皮膚は

どう詠まれる?

データベース闇鍋で、「皮膚」という語を含む歌句を探してみたところ、

短歌98、俳句3、川柳2が見つかりました。これはずいふんと偏った結果です。

闇鍋には、短歌 94,963首 、俳句26,344句 川柳12,921句 その他が収録されています。

「皮膚」を詠み込む頻度は、短歌では969首に1首、俳句は8781句に1句、川柳は6460句に1句。

「皮膚」ってなぜこんなに俳句に嫌われているの?

♥お気に入り♥

鳳仙花うまれて啼ける犬ころの薄き皮膚より秋立ちにけり

北原白秋『桐の花』1913

取りこんだ布団の上であすの皮膚みたいなセロハンテープを剥がす

藤本玲未『オーロラのお針子』2014

足袋ぬげば春の皮膚と我が素足もつれあふこそわりなかりけれ

木下利玄

挽歌・相聞歌の異なりをにじみゆく戦のように皮膚を開いた

瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end,』2016

歌っても皮膚に止まることはない感情、それを花野へ逃がす

堂園昌彦『やがて秋茄子へと到る 』2013

花粉にうるむ春空のしたやつて来るあなたは一枚の皮膚につつまれ

林和清『匿名の森』2006

つややかなつぼみの皮膚は咲いたなら顧みられぬ裏側になる

俵万智『かぜのてのひら』

KANTOH平野の遠くが見えなくなってゆく雪の日はだれも皮膚からねむる

井辻朱美

オランダの霧ふかい橋を発つ新聞紙ガイアの皮膚のささくれとして

井辻朱美

カリフラワー色の五月にわれわれは皮膚そのものを肌着としよう

杉山モナミ 「かばん」新人特集号1995.10

シャープペンシルかたむけるたびアメリカのあたらしき皮膚かたかたにおう

佐藤弓生『薄い街』

散髪をおえてみなみに吹かれゆく生きていることは皮膚からわかる

杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』

出社すればみな驚くに内臓をたばねて俺の冷えた皮膚あり

加藤治郎『昏睡のパラダイス』1998

新らしき皮膚の痛みかたましひの心の汗より来るなげきか

ルビ:痛【いた】 心【しん】

北原白秋『桐の花』1913

人恋ふはあやむるに肖つ洗はれて皮膚漆黒に冴ゆる野の馬

塚本邦雄『歌人』1982

青春は一刻にして永遠と思ふ大理石の皮膚老ゆるを知らず

春日井建

赤く湿疹した都会の皮膚にゐて、ひたすら繁殖しやうとするものとするもの

前田夕暮『水源地帯』1932

年々に地図のようなるわが皮膚に層なしていく地続きのこころ

柳谷あゆみ『ダマスカスへ行く 前・後・途中』2012

皮膚がみな耳にてありき/しんとして眠れる街の/重き靴音

石川啄木『一握の砂』

皮膚すこしあざみに破り冬の野の生きて渇けるなかへ入りゆく

小原奈実「穀物」第3号

抱きあってどうすることもできなくて皮膚にくるんでいる身体たち

東直子「短歌研究」2011.5

◆皮膚病をなにかに見立てる

家族の誰一人も顧みぬままにアトピー性皮膚炎の白桃

塚本邦雄「短歌研究」1996.5

〈俳句〉アトピー性皮膚炎のわが月見草

高野ムツオ

〈川柳〉紅葉の具合を見せに皮膚科まで

丸山進『アルバトロス』

2019年1月30日 高柳蕗子