俗信迷信

ミニコレクション

昔の「かばん」(1997年1月号)に書いた編集後記です。

当時、俗信迷信の本をコレクションしていて、大きな重たい本を神田で買って帰宅した。

よっこらしょ! その場面から始まります。

どでかい『故事俗信ことわざ大辞典』をずっしりと、あぐらをかいた足にのせ、パッと開いたところを読む。

ぷふ、なんだこりゃあ。


便所に唾を吐いてはいけない。なぜなら、便所の神様は、小便を右手で受け、大便を左手で受けるので、唾は受けるところがなく、口で受けてしまうから。


ああ誰かと掴みあって笑いたい。ーーでも私は忙しいんだっけ。おーい、助手!

と、高校生の助手君を呼ぶ。

「この本から君のセンスで面白い俗信を選んで、オアシスポケットで入力してちょうだい、ママは『かばん』の編集後記を書かなきゃ。」

※オアシスポケット=当時の小型ワープロ。外出のお供だった。


ところが助手は著が転がっても笑う年頃で(あれは女だけか)、入力している別室から聞こえるゲラゲラ笑いが途切れない。

ときどき我慢できずに飛ぴ出してきては笑い崩れる。ーー結局ママはちっとも編集後記が書けなかった。

助手君が入力したのを分類しながら読んでみた。

①「◯◯は吉」「◯◯は凶」等の占い型

・蹄鉄を捨ったら吉

・眉のとれた夢は凶

・ヤモリを踏む夢は八日長生き

②「◯◯のときは△△になる」という予言型

・蜻蛉が家に入ると雨になる

・眉の毛に長い毛の出ている者は長命·

・眉と眉の間の狭い者は近所に嫁ぐ

③「◯◯のときは△△するとよい」というおまじない型

・しびれが切れたら足の裏に「金」の字を書く

④「◯◯すれば△△になる」という形の肯定型

・便所で歌を歌うと上手になる(插州、赤糖)

・死んだ蛇を埋めると歯が丈夫になる

⑤「◯◯するな」(なんでだよー!.)

・白い馬に歯を見せるな

⑥「◯◯すると△△になるぞ」という脅かし型

・便所で歌を歌うと声が悪くなる(神奈川県)

・皿で水を飲むと垂れ流しの病になる

・焼け著で食べると出世できない

・塩を井戸に入れると失明する

・二階から小便をすると火事のとき腰が抜ける

・死んだ蛇を指さすと指が腐る

・自分の箸をこがすと人から難題をかけられる

・鵺の鳴きまねをすると火事になる

・葬式で後ろを向くと死者が地獄に落ちる

・女の子が口笛を吹くと髭が生える

・ためいきをつくと親の寿命が縮む

⑦その他(主にすごく有用な知識)

・死人が夢でものを言うと生まれかわって来る

・死人に猫が近づくと踊る(どっちが?)

・家に蛙がいると火事にならない

・猫が戸を閉めるようになると化ける

・掌に九の宇を書いておくと蜂に刺されない

・ビワは植えた人の生きているうちはならない

・いちじくを便所のそばに植えると痔にならない

・身投げの死体を拾うとよく魚がとれるが、無言で捨ってはならない

・馬糞を踏むと背が高くなる

・死んだ蛙はオオバコの葉で包んでおけば生き返る

・蛙の油を灯してみると人の顔が長くみえる

・目の腫れ物は流しの窓からにぎり飯をもらって食えばなおる

普通の俗信は、例えば「枕を踏むと頭痛持ちになる」ぐらいに、◯◯と△△が「付きすぎ」が多いが、助手君は右のように、ずいぶん面白いものを選んでくれた。

次にあげるのは、◯◯と△△が意外だった逸品。

下句を作のてみて本物と出来を競いたい人のために、本物の下句は末尾にまとめた。

1 蛙の皮を三年剥いてやるとーー

2 梅干しを投げるとーー·.

3 ご飯に砂糖をかけて食うとーー

4 妊婦が鳩を食べるとーー

5 妊婦がはまぐりを貴べるとーー

6 赤ん坊に鏡を見せるとーー

■下句

1 忍術を教えてくれる

2 霧が晴れる

3 破産する

4 口から生まれる

5 その子供が舌を出す

6 次の子が早く生まれる

新年おめでとうございます。みなさまは縁起のいいお正月を過ごされましたか。

次の、正月にまっわる百い習わしでチェックしてみてください。

・お屠蘇を飲むと長生きする

・煮豆を食えばまめになる

・元日にミソサザイを見ると縁起がよい

・正月に神社に参拜する往復の道で扇子を拾うと幸運

・門飾りの橙を盗むと運がむく

・元日初めに女の人を見ると験が愿い

・元日初めに男の客は総起がいい

・元日に泣くとー年中泣く

・元日に針を使うな

・元日に掃除すると福の神が逃げる

ーーいかが?


「めでたい」という言葉が好きだ。物事はめでたく、つまり祝うべき方向で成そうよ!

例えば昨年は退会した人が多かったが、退会だって「めでたい退会」であってほしい。 (高柳)

※当時高校生だった助手くんは、もう三十代後半で一児の父になりました。

2019.3.28