だけおいしいお茶を飲んでいる

(川柳)竹井紫乙

ミッキーのマグカップにて飲むお茶の微妙かつ不可思議に不味いよ

松木秀『5メートルほどの果てしなさ』

まずかった気がするお茶はいま飲むとやはりまずくて飲む いとおしい

柳谷あゆみ『ダマスカスへ行く 前・後・途中』

身体部位

右目より左目うまいと呟く鴉

(川柳)湊圭史

共食いに食い残されし蟷螂の頭は固いのかまずいのか

杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』

嘴を鳴らす人肉美味きかな

(川柳)古谷恭一「バックストローク」14号

その他のもの

●イチオシ( なぜか二つ)

なんでこうつららはおいしいのだろう食べかけ捨てて図書館に入る

雪舟えま『たんぽるぽる』

落とし穴の空気がうまいのも困る

須田尚美『自画像』

路地に降る雪はおいしいおばあが炊いたおかゆさんほどほかほか白い

笠井烏子

おいしいにおもしろくないをふりかける (初めまして)はややぎこちなく

杉山モナミ ブログ「b軟骨」

奇蹟的なきみの料理だ。湯気のない。とてもきれいだ。すごくまずいよ。

柳谷あゆみ『ダマスカスへ行く 前・後・途中』

200円でおいしいものを手に入れろ 残暑のゆれるところをすすむ

永井祐『日本の中でたのしく暮らす』

「ねえ何がおいしかった?」と日本の友はまず訊く帰国の我に

俵万智『かぜにてのひら』

ぎやうさんで食ふめし美味し老健にたしかにあつた「みんなで食べる」

池田はるみ

うまきもの食はまく思はば何よりも 身をすこやかに持つべくありけり

伊藤左千夫

おいしいの苦い光がおいしいのめだかは空にえさをまかれて

雪舟えま『たんぽるぽる』

堕天使を急速冷凍して砕く きっとシャーベットとして美味い

松木秀『親切な郷愁』

プレヴェール忌忘るるころに「おゝバルバラ、戦争(いくさ)とは何とおいしいものだ」

塚本邦雄「短歌研究」平成8年5月

たまに犬がすごく美味しそうに見える区境の森を夕方行けば

岡崎裕美子『わたくしが樹木であれば』

見るうちにうすれていった尾根の霧ここの歯磨き粉おいしいね

沼尻つた子「詩客 」

綿飴かい うんにや、ひとだま 石垣をふはり越ゆるはほんに美味さう

小黒世茂『雨たたす村落』

つくづくと芽のものうまき五月来ぬ

(俳句)矢島渚男『冬青集』

そこなのね私のおいしいところ

(川柳)八上桐子

2019年7月17日 高柳蕗子