童話

「童話」という語を詠み込んだ歌

& オマケの王子様

♥特にお気に入り♥

眠られぬ母のためわが誦む童話母の寝入りし後王子死す

ルビ:誦【よ】

岡井隆

大文字ではじまる童話みるように飛行船きょうの空に浮かべり

杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』

表紙見ただけで涙が出る童話と同じ第一印象のひと

雪舟えま『たんぽるぽる』

ゆく春の童話をひとつ閉じるときあなたの猫背が天体になる

藤本玲未『オーロラのお針子』2014


◆川柳

動物がいない童話を読まされる 前田まえてる

宇宙駅に着きし童話の少年を慕へば夕べの星生れてくる

春日井建

アンデルセンのその薄ら氷に似し童話抱きつつひと夜ねむりに落ちむとす

ルビ:氷【ひ】

葛原妙子『橙黄』1950

風吹けばまたいそいそと桶作る童話のごとき人生でよし

谷岡亜紀『アジア・バザール』

途方もなく夢ある童話つづりたくこの夜心に組みたててゐし

高瀬一誌合同歌集『飛天』

童話のような月溺死する真昼なりわたしの耳を受けし嬰児

江田浩司

熱を出し寝込んだ俺のため兄が買ってきてくれた『ラング童話集』

千葉聡『海、悲歌、夏の雫など』

日暮れからはじまる世界といつわりの童話を綴るホスピタリティ

風野瑞人「かばん」2018・6

長靴でゆけば愉しき童話めき雪のなかに郵便局ある

小島ゆかり『ヘブライ暦』

◆俳句

(俳句では「童話」という語をあまり使わないようで、用例が少なめ。)

僕が主人公の童話を語る冬薔薇 林桂

◆川柳

(川柳では「童話」はわりと人気語みたいで用例は多め)

別れねば駅の童話は冷えやすし 中村冨二『千句集』

童話のページ深くて桃は冷えており 倉本朝世


◇ここから下の川柳は「川柳おかじょうき」HPデータベースより

ポケットの穴から童話ころげ出る 山田茂夫

2010年01月 第14回杉野十佐一賞

半身は童話の中に置いてきた 如月烏兎羽

できたての童話のように抱きあおう 八戸むさし

風は童話に童話は風にホームレス 福井陽雪

2019年1月17日

残酷な童話は語り尽くしたと足腰伸ばすあたしの老婆

高柳蕗子『あたしごっこ』

オマケの王子様

童話に出てくる人を詠む歌もついでにさがしてみたら、なぜか「王子」を詠む歌が多いことに気づきました。

上の「童話」アンソロジーにも、「眠られぬ母のためわが誦(よ)む童話母の寝入りし後王子死す(岡井隆)」がありましたね。

「王子」を詠み込む歌は、(童話の王子とは限らないけど)闇鍋短歌データ94800首中に40首もあるのに対し「王女」は10首しかなかったのでした。

気に入った歌を少しピックアップしておきます。

祖母の家の北向きの部屋に積まれいし絵本の中の王子の匂い

俵万智『チョコレート革命 』

夢の挿絵に王子あゆめり鳥籠のような肋に砂は降りつむ

ルビ:肋【あばら】

加藤治郎『昏睡のパラダイス』

すこしずつ手首足首ずれてゆき空にしぼんでゆく王子さま

東直子『青卵』

人魚姫と王子が出逢うその脇でわかめになってそよぐわたくし

入谷いずみ『海の人形』

卵生の王子なるらむ尾や鰭や羽に埋もれて羞しく睡れ

ルビ:羞【やさ】

須永朝彦 ブログ「明石町便り」2012年7月より


ーー王女の歌は、これだ!というのがなかったので省略。


◆王子と王女の歌

月寝ねしのちの沙漠をなおゆける骨ゆらゆらと王子王女は

ルビ:寝【い】

佐藤弓生『モーヴ色のあめふる』

安売りのキャベツめがけてふってきた流星王子/流星王女

笹井宏之『てんとろり』

高柳蕗子